第15話「狂王の宴」
王都は異様な緊張感に包まれていた。
空には分厚い雲が垂れ込め、街の人々は家に閉じこもり、通りには人っ子一人いない。
レオたちが王城の正門前に降り立つと、そこには完全武装した近衛騎士団が待ち構えていた。
「止まれ。ここは王城である。魔族の立ち入りは禁ずる」
騎士団長が声を張り上げるが、その足は震えていた。
目の前にいるのは、伝説の魔王と、人類最強の勇者。
戦って勝てる相手ではないことは、彼らが一番よく知っていた。
「道を空けろ。王に話がある」
レオが一歩前に出る。
「レオ様……。本当に、魔王側に……」
騎士団長は悲痛な表情を浮かべた。彼はレオの剣術の弟子でもあった男だ。
「俺は人類を裏切ってはいない。王の過ちを正しに来ただけだ。無益な血を流したくなければ、そこを退け」
レオの声には、有無を言わせぬ覇気が宿っていた。
騎士団長は葛藤の末、剣を下げた。
「……通れ。だが、陛下は正気ではない。気をつけられよ」
「感謝する」
レオたちは静まり返った城内を進んだ。
かつては活気に溢れていた廊下も、今は冷たい空気が澱んでいる。
そして辿り着いた玉座の間。
重い扉を押し開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
「ヒヒッ、来たか、来たか……私の可愛い勇者よ」
玉座に座っていたのは、痩せこけ、目が落ち窪んだ国王だった。
その周囲には、不気味な紫色に発光する魔道具がいくつも浮かんでいる。
「陛下……その姿は、一体……」
レオは言葉を失った。
かつての威厳ある王の面影はない。そこにいるのは、禁断の力に魅入られ、精神を蝕まれた哀れな老人だった。
「見たまえ、この力を。古代の遺跡から発掘した『魔力増幅炉』だ。これさえあれば、魔界など一撃で消し飛ばせる」
王は狂ったように笑い、空中に浮かぶ水晶を撫で回した。
「そのためなら、国の環境が変わってもいいと言うのか。民が苦しんでも構わないのか」
レオの怒号にも、王は聞く耳を持たない。
「民? ああ、あの虫けらどものことか? 私の野望のために死ねるなら本望だろう。それよりレオ、お前もこっちへ来い。その魔力、この炉にくべれば素晴らしいエネルギーになる」
王の目は、完全に狂気に支配されていた。
もはや交渉の余地はない。
ベリアルが静かに前に出た。
「……醜いな」
一言。
軽蔑と憐れみが入り混じった声。
「欲望に溺れ、己を見失った者の成れの果てか。見るに堪えない」
「黙れ化け物め。お前など、この力で消し炭にしてやる」
王が叫ぶと、周囲の魔道具が一斉に輝き出した。
紫色の閃光が走り、空間が歪む。
「来るぞ、レオ」
「ああ」
レオは聖剣を抜いた。
悲しいけれど、これが現実だ。
かつて守ろうとした王はもういない。目の前にいるのは、世界を滅ぼそうとする怪物だ。
「終わらせよう、ベリアル。俺たちの手で」
「応とも。さあ、最後のダンスと行こうか」
二人は同時に駆け出した。
向かう先は、狂える王の待つ玉座。
魔王と勇者、最強の二人が放つ光が、玉座の間の闇を切り裂いていく。
戦いのゴングは、もはや鳴らされる必要すらなかった。
ここにあるのは、ただ一方的な断罪の嵐だった。
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