狐、撫でられる

「このせ、乗れ!」

「はい!」


 白羽が手を伸ばす。その掌にジャンプ! そして蹴って、肩にぴょんと俺は辿りつく。


「っ……重いな」

「尻尾一本増量したから!」


 それもそうだなと、白羽は笑った。

 そして、蓮先生と同時に動く。

 並んで走る――先に踏み込むのは白羽。

 思い切り振った錫杖が、こんと柔らかい音で止められた。勢い全部、鴉羽さんの錫杖で殺された!

 でも次の手!

 後ろから走った糸がその錫杖を絡めて抑えてる。そのまま、蓮先生が黒刃を突き出す。

 これは、いくだろー!! って思うのに、指先一本で止められた。


「このせ!」


 その声に俺も炎ぶつける!

 それは吐息ひとつで掻き消される。わぁ……!


「かわいい炎だな。珠那のものとはまた違う」

「兄ちゃんの炎! 綺麗だもんな!」

「ああ、綺麗で……あれになら焼かれても良いと思える」


 惚気だ!!

 とか、思ってたら映澄師匠のビーム! これはさすがに避ける……って思ったのに避けない!

 大きな羽ばたき一回で曲げて、散らす!


「……戦い方が先輩たちにそっくりだな」

「っ、そりゃ親父たちに色々叩き込まれてるんで!」


 でもまだまだ、って鴉羽さんは楽しそう。

 三人の親は、俺の兄ちゃんの夜行にいる。なら、この人とも知り合いなのは間違いない。

 でも一緒にいるとこは、見たことないんだよなー!


「俺は先輩たちと正面から戦って、負けたことがある」


 その戦い方は知っている、って鴉羽さんが言う。

 だから、小狡い手も経験済み、って――静かに琉珀さんが回してた糸も、錫杖で地面叩いて巻き起こる風で切り伏せた。


「うわ、バレバレ! 白羽、なんか弱点とか!」

「……弱、点……?」

「わー! 稽古とかつけてもらってるんだろ!」

「いつも体術だけでやられる」


 そんなもの、兄には無いが、って顔を白羽がする。

 それ相当だな! って琉珀さんが楽しそうに叫んだ。

 もー、どうにもできなさしかない!

 とりあえず攻撃! って炎をばら撒く! でも中途半端なものじゃすぐ消える!


「琉珀! 映澄! めちゃくちゃ腹立つけど、アレだ!」

「! 蓮……それって、まさか」

「まさか、アレを……!?」

「アレくらいしか無いだろ……!」


 アレって、なに!?

 蓮先生たちが三人だけでわかりあってる。


「白羽とこのせは、手ぇ出すなよ!」

「ちょっとだけ見てて」


 蓮先生と琉珀さんが、笑って。映澄師匠は本当にやるのかー! ってちょっと煮え切らない。


「はー、ほんと! 今日親父たちいるんだぞ!」

「……」

「……」

「なんで黙るんだよ! あとでいじられるの覚悟してんだな!?」


 がしがしと頭を乱暴に掻いて、でもやる! って映澄師匠は鴉羽さんを見た。

 はー、って長く息を吸って、鏡を連ねていく。


「いいぞ、待ってやる」


 鴉羽さんには余裕ある。そして付喪神の三人か、って呟いた。


「鏡……闇無先輩にはよく騙された。纏先輩にもやられたことはあるが、殴り返してるからいい。音霧先輩には……煮湯を、飲まされた……っ」


 親父、何したんだ!? って琉珀さんがビビる。

 あー、俺はそれ聞いたことあるかもー。


「手加減はいらないな?」


 鴉羽さんの目が座ってる。

 なんか募ってるけど、それ俺たちじゃないから! 手加減必要だよ!!


「兄上、楽しそうだな」

「あれ、楽しいじゃないと思うけど!?」


 白羽も何言ってんだー!! ってぺちっと頬叩いてる間に映澄師匠が妖力を最大まで注ぎ込んで――鴉羽さんを鏡で囲む。

 鴉羽さんはゆっくり、それを眺めて何もしない。あくまで全部受けるつもりなのがわかる。

 そんで、映澄師匠の昂ぶり、それが張りつめて――世界が一気に、眩しくなる!

 おあー!! 目! 目がっ!!

 その眩しさの中にいくつもひとのかたち――ほあっ!!??


「ぶ、ぶんしん!!??」

「いや、あれは映澄が作った影みたいなものだろう。だが」


 この数は、って白羽は笑う。

 そう、俺の四足の爪じゃ足りないくらいの数。めっちゃいっぱいの!

 蓮先生と琉珀さんだ~!!

 でもその中にぐにゃってしたなんか変なのも混ざってる!

 途端、たくさんの蓮先生と琉珀さんが動き出して、鴉羽さんに襲いかかる。

 全部違う動きをしてるたくさんのふたり。映澄師匠が全部操ってる!?


「子供だましだな」


 ここ、と鴉羽さんが錫杖振るった先で蓮先生が砕けた。でも別の角度から別の蓮先生が来てそれも散らされて。

 蓮先生がいっぱいでわかんなくなる!

 次々に散る。その中で琉珀さんは糸を巡らせて、それを鴉羽さんも察してた。


「は~!? なんでわかんだよ、こんなにいるのに!」

「そりゃ蓮が雑だから……」

「うるせー!」


 元気な声が聞こえる。まだふたりはやられてない!

 鴉羽さんの羽ばたきひとつで何人か消えて、その先に蓮先生がいた。直接鴉羽さんと打ちあって、また紛れる。

 黒刃をいくつも飛ばして牽制。でも気付く。その刃にきらきらした、糸がかかってること。

 どこかから、琉珀さんが糸で操って機動を変えた。直線的だった刃の軌道が複雑になってた。

 

「蓮はすごいな。兄上ともう何度打ち合っているのか」


 黒刃、それから錫杖が交差するたびに高い音が響く。

 白羽は、ちょっとだけ眩しそうに見つめて、蓮は俺よりも強いかもしれないと零した。

 けど、三人で戦っているからか――とも。

 白羽も、強いよ! って俺は尻尾で撫でる。そしたら、白羽は小さく笑った。

 戦いをはらはら見守る。空気が一瞬冷えたみたいに感じた。

 瞬いた次の瞬間、映澄師匠が作り出してた二人の分身が全部、消えた! そこに残るのは本物のふたりだけ。

 鴉羽さんの後ろから蓮先生がきて、正面は琉珀さん。


「強くて、ムカツク!!」


 蓮先生、声あげたら台無しでは!!

 でも、鴉羽さんの動きが、一瞬止まってた。

 たくさんいたのが一気に消えた。どこ、って見失ったんだ。

 そこで、鴉羽さんを糸が絡め取る。それは鏡の中を通って四方八方から。

 蓮先生に鴉羽さんの視線が向いた瞬間、一気に縛り上げられて抑えた!

 これは! 一撃入るんじゃ!?

 白羽の肩でふんす! 俺は尻尾をたてて、息を呑んだ。

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