過去をやり直したいと思ったことは、少なからず誰にでもあるはず…。
そして、歴史に名を残した武将たちも、きっと同じように思ったことがあったのではないでしょうか。
本作は、天下人・徳川家康の、
「三方ヶ原で脱糞したという歴史を、なかったことにしたい」
という、切実でありながら、あまりにも“人間らしい”願いから始まります。
しかし、過去をやり直した先に待っている未来は、本当に今よりも望ましいものなのでしょうか。
武田軍の西上作戦、浜松城の構造、両軍の布陣や補給路。丁寧な歴史解説と、史実にはない展開を描く『歴史IF』ならではのロマンを交えながら、武将たちによる本格的な軍略の応酬が繰り広げられます。
それだけにとどまらず、物語はやがて、一人の人間が自らの過去や失敗と向き合う姿を通して、読み手自身にも過去との向き合い方を問いかける作品へと昇華されていきます。
笑えて、歴史を学べて、最後には優しい気持ちになれる。
過去の失敗さえも、その後の人生や大切な縁につながっているのかもしれない。
そんなことを考えさせてくれる、ぜひ多くの方にお勧めしたい作品です。
薨去の折、脱糞した自画像を残していることを恥じ、それを処分出来なかったことを悔い、それが起こった三方ヶ原の戦いをやり直し続ける、ジャンルとしては死に戻りの作品です。
何パターンも練り上げられた三方ヶ原if、合間に登場する家康と関わりのあった武将たちの豊かなキャラクター性もよく、すっきりとした筆致で読みやすく、日本史や軍略に詳しくない私でも楽しめました。
そして、上でジャンルとしては死に戻りと書きましたが、戻るきっかけが「死ぬ」ではないところが、なるほど…! 未練があるから戻るのでそれが戻るきっかけなのは極々理屈にあっているという納得感と同時に面白みがあり、これはユニークな設定だなと感心しました。
とても面白かったです。