第28話:医療の産業化(ヘルスケア・エコノミクス)

 鉄道の敷設作業が過酷さを増す中、現場では事故以上に「風土病」が猛威を振るい始めた。これまでの世界において、病とは神殿の「回復魔法(ヒール)」によって癒やすものであり、それは貴族や富裕層のみが享受できる高価なサービスだった。

「リヒト様、作業員の三割が発熱で倒れました。神殿に治療を依頼しましたが、金貨一枚で一人しか救えないと言われ……。このままでは工事が止まってしまいます」

 クロエの切実な訴えに、リヒトは神殿から提示された請求書を「鑑定」した。

【対象:回復魔法の価格構成】

【原価:術者の魔力(微量)、儀式用の香料】

【粗利益:98%(独占的暴利)】

「……信仰を盾にした独占禁止法違反ですね。クロエさん、今日から『魔法』に頼るのをやめましょう。僕たちは『薬学』という名の化学投資を行います」

 リヒトは、特許権制度を利用して大陸中の薬草学者の知識を集約。特定の薬草から成分を抽出し、誰でも安価に使える「錠剤」の大量生産ラインを構築した。

「神殿の魔法は一回きりの救済ですが、僕たちの薬は『1エリスで千人を救うインフラ』です。健康を贅沢品から消耗品へ。これが労働力の価値を最大化する最短ルートです」

 安価な薬の普及により、現場の復帰率は劇的に向上。神殿の権威は「経済的合理性」の前に、また一つ崩れ去った。

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