舞台は横浜の観光名所・山下公園周辺――赤レンガ倉庫、大さん橋、停泊中の船舶など行き交う人々との間を流れる穏やかな時間を感じる美しい作風。
しかし、それを引き裂くような出来事が……
雪妖、闇バイト、異能。
非日常のアナザーサイド。
魂の介入で奇異に施された物語の輪郭や正義・悪の境界線が曖昧になり、気づけば尊い命と引き換えに盗まれた大切な赤い靴の奪取と得難い故人の記憶とに胸が締め付けられていく。
タイトルにもある赤い靴。取り返した特別な思いが滲むのはこの公園が特別な場所だからでしょうか。
横浜の山下公園に設置されている『赤い靴の女の子像』――岩崎きみという名の生前報われなかったこの子へ思いを馳せるラストは印象的。異人たちに連れ去られてしまった少女への偲びと、いま守るべき晶子への優しい心とが交錯する。
優しい嘘も、残酷な真実も――過去が美化されていくのは、今を、未来を、少しでも光あるものへと映らせようと馳せる精神的なまなざしがあるからだと感じざるを得ない。
それを愛でるために今日もこの時間を己の矜持を守るため煙草の紫煙に誓う、男のロマンが映える横浜奇譚です。