解法の巻1-2「すみれの物語Ⅱ」

その日は突然やってきた。ここにきてから数か月がたったある雨続きの日に、突如施設が襲撃にあう。もともと物騒な施設に物騒な集団が入ってくるのだからたまったものじゃない。その時ちょうど外にいた9人は侵入者たちにあたふたする。誘導員は銃を抜くがそれより早くに誘導員が地面に血を出して倒れていく。


「動くな」


そう言って彼らはすみれたちを脅しながら数人の侵入者が、かぎの掛かった部屋を壊して、女性たちを引き連れる。そしてそれらを脅しながら、外に出す。森の中にある施設であるので周りのひとがかけつけるのは時間がかかる。そして彼らの逃走のトラックの荷台に詰め込まれる。


いったい何を…?


すみれは理解ができない。


その時、施設側の抵抗が始まり銃乱射が繰り広げられる。

そのすきをみてすみれはこっそりとばれないよう集団から離脱した。といっても、恐怖のあまりの足腰だと奇跡だといっていいだろう。


雨が次第に強まり、おおぶりになる。しかたなく、びしょぬれになりながらも歩き出す。どこに行ってもいい未来はないだろう。もうどうなってもいい、どうせなかった未来だから。坂に滑りながら、あるはずもない目的地へと歩く。動かないことには始まらない。そう思いどこかを目指す。


しかし、ぬるくなった服と疲労感と空腹にうなされて気を失ってしまった。


 


数時間たっただろうか、目が覚める。


ここはどこだろうか?


さっきまで落ち葉の上、

森の中にいたはずなのだ。それなのに何だか暖かい。もしかして死んで天国にでもこれたのだろうか?布団のにおいだろうか?

服の水分は残ってはいるが意識が回復する。まさか病院に運ばれたのか?

そんなことはないと思いつつ覚醒する。口の中に何やら多少の食べ物の味がする。目を覚ますとそこは家だった。目を開けるとそこには一人の少年が移る。


「よかった目を覚ましたよ。」


「ひゃっ」


びっくりしてしまう。


「ここは、、」


そうかすれ声で尋ねる。


「心配しないでいまお湯を入れてるから。倒れていたのを見つけてね、みかんでよければ食べる?」


私は久しぶりに人のやさしさとぬくもりを思い出した。


 彼のくれたみかんを食べ終えると


「お風呂が沸騰したから、入っていいよ。動けそう?」


しかし、力が入らない。その様子をみたたくとは手を差し伸べたが、


「そうか、じゃあ連れてくよ。」


なにやら抵抗感がありながら、そう言って私を持ち上げて、運んでくれる。きっときたならしいよその私を毛嫌いしたのではと悲観的になったがすぐに予想は違ったことが分かった。 その日は数年ぶりにゆっくりできた。そう思ううちに眠りについた。


 次の日朝起きると、少年がこちらに来て、


「おはよう。よく眠れた?」


そう挨拶をする。私は何から言えばいいかわからずとりあえず


「昨日はありがとう、ござい、ますでしゅ。」


そう何年ぶりかに声を出したが噛んでしまった。そして昨日のことを聞くことにした。


「あの昨日って....」


何と言っていいかわからない。数年会話しないだけでここまで言語能力が落ちるとは思っていなかった。


「昨日は山に取りに行くものがあっていったら君が倒れてたんだ、きゅうにざざぶりで君も大変だったでしょ。」


そういって少しずつ状況を思い出す。しかし伝えるとなると声にならない。しばらくの沈黙の中おどおどしつつもちゃんとなにか伝えようと努力したが脳の命令を声帯が拒絶したかのような感覚に襲われる。そんな様子をみた彼は


「ゆっくりでいいよ、あそう、僕はたくとよろしく。」


そう言っててを差し伸べる。今度は手の筋肉が脳の命令を無視する。結局私はその日そこから動けなかった。



たくとという恩人はこの田んぼを有する農家の一人っ子らしい。現在は中学から高校への移り変わりの春休みらしい。一日中家にいるので田んぼの苗づくりを手伝ってるみたいだ。なかなかの大変な作業だと一目でわかる。それと同時に命も助けてもらったのに世話になってる自分が情けなく見えてくる。しかし、まずはコミュニケーションが取れないことには始まらないだろう。どうしたらよいかわからないが誰に聞くこともできない。でも、、一歩踏み出さなければ始まらない勇気をもって


「よろしきおねがいしましゅ。」


言い間違え、噛んでしまった。声量も突如大きい声を出してしまった。今後こんなのでやっていけるかと思うと不安だが、なぜだろうか?


少し前では考えられないことだと私は感じた。不安とは未来からくるものだが、少し間の自分には未来などなかった。正確にはあきらめていた。そう思うとこれは素晴らしいことだと感じ少しうれしくなった。この辺はとても静かだ。この静けさと心地の良い風。少々不便らしいがあの劣悪な施設をもってすれば比べられない。


「何を考えてるの?」


そうたくとの母がたずねる。たしかにさっきからの自分を外から見ればずっと外を眺めボーっとしている風にしか見えない。それも数時間。いままではそれが当たり前で慣れてしまったからだろう。


「いや、あの少し前だとかんがえら、れ、なくて、」


脳内では論理的思考ができるのにそれを伝えるのが難しい。しかしそんなことを考えたせいでまた数十分ボーっとしてるように見えたのだろう。母が心配している。


「今日はうちの自慢の食材ごちそうするね。これも縁。遠慮しないで。」


そういってたくとはどこからか保存された米を運び出す、それだけでないさっき外で育っていた野菜も収穫してきた。そして夕飯をごちそうさせていただいた。何年ぶりだろうか?ちゃんとしたご飯にありつけたのは。誰かと団らんしたのは。笑ったのは。....





 少しずつ慣れてはきたが、まだうまくは話せない。

これまでの人生を大まかにつたえたら、うちで生活していいといわれた。

その時はとてもうれしかった。


でもこの家の負担が増えると思い罪悪感ももっている。


話によると年貢を納めるためお米を納税する必要があるらしい。

だから、かなりの量を持っていかれるという。

数年前私が売られたのも年貢によって家計の負担ができなくなったからでもある。と、今日からたくとは高校生らしい入学式が行われるそうで一人お留守番だ。


私自身も手続きが終わり次第中学校に入らないといけない、形式上は高校生までの15年間は義務教育であるからだ。私は笑顔でたくとらを送り出した。


 



日常の速度は少しずつ加速する。

体感時間がだんだん早くなっていく。

ときめきが多かった最初のほう。

今はもうこんなに時間がたったのかと驚いているのだ。


あれから3か月ほどが経ち。

私も中学に通っている。最初は、外に出るだけで動転していたものの応援もあってなんとか、踏み出せそうだった。

雨続きで気分が落ち込んではいるが去年とは違う。

未来に希望をもった。

この生活にもだいぶ慣れ、今ではずっとこの家の子でたくとの妹だったのでは?

と想像するほどにだ。


本当はそうありたかった。でもそれでも何も変わらない。

そう願っている。

 

最近勉強も始めたのだ。もともとといっても小学生の時代だが学力は高い方だったと自負している。かなり読書を好む少女だったと亡き母も言っていた。今度この町の図書館にも行ってみたいところだ。


「今日は理科の勉強かい?」


そう語りかけるのはどこからか現れたたくとのペット?のももっちである。いつかは忘れたけど突如家に来た。たくとが言うには仲間らしがなんでそうなったかはよくわからない。そもそもももんがって日本語をしゃべるもんなのか?そう疑問視してしまう。


「そうなの。でも難しいんだよね。」


でもモモンガ相手なら普通の会話がしやすい。数年間の記憶が私を人間恐怖症にさせたがため、人間以外ならとても親しみやすい。でも、最近はこの家族に慣れてきたが人間には依然抵抗感を覚えてしまう。中学では一言も発していなければなにもせずボーっとしている。


「それは科学の面白さに気づいていないからだよ。何事も興味を持つことから始まるよ。」


そういって解説をしてくれるため便利と言ったら失礼かもしれないがそれが率直な感想である。ただ最近はたくとはなにやら帰りが遅い。ももっちともなにかやってるみたいだけれど、彼は


「夏休みになったら時間ができる」


的なことを言っていたがそれはまだまだ先のことだ。


「君はたくとをどう思う?」


そう突如ももっちが聞いてくる。


「どうって?恩人だよ。」

そう返答すると


「それは解になっていないよ。僕はどう思うと聞いたんだ形容詞か形容動詞で返してほしいところだね。」


そういうと


「じゃあ、いとやさしく、めでたし。」


そう古文で返してみた。


「それはかなり抽象的だね。」


「ももっちって古文分かるの?」


そう聞き返すと。


「僕だって勉強したんだよ。」


そう言って腕を組み自慢を始める。


「で、どう思う?」


めずらしい気がするここまでももっちがこちらをみて質問をするのは。


「どう思ってるんだろう?頼れるにいさんみたいな感じ?」そう率直な感想を表現する。


「なるほど、つまり君は彼を信用しているってこと?信仰してるってこと?」


そう尋ねるももっちの目はまっすぐこちらを向いている。


「よくわかんないな。」


いったい何が知りたいのかこの時の私は知りもしなかった。


 ある夜、なにやらたくとは夜な夜な作業をしているようだ。一年生から受験勉強をしてるのかな?そう思いのぞき見をしてみるが、何か作ってるようだ。こっそり聞き耳を立てるつもりだったが音を立ててしまう。

「だれ?」そういってたくとがこちらを見る。

「あ、すみれか。」

「ごめんなさい。少し気になってのぞきみしちゃって。」

そう言って身を引こうと思ったが、

「いやいいんだ。」

そう言ってかれは迷ったのか少し考えて

「入ってきていいよ。」そう言う。すみれは迷惑をかけたと自分の行動を反省したがとりあえず中に入った。なんだろうか?よくわからない機械だろうか?立方体や数字の書かれた装置がおいてある。何してるのか聞こうと思ったが、とりあえずたくとが言うまでは待つことにした。

「すみれ、君は今の日常をどう思う?」

そう聞かれた。どういう意図かはわからないがとりあえず率直な気持ちを伝えることにした。


「楽しいよ。幸せだよ。」そうこれが私の本心である。

「そうか、でも不思議だとは思わない?この国が。」

「いやなんでもない。」

不思議か、すこしすみれも考えた。ただ特に思い当たる節はなかった。


 またそののちの夜、今日はなにやらにぎやかな気がする、二人とももっちがなにやら話しているようだ。いったい夜遅くに何をやってるのか、きになったが今日は偵察をやめることにした。たくとは前濁していた。つまり悟られたくない知られたくないのだろう。人には隠し事の二つ三つあってもいいじゃないかそうおもってその場を後にしたがその日はきになって眠れなかった。


朝、おきるとおなかの上いやちがう顔か?胸か?どこかに体重が乗ってる気がする。目をあけると、

「おはようだね。」ももっちがこちらを凝視している。

「ひゃ。」


凍えながら悲鳴をあげる。びっくりした。

「ももっち、おどかさないでよね。びっくりしちゃったよ。」

布団から起き上がる、ももっちはふすまの台の上に座っていや立っている。こっちを瞬きせず凝視している。すこしの恐怖をかんじつつも


「どうしたのももっち?」


そういうとももっちは口をひらいた。


「君について少し知りたかったんだ。なぜ君はそんなにも楽しそうなんだい?」


なんのことだろうか?


「いやもっと具体的に言おう。この国に生きていて楽しそうにして幸せだといった。それはなぜだい?」


何が聞きたいんだろう。


「それは、、うーん、やっぱり」


伝えたいことはわかるのに言葉にならない。そうこうしてるとももっちはなにやら本くらいのサイズの黒いものを取り出しこちらに転写する。それが光って音がする。


「なるほど、君はつらいことがあったから比較して…」


そうひとりごとをももっちは言う。そして


「君は知らないだけだね。この国について、いやちがう、しってるけどきづかないのか。」


なにを思ったのかももっちは理解したかのようにうなずいてその場から消えた。


 彼女、すみれは障害になるね。だとするとどうしたものか?

夜ののぞきみを発見した時からももっちは頭を悩ませていた。方法は二つしかない。味方にするか無力化するかのどちらかだ。

だが、予想どおり彼女にはタクト、デンタ同様のやり方で説得して信をえることはできないだろう。だとすれば、無力化するとこだがこれも難題だ。

彼女のたくとへの影響は無視できない。なら不自然なことをしないほうがいい。そう結論づけてももっちは液体をとりだす。赤い色のいかにも怪しい液体。これを、こっそりとすみれへと注射する。効果は期限付きだが、終了までには間に合うだろう。これを打っておけば彼女は絶対に敵対することはないだろう。

そう思い寝ている彼女の部屋に侵入し少しずつ注射をする。

つくづく思うけど人間って弱い生き物だよね。感情にどこまでもむしばまれ弱体化する愚かな生き物。

僕の長年の人間観察とデータからすれば間違いない。すみれの感情をこの液体で増幅させる。さすれば、きっとうまくいくだろう。ももっちは平静としていた。



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