8月18日

「お先に失礼します」


 束沙は控え室から出て自転車に鍵を刺す。ケータイを開くと渚からメッセージが来ている。


「今日俺家いないわ」


 束沙は軽く首を傾げた。


*****


「おっ、束沙! おつかれ〜」


 笑顔で手を振る渚の前で、束沙は自転車をとめる。


「えっと……何してるの?」


 渚は足下にあった箱を持ち上げる。


「手伝い!」


 そう言い残して店に入っていく。束沙は店のすぐそばに自転車を置いて渚の後を追う。レジカウンターの前には背を丸めた老女が座っている。束沙が会釈をすると老女は微笑む。


「お友だちも、来てくれたのかい?」

「たまたま通りがかったから捕まえて来ちゃいました!」


 そう言って笑いながら、渚は箱をレジの奥へ運ぶ。


「おばあちゃん、これって冷蔵庫の中に入れるやつ?」

「ん〜? 何が入ってるんだい?」


 老女も奥へ入っていき、束沙は一人残される。


「……僕は……帰ってもいいのかな……?」


 つぶやいた疑問に答えるように渚が顔を出す。


「束沙も一緒に手伝わねぇ?」

「……とりあえず、なんで渚が手伝ってるのか訊いてもいいかな?」


 渚は老女に一言ことわってから束沙と外に出る。


「今日2人とも仕事に行ってて、暇だな〜って散歩してたんよ。ついでにどっかでバイト募集してねぇかな〜って」

「諦めたんじゃなかったっけ?」

「いや、諦めてはねぇよ。……そんでここ通りかかったら、おばあちゃんがいてさ。遊びに来た小学生たちを見送ってたっぽいんだけど、腰痛そうだったんだよ」


 こんな感じで、と言いながら渚は背を丸め、顔をしかめつつ腰の辺りを擦る。


「だから、大丈夫すか? って声かけたら、微笑んで大丈夫って言ったんだよ。大丈夫じゃなさそうなのに」

「で、何か手伝いますよ、みたいなことを言ったわけか」

「おう! ……んで、実はもひとつ手伝ってる理由があって……」


 渚はニヤッと笑う。


「何?」


 少し声を潜めるようにして言う。


「小遣いと称して金がもらえんだ!」

「あ〜……そういうこと」

「だからこれからもちょくちょく手伝おっかなって」


 ニッと笑う渚に、束沙も微笑む。


「良かったね、抜け道があって」

「ほんとにな〜。……っつーわけで、俺は手伝いに戻るわ!」

「じゃあ僕は、渚に会計してもらおうかな」


 渚は軽く目を見開いて言う。


「なんか買うもんあったんか?」

「うん、かき氷食べようかなって」

「……俺の目の前で?」

「そんなことは言ってないよ?」


 笑顔で答える束沙を軽くにらむ。


「少し、いじわるじゃねぇ?」

「……そうかな?」


 2人は少しの間見合ったが、渚が先に視線を外す。


「まぁいいや。俺も後で食お〜っと」

「今食べちゃダメなの?」

「じゃあ休ませてもらお〜っと」


 2人は店に戻っていった。


*****


「……で、結局束沙も手伝ってんじゃねぇか」


 2人は黄昏時の道を歩いていく。


「レジの手際が悪いから、つい」

「これからうまくなんだよ!」


 ふと渚が立ち止まり後ろを振り返る。


「……こぢんまりとしてっけど、意外と人来てるよな」


 束沙も同じように店を見る。


「そうだね。僕が来てからも数人買って行ったし」

「……なくならないでほしいよな」

「そうだね……」


 2人は再び歩き始める。


「あそこ、おばあちゃんしか店員いないんだ」

「確かに見たことないね」

「他の家族はみんな別のところいるんだって。だからそろそろ畳もうかなって言ってた」

「そう、なんだ」

「でもさ」


 渚はニッと笑いかける。


「俺らが手伝ってたら、おばあちゃんもあんまムリしなくてい〜し、もしものことがあってもなんとかなんないかな〜、なんて思ったんだよね。……ま、実際うまくいかねぇだろ〜けど!」


 ひとつ伸びをしてから束沙の前に出る。


「そう思うくらい、楽しかったわ!」


 束沙は微笑む。


「そうだね。……本当に継ぐってなったら大変だろうけどね」

「それは……がんばる」

「いや、継がないんでしょ?」

「え〜、わからんよ〜?」


 そして声を出して笑い合った。

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