第2話「解体師、パーティに入る」

 街外れの森。

 倒れたゴブリンの死体が、地面に転がっている。


 静かだった。

 さっきまでの喧騒が、嘘みたいに消えていた。


「……すごいわね」


 エルフィーナが、弓を下ろす。


「たった一体解体しただけで、あそこまで動けるなんて」


「……俺も、驚いてます」


 本音だった。

 さっきまで、体は重く、拳も弱かった。


 今は違う。

 体の芯に、力が残っている。


「解体師って、戦えない職じゃ……」


「普通は、そうよ」


 エルフィーナは、死体を見下ろす。


「でもあなたの《解体》は、素材を取るだけじゃない」


「……能力も、取れる」


 胸が、少し熱くなった。


「つまり……」


「魔物を倒して、解体して、力を得る」


「それを繰り返せば……」


「……俺、強くなれる?」


 エルフィーナは、少し笑った。


「ええ。たぶん、誰よりも」


 風が吹いた。

 銀髪が、揺れる。


「改めて言うわ。リクス」


「私のパーティに入りなさい」


「……本当に?」


「本当よ」


 彼女は、手を差し出した。


「一緒に、生き残るの」


「……はい」


 その手を、握った。


 ◇


 ギルドの中は、相変わらず騒がしい。


 酒の匂い。

 怒鳴り声。

 武器のぶつかる音。


「パーティ登録を」


「リーダーは?」


「私、エルフィーナ」


「職業は?」


「弓使い」


 受付が、ちらりと俺を見る。


「……そちらは?」


「解体師です」


 空気が、少し冷えた。


「……戦闘職ではありませんが」


「問題ないわ」


 エルフィーナは、きっぱり言った。


「この子、強いから」


「……は?」


 受付の女性が、目を丸くする。


「今さっき、ゴブリンを殴り飛ばしたの」


「……え?」


「解体で、能力を引き出せるの」


「……そんなスキル、聞いたことないけど」


「今、ここにあるでしょ」


 受付は、しばらく黙り込んだ。


「……仮登録扱いにします」


「戦闘結果次第で、正式登録」


「構いません」


 エルフィーナは、うなずいた。


 ◇


 パーティ用の簡易宿舎。


 木のベッドが二つ。

 小さな机。

 小さな窓。


「今日はここに泊まるわ」


「……二人で?」


「他の部屋、空いてないの」


 胸が、少し跳ねた。


「安心して。何もしないわよ」


「……はい」


 少し、残念だったのは秘密だ。


「それより」


 エルフィーナが、近づいてくる。


「あなた、どんな風に解体できるの?」


「……触ると、対象が見えます」


「能力とか、素材とか」


「じゃあ、これ」


 彼女は、さっきのゴブリンの耳を差し出した。


「……触ります」


 指が、当たる。


 視界に、文字が浮かんだ。


【解体対象:ゴブリン耳】

【抽出可能:聴覚強化・毒耐性(微)】


「……聴覚、毒耐性」


「取れる?」


「……やってみます」


 光。


【聴覚強化:抽出】


 世界が、変わった。


 外の足音。

 遠くの話し声。

 風の流れ。


 全部、はっきり聞こえる。


「……すごい」


「ね?」


 エルフィーナは、満足そうだ。


「これなら、索敵役にもなる」


「……俺、役に立ちますか?」


「何言ってるの」


 額を、指で軽く突かれた。


「もう立派な戦力よ」


 胸が、じんわり熱くなる。


「……ありがとう」


 ◇


 その夜。


 ベッドに横になって、天井を見る。


 異世界。

 解体師。

 エルフの少女。


(……人生、変わったな)


 前世では、

 誰にも必要とされなかった。


 ここでは、違う。


「……生きよう」


 小さく、つぶやく。


 外で、風が鳴った。


 そして、まだ知らなかった。


 明日、

 “本当の化け物”を解体することを。

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