第9話 グレース・フォンテーヌ①

私は貴様にも言った通り、フォンテーヌ家の長女だ。つまり、父上の後継ぎというわけだな。女が後継ぎになれるのかって?人間のつまらん尺度で語るな。我々の中ではそんなものは関係ない。...話を戻そう。私は次期当主なのだから、当主としての立ち振る舞いを知っておく必要があった。世間で教養と呼ばれていたものはほとんど学んだつもりだ。だから、父上に頼み込み、一人の兵士としてあの戦場へ行ったのも、当主として、学ぶべきことがあると思ったからだ。民とともに戦うことで、得られるものがあると思ったからだ。...だが、私のことを兵士として見ていた者は誰もいなかった。






「どこへ行かれるのですかグレース様!」

兵士らしき獣人がグレースを追いかけている。鎧が重いのだろう、軽装のグレースにどんどん差を離されてしまっていた。

「無論、父上のところだ!今日の戦場での私の配置について文句がある!」

彼女はそう言いながら、ずかずかとテント群の中を歩いてゆく。そしてそのテントの中でもひときわ大きなものに入っていった。

「父上!」

グレースは前方に座る白髪で初老の獣人、リアス・フォンテーヌに向かって叫んだ。

「申し訳ありませんリアス様!」

後ろから先ほど追いかけていた兵士が息を切らしながら入ってくる。

「構わんよ。それよりもグレース、これを見てみろ」

彼の手には奇妙なものが握られていた。

「人間側の拠点から手に入れたものだが、”電話”とゆうそうだ。なんでも、ある程度の距離なら離れていても会話ができるとか...」

「いい加減にしてください!」

グレースは腕を横に振り、訴えるように話し始める。

「今日の私の持ち場はどうなっているのですか!待っていても人間なんて一人も来ない!鳥が何匹か飛んできただけです!なぜ私を、もっと戦いの起きている場所へ派遣しないのですか?」

リアスは苦い顔をし、電話機を従者に預けると諭すように言った。

「グレース。わかっているだろう?お前は後継ぎだ。いくら兄弟がいるからといえ、お前を無下にすることはできん。まして、命の奪い合いをする戦場など..」

「なら!兵士が死んでいくのをただ見ていろというのですか!父上が戦場へ行かないのも、死ぬのが怖いからなのですか!」

「っ!グレース様!」

見かねた兵士の一人が発言を撤回させようとする。それをリアスは片手をあげて制止した。

「....10032人だ」

「...何の数字ですか」

予想しない答えに、思わずグレースは聞き返す。

「私が監督してきた戦場でこれまでに死んだ者の人数だ。私は今まで数え損なったことは無い」

「なっ...」

絶句するグレースを見つめながらリアスは続ける。

「確かに私は命を懸けていないかもしれない。だが、兵士には兵士の、私には私の役割がある。なら私のするべきことは何だ?それは、忘れないことだ。祖国のために散った者たちの無念を、後悔を、涙を、生者へつなぐことだ。...グレース、お前の役割は何だ?」

「私の役割は...」






私は答えられなかった。もしあそこで答えれていれば、ここにはいなかったかもしれない。もしあそこで”自分は兵士”だと己を貫き通せていれば、結末は変わっていたかもしれない。もう後悔しても仕方のないことだが...

私が答えを出せなかった日、その三日後に人間の反撃が始まった。我々は人間側の圧倒的数量と圧倒的物量に押され、遂には...壊滅した。




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