数字(ログ)は嘘をつかない 〜無能だと追放された鑑定士、実は国家予算を視ていた。粉飾まみれの公爵領が崩壊する中、僕は隣国で「聖計者」として成り上がる〜

本を書く社畜

第1話:その予算、あと3ヶ月で底を尽きますよ?

​「――というわけだ。お前のような地味な『鑑定士』は、我が公爵家にはもう必要ない。荷物をまとめて、今すぐこの屋敷から消え失せろ」

​豪華なシャンデリアが輝く執務室。

次期公爵、ゼノス・バルトレイは、高価なワインを転がしながら冷酷に言い放った。

彼の背後には、新しいお抱え鑑定士だという、派手なローブを纏った男が卑屈な笑みを浮かべて立っている。

​「……ゼノス様。お言葉ですが、私の鑑定眼を失えば、この領地の『帳簿』を維持することは困難になります」

​僕は、雨の音が響く窓の外を見つめながら、静かに、そして事務的に答えた。

僕の名前はリヒト。

代々この領地に仕えてきた下級鑑定士だ。

​「はっ! 帳簿だと? 笑わせるな。お前の鑑定は『この小麦は1キロ30エリス』だの『この剣は刃こぼれしている』だの、ガラクタの値段をつけるだけの骨董屋もどきではないか。これからは、魔導の真髄を見抜く『聖鑑定士』の時代なのだよ」

​ゼノスが指し示した男が、仰々しく水晶を掲げる。

だが、僕の瞳――ユニークスキル**【真実の計数(ログ・アナライザー)】**には、彼らが決して見ることのできない「数字」が視えていた。

​ゼノスの頭上に浮かぶ赤い数字。

【当期純損失:4億8,000万ゴールド】

【個人債務:1億2,000万ゴールド】

​そして、この屋敷全体に漂うどす黒い霧のような数字。

【公爵領、破綻までの推定残日数:92日】

​「ゼノス様。最後に進言します。今すぐその無意味な『魔導投資』を止め、贅沢品への支出を50%カットしてください。さもなければ、この領地は3ヶ月後には……」

​「黙れ! 無能な平民が経営を語るな!」

​ゼノスが激昂し、飲みかけのワイングラスを投げつけた。

赤い液体が僕の頬をかすめ、床に広がる。

それはまるで、この領地の未来を暗示する血のようだった。

​「……わかりました。契約解除ですね。承知いたしました」

​僕は深く一礼し、執務室を後にした。

引き止める声はない。あるのは、新しく雇われた鑑定士とゼノスの、下卑た笑い声だけだ。

​彼らは知らない。

僕がこれまで、鑑定眼を駆使して「物価の変動」を読み、「不正なキックバック」を暴き、「予算の穴」をこっそり埋めていたことを。

僕という「安全装置」を外した組織が、どれほど脆く崩れ去るかを。

​屋敷の門を出ると、冷たい雨が僕を濡らした。

僕は手元の古びた鞄を抱え直し、隣国の国境へと歩き出す。

​「さて……。92日後に倒産する組織(船)に、これ以上付き合う義理はありませんからね」

​僕の視界には、遠く離れた隣国の街が**【潜在市場価値:1,200億ゴールド】**という輝かしい黄金色の数字で映し出されていた。

​僕は鑑定士。

そして、この世界の不都合な真実を暴く、唯一の「コンサルタント」だ。

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