第16話:再会と格付け(クレジット・スコア)
かつてのリヒトの故郷、バルトレイ領。
そこは今や、リヒトが導入した「魔導銀掘削機」と「効率的物流網」により、王国で最も豊かな『モデル都市』へと変貌を遂げていた。
その街の片隅、薄暗い路地裏の炊き出し所に、一人の男が並んでいた。
泥にまみれた貴族服、手入れのされていない無精髭。かつての傲慢な次期公爵、ゼノスである。
「おい、次だ。……おい、聞いてるのか!」
係員の怒鳴り声に、ゼノスはビクリと肩を揺らし、震える手で木皿を差し出した。
その時、炊き出し所の前に、静かに黒塗りの豪華な馬車が止まった。
「……ゼノス様。ずいぶんと『清貧』な生活を送られているようですね」
馬車から降り立ったのは、仕立ての良い漆黒のスーツを纏ったリヒトだ。
その隣には、バルトレイ商会のCEOとして凛とした美しさを放つクロエが控えている。
「リ、リヒト……! 貴様、私を嘲笑いに来たのか!」
ゼノスがスプーンを投げ捨て、形ばかりの怒声を上げる。
だが、リヒトの瞳には、ゼノスの現在の「価値」が冷徹な数字で浮かんでいた。
【個体名:ゼノス・バルトレイ(元貴族)】
【現在資産:銅貨三枚】
【社会的信用(スコア):0.002点(ミミズ以下)】
「嘲笑う? いいえ、とんでもない。僕は鑑定士です。価値のないものに、感情を割くことはありません」
リヒトは無造作に、一通の書類を差し出した。
「ゼノス様。あなたに、最後の『再就職先』を用意しました。我が商会が直営する、北部の魔導銀鉱山です。……あそこは現在、人手不足でしてね」
「な……私に、あんな汚い穴蔵で働けというのか! 私は公爵家の血を引く男だぞ!」
「血統ですか。……鑑定結果、あなたの血に含まれる魔導適性は、平均的な平民の半分以下です。つまり、労働力としての価値以外、あなたには何も残っていない」
リヒトは、ゼノスの足元に転がった木皿を一瞥した。
「そのスープの代金も、僕が支払った税金から出ています。……働かざる者、食うべからず。それが僕の作った新しい王国の『会計原則』です」
ゼノスは、かつて自分がリヒトを雨の中に放り出した時のことを、嫌でも思い出していた。
立場は、完全に逆転した。
「……嫌なら、どうぞ。ですが、あなたの信用スコアでは、この街のどの宿屋も、パン屋も、あなたを顧客として認めませんよ」
リヒトの指先一つで、ゼノスは社会的に「透明な存在」にされたのだ。
ゼノスは絶望に顔を歪めながら、泥にまみれた契約書を拾い上げた。
「……さて、クロエさん。不良在庫の処理(ゼノスの処分)も終わりました」
リヒトは馬車に戻り、窓の外に広がる、自身が作り上げた「数字で管理された平和な世界」を見つめた。
「次は、この大陸全体の『連結決算』を行いましょうか」
【ゼノス:鉱山労働者(最低賃金)へ採用】
【リヒトの視線:世界統一市場の創出へ】
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