第39話:全資産の寄付と辞任(ファイナル・デリバリー)

 一方、王都では「リヒト失踪」の報を受けて激震が走っていた。だが、彼が残した遺言書の内容はそれ以上に驚くべきものだった。

「私の全特許権、銀行の議決権、そして不動産ポートフォリオは、本日をもって『次世代教育基金』に譲渡する。これより経済の主役は、私という個人の鑑定眼ではなく、法と教育に基づいた市民一人ひとりの知性である」

 リヒトの「私有財産」はゼロになった。だが、彼がばら撒いた「知識」と「仕組み」は、かつてのように一人のカリスマに依存しない、強固な社会基盤として根付き始めた。

 かつて彼を敵視した海商王ドレイクも、今は新政府の物流顧問として、リヒトの残したシステムを懸命に運用している。

「……ったく。最後の最後まで買い叩きやがって。……だが、おかげで世界はもう、誰かに媚びずに飯が食えるようになったぜ」

 リヒトは公的に「死亡」した扱いとなり、その名は歴史の教科書に刻まれる聖人、あるいは希代の相場師として語り継がれることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る