第9話 おにぎり

 バリッと海苔が裂けるいい音が、静かな職場に響く。その一瞬、私は何故か気まずくなる。


 お昼休みだからおにぎりを食べるのは全然変なことじゃない。普通に昼食を食べているだけなのだから。

 ただ、ものすごく「バリッ」といい音がするのだ。最近のコンビニのおにぎりは、こんなにも海苔の質が良くなっていたのだろうかと思うくらいに。


 もし、私が隣に座ってる同僚で、その音を聞いたら。

「あ、こいつ。おにぎり食べてる」

 ただそれだけ。でも確かに、おにぎりを食べていることは匂いではなく音で分かってしまう。


 明日のお昼休み、私がティッシュを手に取ってデスクに広げだしたら。

「こいつ、おにぎり食べるんだろうな」

 まだ鞄から取り出していないのに、そう思われそう。


 自宅で食べるおにぎりは音なんて全く気にならない。テーブルにタブレットを置いて、YouTubeを垂れ流しているから。

 でも、私の職場のお昼休みはとても静か。遠くで誰かが電気ポットからお湯を注いでいる音、向かいのデスクに座っている人がスープをかき混ぜている時のステンレスと箸が擦れる音。


 それくらい静かな空間で、バリッとおにぎりの海苔が裂ける音。

 それは私にとって、今からおにぎり食べます!と宣言しているような気持ちだ。まぁ、だから何なんだという話ではあるのだけれど。ただ私が気にしすぎているだけ。


 昨日と今日、きっと明日も。職場のとあるデスクから、バリッといい音がする。


 そうだ。今度の休みの日、同居人とコンビニのおにぎりを食べてみよう。きっと彼女は笑うだろう。

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