第125話 港町マークイン

 みんなで手分けをして、荷馬車に必要最低限の商品を積んで行く。


 久々の外だから、いつにも増して張り切って荷物を積んでいた。


 人前が嫌いで、中々外に出ようとしないアリスフィア引きこもりも、今回は外に出たいらしい。


 そりゃあ、こんな場所で日の光も浴びなかったら、気が滅入るよ。



「っし。クロ、今日も頼むぞ」

『任せろ。ディーレルがのぞむなら、どこにでも飛んでやる』



 クロの頭を撫でると、嬉しそうに口をぶるぶる震わせた。


 この地下迷宮に引っ込んでから、中々満足に飛ばせてやれてないからなぁ。こういう時は、文字通り羽を伸ばしてもらおう。



「ベヒイチ、ベヒニ、ベヒサン、ベヒヨン。俺たちがいない間、屋敷の事は頼むな」

『『『『いってらっさーい!!』』』』



 迷宮攻略では大変だったベヒーモスは、今や立派なうちの守護神だ。


 それが4体もいる。こんなに頼もしい事はない。


 俺は御者席に。みんなは荷台に乗り込む。


 ネメシスも、今はルーフェンが抱っこしていた。



「みんな、準備は良いな?」



 小窓から覗き込むと、みんな頷いた。よし。



「クラウン。今日も頼むぞ」

『おまかせあれ、おにんげんさん』



 腕についているクラウン・オブ・ネメシスが反応する。


 3年前にネメシスに教えてもらった、詠唱を呟いた。



「『戴冠せよ――クラウン・オブ・ネメシス』」



 腕輪が藍色に発光する。


 光は帯となり、形作り、俺の頭を囲うように浮かぶ王冠となった。


 右手の平を前へ向ける。


 強固な壁が波打ち、形を変えて穴を形成していく。


 ものの数分で、地上へと向かう坂が完成した。



「クロ、行くぞ」

『ああ。みんな、しっかり掴まってろ』



 翼を大きく広げて、低空飛行で穴の中へ飛び込むクロ。


 かなり急な坂道だけど、こいつには関係ないからな。


 遠くの方に、地上の光りが見える。


 クロのスピードが上がり、何度か翼を羽ばたかせ……外へ、飛び出た。


 少し冷たいけど、気持ちのいい風が髪を弄ぶ。


 数週間ぶりの外の空気……うめぇ~。


 下を見下ろすと、平原のど真ん中に地下への穴が空いていた。


 さすがに、これは目立ちすぎるな。


 もう一度右手を突き出すと、石レンガが蠢いて蓋を作り出した。


 これで、俺たち以外の誰も迷宮に入ることは出来ない。


 入ったとしても、ベヒーモスたちの餌食だけど。それはそれで、夢見が悪いからな。


 平原を越えて、山の上空を飛ぶ。


 あ……潮の匂いだ。


 と、その時。急に視界が、青で染まった。

 どこまでも続くと思う程の、広すぎる大海洋だ。


 見下ろすと、山の斜面を切り崩して作られた町があり、大中小様々な船が停まっている。


 人々が行き交い、魚はもちろん海の向こうの商品がやり取りされているのが見えた。


 ここが、アムスラート王国最大の港町、マークイン。


 海底都市伝説、、、、、、のある、歴史ある町か。



   ◆◆◆



「ディーレル君! いやぁ、久しぶりだね!」



 無事サノア邸前に降り立つと、髭をたっぷり蓄えたサノアが、笑顔で迎え入れてくれた。相も変わらず、いい笑顔だ。



「お久しぶりです、サノア閣下。3年前は、申し訳ありませんでした。急に店仕舞いをしてしまって」

「なぁに。ノーザンラーツ様から話は聞いてるよ。何やら、大変だったらしいね」

「ええ、まあ。色々とありまして」



 詳しい事は伏せながらも、うまい具合にノーザンラーツが説明をしてくれている。

 お陰で、サノアを含めた他の貴族からの詮索もない。


 本当、あの人には頭が上がらないな。



「本日は出張ディーレル商会という事で、商品をお持ちしました。どうぞ、ご覧ください」

「いやぁ、ありがとう。感謝するよ。そろそろ、妻や子供たちにも新しい物を買ってあげたいと思っていたんだ」



 振り返ると、夫人はルーフェンたちと楽しそうにおしゃべりしていた。


 12歳の少女と10歳の少年は、ネメシスとクロに群がっている。相変わらず、子供に大人気だ。


 サノアが執事を従えて商品を物色している間、柵の向こうを眺める。


 海を眺められる大豪邸か……良いな。

 人目に付かないように、地下を移動している俺たちとは天と地の差だ。


 バレないように引きつった笑みを浮かばていると、サノアから「そう言えば」と話し掛けられた。



「ディーレル君たちは、いつまでこの町にいられるんだい?」

「え? そうですね……少しゆっくりしたいので、しばらくは滞在しようかと」

「それなら、明日また来てくれるかな?」

「……明日ですか?」



 意味がわからず首を傾げていると、にこりと微笑んで深く頷いた。



「せっかく来てくれたんだ。私の所有する、プライベートビーチへ案内するよ。そこでゆっくり、リフレッシュすると良い――」

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