第6話 溺死するくらいまで

「今日、家に武蔵さん来るから……というかそろそろ来る」


 ……朝の10時くらいに起きたらナツカにそう言われた。響ももう起きてリビングにいて着替えていたし、素晴らしい生活リズムだ。

 あの追いかけっこから数日、そういえばそんな話もあった。家から出ないなんてのは私にしてみれば割と慣れたことだったし、言われるまでは完全に忘れていた。


「あ、着いたらしい……迎えに行ってくる」


 ナツカは部屋を出て行った。響と二人、リビングに取り残される。


「髪……梳かす……?」


「あ……寝ぐせある?」


 響にそう言われた。手には櫛を持っている。私の髪はけっこう短い方だし、そこまでひどくはないと思うが……そういうからには寝ぐせがあるのだろう。


「じゃあ……顔洗ってきたらやるね……」


 洗面台の前に立ち、顔を洗う。歯ブラシは今はもう3本あるし、予備だって買ってきてもらった。人に歯ブラシを貸すようなことはもう起こらないだろう。普段は何か食べてから歯を磨いているが……もう武蔵さんが来るのだ。歯も磨いて……リビングに戻ったら玄関の扉が開く音が聞こえた。


「比叡さんと佐江響さんだね。お邪魔するよ」


 ナツカに続いて……カバンを持った武蔵さんとギターケースのようなものを背負ったギャルっぽい人がリビングに入ってきた。


「どうぞ……とりあえず座ってください」


 椅子に座るように促す。寝ぐせがついたままなのは仕方ない。


「じゃあ失礼するよ」


 ダイニングチェアに武蔵さんと……ギャルっぽい人が座った。いったいこのギャルは何者なんだ。組織の人であることは間違いないだろうけど。


「まずは紹介からかな?響さん、僕は武蔵。とって食べたりはしないから安心して」


 響は……私の影に隠れるみたいにして立っていた。この人、妙な圧があるし……どことなく怖い気持ちもわかるけど。


「あーしは時雨しぐれ。ナツカの……まあ友達?みたいなもん。今日はただの護衛だから、あーしのことはあんまり気にすんなー」


 この……時雨という人は前に名前を聞いた。ナツカの話でぽろっと出てきたんだったか?具体的なことは何も話していなかったけど。

 しかし、護衛……武蔵さんのだろうけど、そうなると武蔵さんは戦う人ではないのかもしれない。単純に偉い人だから単独行動はさせられない、ということなのかもしれないが。


「それでさっそくなんだけど……いろいろ説明とかしちゃって大丈夫?」


「私はいいですけど……響は?」


 目をやると、こくりと頷いていた。いいという合図だろう。私と響が椅子に座るとカバンからなにやら紙を取り出し始めた。


「じゃあ説明するね。響さん、君のことから。結論から言っちゃうけど、君には佐江グループのトップになってもらいます」


「……私が、ですか?」


 困惑したような声で、武蔵さんに問い返している。そりゃあ、急に一つの会社のトップになれなんて言われたんだから当然だろう。


「うん。佐江グループは一族経営だから……君の家族が全員死んじゃったら跡継ぎが君しかいなくなるからね」


 ……響に跡を継がせるために家族を殺すのか、殺してしまうから響を跡継ぎにせざるを得ないのか、どっちなのだろう。私がどうこう口出しをすることではないが……どちらにせよ響は利用される形になるわけだ。


「えっと……親戚とか……そういう人じゃだめなんですか……?」


「うん。君の親戚も何人か生かしておく人もいるけど、任せるにしても子会社のほうだから」


「……私が父の血を引いてない、って話はご存じですか?」

 

 そんな話まですると言うのは……もしかして響はやりたくないのだろうか。確かに高校生で超大企業のトップという重責は計り知れる者ではないが……


「知ってるよ?でも戸籍上は君の父、佐江伊吹の娘だから何も問題はないんだ」


「じゃあ……私、経営とか……そういうの何も……知らないですよ?」


「そういう事務とか、全部こっちの方で手配できるから、言い方は悪いけど……名前だけでいいんだ」


 もしかして、佐江グループ全体を組織に都合がいいように使おうとしているのか?こういう秘密組織的なものがペーパーカンパニーを使ったりするのはありがちな展開かもしれないが、それが大規模になったようなものだろう。


「私は……本当に名前だけでいいんですか?」


「うん。当然今後の生活も保障するし、要望も可能な限り叶えられるようにするよ」


「じゃあ……やります」


 どことなく嫌そうだったのが一転、そう言い放った。この短時間で心境の変化でもあったのか。もしくは単純に佐江グループで働くというのが嫌なだけで、名前だけなら良いと思ったのかもしれない。


「そう言ってくれてありがとう。詳しい話は今の佐江グループが片付いたらするから……次は、響さんをつけてた人達について、というか響さんを保護しないといけない理由かな?」


 そういえばそれも知りたいことだ。いったい何の理由があってあの人たちに追い掛け回されたのか。ナイフとか持っていたし、下手なことをしたら命の危機だっただろう。


「まあ……これも結論から言っちゃうけど、外国政府の息がかかったマフィアみたいなものだね。多分だけど佐江グループの乗っ取りか……情報でも抜き取ろうとしてたんじゃないのかな?そうだよね?」


 隣に座っているギャル……時雨さんに話を振った。もっとも、振られた本人はどことなくぼーっとしているように見えるのだが……


「あーしがあの男二人から聞き出した情報とかから推測しただけなんすけど……多分そうっすね。いつも言ってるっすけど情報集めは本業じゃないっすからね?間違ってても文句言わないでほしいっすよ?」


 あの男、というのは車に乗る寸前まで追いかけてきた二人のことだろうか?しかし、あのガタイのいい二人からどうやって情報を?拷問でもしたのか?それとも……美人局的なやつだろうか。時雨さんもかなりビジュいいし、好きな人は好きだろう。


「……要するに、そのマフィアとかが響さんに手を出さないとも限らない……というか可能性高そうだったから早めに保護って話だったんだ。まさかその当日にコトが起こるとは思わなかったけど」


 本当に。一歩遅れていたら取り返しがつかなかった可能性すらあると思うと恐ろしものだ。


「えっと……私とか誘拐しても……意味ないと思いますけど……」


 響が言う。もっともだ。家族から明らかに大切にされていないから誘拐したところで放置されるオチが見えている。マフィア相手でその後どうなるかなんて……楽に死ねればいい方だろう。


「多分っすけど家庭環境とかまでは調べられなかったんじゃないっすか?最初おっかけてきたのが日本人だったんっしょ?半グレ雇うとかで人数ごまかしてるんすよ」


 人数に余裕があるなら追跡もマフィアのグループ……つまり外国人がやっている、ということなのだろう。よく考えたら外国マフィアに日本人がいるというのもおかしい気もするし……


「まあ、そのマフィアの実情はともかく……そのマフィアも佐江家の暗殺と一緒に潰すから」

 

 佐江グループとマフィアを同時に処理……やはり、佐江グループの立場を欲しているように見える。悪いこととは言わないし、理由もあるんだろうけど……佐江グループを支配して一体何がしたいんだろう。クーデターや革命の類ではないと思うけど……


「どうしてマフィアも一緒になんですか?」


「勘づかれると逃げられたり……戦闘態勢整えてきたりするから。暗殺の基本は奇襲だし、正面からやり合うのは得策じゃないからね」


 マフィアも佐江グループを狙っているなら、確かに警戒されてしまうだろう。そういう意味でなのか?疑問に思っても私に真意が伝えられることは無さそうだけど。


「他に聞きたいことはある?」


 今思いつくものは……特にない。単純に忘れてるだけかもしれないが、それはつまり忘れる程度のことだということだし。わざわざ聞く必要もないだろう。


「私は特に……響は?」


「私は……えっと、じゃあ……家族、どうやって殺すのか教えて貰えますか……?」


「佐江家の屋敷にいる人は火事に偽装するけど……現場だと臨機応変にやらなきゃいけないから確実なことは言えないかな」


「……そうですか……ありがとうございます」


 響は家族にどう死んで欲しかったのだろう。もしかすると苦しんで欲しかったのかもしれない。焼死は苦しいとは聞くが……黙って焼け死ぬはずもないから多分別の手段で殺すのだろう。


「じゃあ今から作戦の内容について話すから……これも聞く?」


 聞かない方がいいのだろうか。口調からそんな雰囲気を感じる。実際私が参加する訳じゃないし聞く必要もないが……響が聞かないなら私も部屋に戻ろう。


「多分聞かない方が良さそうなので……響はどうする?」


「私も……いいかな……」


「じゃあ私たちは部屋にいるので、何かあったら呼んでください」


「ありがとう、気遣ってくれて」


 その言葉を背に、部屋に戻る。私が座っていたところにナツカが座るのが見え……私の部屋に入ると響も着いてきた。


「大丈夫……?」


「う、うん……あの人ちょっと……怖いけど……」


 ……武蔵さん、顔が怖いわけでも口調が荒い訳でもないのにどうしてあんなに圧を感じるのだろうか。考えても分からないんだろうが……


「グループのトップになるって話……響は受け入れてよかったの?」


「うん……正直不快だけど……」


 不快というのは……利用されていることに関してか、グループの跡継ぎにさせられたことか……

 いや、多分どっちもか。響は佐江家のことは嫌いっぽいし、利用されるのも気分がいいものじゃないだろう。


「うーん……色々考え方はあると思うけど、佐江家の人達が作り上げたものを何もせずとも響のものにできるって考えたら……復讐としては結構いいものなんじゃないかな?」


「そう……だね。そう考えたら結構良いことかも……」


 顔が少しだけ緩んだ。話の内容からは想像もできないような顔だ。


「あ、そうだ……髪……梳かす?私やるよ?」


 ……そういえば髪、そのままだった。武蔵さん達に変な印象は持たれていないだろうか?


「じゃあ、お願いしようかな」


 響の目の前……ベッドの下、床に座る。響はいつの間にか櫛をその手に持っていた。


「痛くない……?」


「大丈夫。そのまま続けていいよ」


 櫛と細い指が私の髪を撫でる。ショートだからそんなに時間はかからないと思うが……念入りにやっている。


「……そんなに丁寧じゃなくてもいいよ?」


「あ……ごめん……髪サラサラだなって思ってて……」


 サラサラ……?私がしている手入れはごく一般的な範疇だ。特筆するほどでは無いと思うのだが。でもまあ、褒められて悪い気はしない。


「……私、これからどうなると思う……?火事に偽装ってことは……家もなくなるでしょ?」


「……多分?あ、もしかして大切なものとかある?」


「いや、そういうのはないけど……終わったら私はどこに住むのかなって……」


 ……確かに。響が住む場所はどうするんだ?この家……というのも有り得そうだけど、どうなるのか。さっき聞けばよかった。


「後で武蔵さんに聞いてみよっか」


「そうだね……」


 もし響が今後もこの家に住むことになったら……どうなのだろう。嫌とは言わないだろうが、色々と気を使ってくるのは目に見えている。


「もし……今後もこの家に住むってなったら……どう?嫌だったり疲れたりしない?」


「そうだったら嬉しいよ……?嫌ってことはないし……」


 この感じだとなし崩し的に同棲相手が1人増えそうじゃないか……?そんな予感がする。

 いや、ナツカとも響とも恋人ではないし同棲とは言えないかもしれないが……


「まあ、そうだと決まった訳じゃないけどね。何となくそうなりそうな気がするんだけど……」


「……もしかして、加賀さんと同じ家に住むことになったのも似たようなきっかけ……?」


「……大体そうかも」


 私の場合は保護対象とかではなかったが……響もある種監視のようなものが必要だろうし、大きく違ったりはしないだろう。そう考えると本当にこのまま同じ家に住むことになりそうだ……


「じゃあ……同じ家に住むなら私の服も買わないとだよね……いつまでも借りてるのも悪いし……」


 ……やることが増えそうだ。まだしばらくは外出とかはできないだろうけど。

 しかし、ナツカとの関係はどうしようか。響が家に来てからはセックスとかはしてなかったが……私にだって性欲はある。自分で鎮めろと言われてしまえばそれまでだが、ナツカは誘えば受け入れるだろうしその相手を放っておくというのも……しかし、だからといってこの関係が響にバレると面倒そうだ。もし一緒に住むことになるなら後でナツカに相談しよう……


「……どうかした?」


「ん?大丈夫だよ?ちょっと考えてただけ」


 少し考え込んでしまった。平然と話す相手がこんなことを考えていると知ったら……響はどう思うだろう。言ってしまえば身体だけの関係だし、少なくとも一般的にいい印象があるような行動ではない。やはりできる限り隠し通すべきだ。


「それで……服ってどういうのがいいと思う……?」


 スマホを見せてくる。いろいろなデザインの服が画面に映っている。響だったら基本的にどんなものでも似合いそうだが……私が判断したら結局シンプルなものになりそうだし、アドバイスにとどめておこう。


「これとかは……?私のセンスはあんまり期待しないでほしいけど……」


「私に着てほしい服とか……ない?」


 そう言われても……一般的な範疇で着てほしいジャンル。何かあるか?普段は清純なイメージの服ばかり着ているが、ゴスロリとか似合いそうだけど。


「イメージと違うかもしれないけど……こういうのは?ゴスロリ……」


「じゃあ……こんど買ってみるね。他には……?」


 画面を操作してお気に入りに追加している。思ったよりはすんなり受け入れられたみたいだ。

 しかし、他と言われても。そんなに私に服を選んでほしいのか……?


「じゃあ……こういうのは?シンプル過ぎる?」


 目に付いたものを適当に選んでいく。派手過ぎたり冒険過ぎるデザインのものは選んでいないから……大丈夫だと思いたい。


「次……えっと、下着……どうかな?」


 下着まで私に……?もしかして下着の好みでも調べられているのか?いや、そんなはずはない。そもそも響には私がレズだとバレていないはずだ。

 じゃあなんで私に選ばせるのか……それはもはやわからないが。


「響は普段どういうの選んでるの……?そもそも私が選ぶのも変な気がするけど……」


「私は……そんなにこだわりとかはないよ……?」


 こだわりがないなら自分で選んでほしいのだが……必死に拒否すればそのほうが 変だろう。仕方なくスマホで見せられたものを適当に選んでいく。

 色も、種類も重ならないように。私の趣味が見えてきたら……嫌だろう。というか、響は人に下着を選ばせて嫌じゃないのか。


「これでいいかな……?夜宵の好みがあったらそれも買うけど……」


 ……なんで響はそんなこと言うんだ。というか、故意に好みがわからないようにしたのがばれている。まあ、あまりにもパターンとかがバラバラだから仕方ないが……


「いや、私の好みとか言われても困るよ……?」


「そっか……じゃあとりあえずこれにしておくね」


 思うんだが……この子、もしかして私のことが好きなんじゃないのか?ただ友達だというだけでこんなことするか?いろいろ疑ってしまうが……これで最悪なのが本当に友達だと思われている場合だ。

 私から響に対しては何かすることはないだろう。ただ、妙な距離感は響も普通にかわいい子なんだからやめてほしい。私の情緒をどうしたいというんだ。


「……もう終わった。出てきていいよ」


 服を選ばされそんなことを考え……多分一時間くらい。ナツカの声がドアの向こうからする。


「まだ武蔵さんいる?」


「うん。さっき伝え忘れたことあるって」


 なんとなくわかる。多分響の今後住むところとかの話だろう。響と一緒に部屋を出て……武蔵さんに話を聞きに行く。


「ごめんね。さっき話しておけばよかったんだけど……響さんがよかったら今後もこの家に住んでほしいって言ってなくて。もちろん嫌なら別の場所に用意するけど……」


 本当にその話だった。なんとなく察していた自分も自分なのかもしれないが……


「あ……私はいいですよ……加賀さんがいいなら……」


 私の身体に半分隠れたみたいな体勢で武蔵さんに向けてそう言った。やっぱり響はこの人が苦手らしい。


「じゃあ今後もこの家にお願い。細かいところまで口出しするつもりはないから……詳しいことは加賀に聞いてね。それじゃ僕は行くから」


「んじゃ、おじゃましやしたー」


 席を立ち、ギャル……時雨さんと一緒に家を出ていく。それを確認してか響が深くため息をついた。


「お疲れ。二人ともあの人……武蔵さんのことうっすら苦手でしょ?大丈夫?」


「私は大丈夫だけど……」


 響は……本当に苦手なのだろう。私でもあの形容しにくい圧は二度目でも慣れない。いったい何がそう感じさせるんだろうか。


「まあ、それはさておいて……一緒に暮らすことになったけど。何か質問とかある?基本的には今までと同じでいいけど……」


「じゃあ……服買いたいけど……ネットショッピングはしてもいい……?」


「いいよ。あ、でもしばらくは自分の口座とか……そういうの使うのは避けてほしいけど、いい?お金は私が出すから」


 羽振りがいい……ように見えるだけで多分実際は経費のような感じなのだろう。もし仮に自費だとして、貯金もかなりありそうだからある程度の額は誤差なのだろうけど。


「ちょっと申し訳ないけど……それが必要……なんだよね?」


「うん。いろいろな方法で追跡されたりする……ってのは前話したかもしれないけど。スマホからの追跡はなかったけど、口座のお金が減ったりするとその動きを追跡するような人もいるから」


 スマホからの追跡なんて……いつの間にそれを調べたのか。


「じゃあ……お願いするね……えっと、今もうやっちゃう感じ……?」


「暇だし……佐江さんがいいなら」


 ……どうやらさっき選んだやつをもう買うらしい。行動までが早い。ソファーでなにやらやっているから、私は昼ごはんでも作ろう。朝食も食べてないから私にとっては朝食みたいなものだが。

 幸い、冷蔵庫の中には食材はいろいろある。適当に作っても何とかなるはずだ。


***


「……響って私のこと好きだと思う?」


 その日の夜……パソコンでゲームをしていた響が部屋に戻ったのを見計らってナツカの部屋に来ていた。相変わらず物がない部屋だ。


「急に……?私から見るとそうにしか見えないけど?」


 前々から2人だけになると距離感近くなるな……とかは思っていたが、やはりそうなのか。どう対応すべきか……


「それで、本題は何?」


「ああ、ナツカとの関係とかどう隠すかなって……」


 そう、この話をしに来たのだ。上手く隠すにしても、当事者だから……話さない訳にはいかない。


「わざわざ隠す必要あるの?あんたなら「だから何?」みたいな感じで対応しそうだけど」


 相手がどうでもいい相手ならそうするが……響が相手なのだ。友達とこういうことで揉めたくはない。


「あんまり変な印象持たせたくなくて……」


「じゃああいつのことも抱けばいいじゃん。それで言うこと聞かせるのもあんたならできるでしょ」


 ……私のことをなんだと思ってるんだ?できるかできないかで言えば……できそうだが。友達にそんなことするわけがないだろう。


「少なくとも私からはしないよ……」


「そう。隠すっていうなら口裏合わせくらいはしてあげるけど……」


 ……そう言いながら腕を抱き寄せてくる。いや、ナツカが腕に寄っているのか。ちょうど鼠径部の辺りに手が触れるような感じだ。しかし、こんなに分かりやすく誘って来るとは。


「……そんなにしたかったの?」


「……まあ、あんた上手いし」


 ナツカの態度は……いつも通りだが。声が少しだけ甘い。


「そう。じゃあまず自分でしてみてよ。私の手使っていいから」


「……わかった」


 私の要求も結構インモラルというか、正常ではないような気もするのだが……ナツカはそれを受け入れる。

 ナツカがズボンを下ろし、指先が下着の上へと動いていく。撫でるような優しい動きだ。その光景を見ていると……支配感というか、優越感というか。そんな感情が出てくる。

 目が合うと……目を逸らしたり、空いている手で見えないように隠そうとするのを……私も空いている手でどける。やっぱり恥ずかしいのか。

 ただ行動とは裏腹に……確かに湿り気を帯びてきて、心なしか動かすのも速くなっている。ただ……なんというか。遠慮のようなものを感じる。


「もっと好きに使っていいんだよ?自分の好きなようにしてみて?」


「わかった……」


 ……やはり甘い声。聞く人が聞けば快楽が混ざった結果のものだとすぐに分かるだろう。

 下着の中に手が入っていき、そのまま動かされる。ナツカ本来の体温よりもどういう訳か指先が熱く感じる。

 そのまま動く速度が少し速くなり……水音も増す。ナツカの息が荒くなり、目も焦点が合わなくなってきている。そこからしばらくすると……ナツカの身体が震えたのがわかった。


「……よくできました」


 下着から手を抜くと指の先から付け根まで、粘性のある液体で濡れている。それを口に運んで舐めとると……ナツカが息を飲んだのが分かった。


「……やっぱり私にして欲しいんだ。でも、ナツカだけ気持ちよくなるのって……フェアじゃないよね?だから​───」


 耳元で囁く。ベッドで横になり……ナツカが動くのを待つ。しばらくすると、ズボンを下ろし……下着があらわになる。


「……わかる?ナツカが可愛くてちょっと興奮しちゃった」


 ……そのまま優しく、下着越しに触れられる。優しすぎるというか、遠慮を感じる。そんなことをする意味はないのに。


「もっと自分で気持ちよくなるみたいにしてみて?」


 そういうと……動かし方が多少良くなった。このまま続ければいつかは……と思うが、上手いとは言えない。

 下着に侵入し、柔らかい指が直接触れ始める。これも、刺激はあるが……そこまでだ。どういう訳かさっきから私の足に擦り付けるような感触を感じるし……終わるまでは待っていよう。

 そして時間が経つが……指が動くよりも足に感じる感覚の方が強くなってくる。そのまま待っていると、ナツカ身体がまた跳ねた。顔を見ると目を閉じ、口は少し開いて……満足気だ。


「ねえ。自分で気持ちよくなってどうするの?私……そんなこと言ってないよ?」


 私を気持ちよくしてみろ、と言ったのだ。別に怒っているわけではないが……言う通りにできないナツカに触れてあげる義理は、少なくとも今はないだろう。


「こうするの……わかる?」


 私の身体を使っての実演。ナツカの手を使っていても、自分でやれば……快楽を得ることだって簡単だった。


「私が寸前までナツカにしてあげるから……参考にして、次はちゃんと私のこと気持ちよくしてね?」


 泣いて懇願してくるまでは快感なんて与えてあげない。こうして……ナツカには私に溺れてもらう。やっぱり、可愛い子が私を求める姿というのは……最高だ。

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