第28話 最も地味なのに、最も効果的な司令塔

今日はタンク仲間のインディアナでのアウェーゲーム。


相手チームは下位に沈んでいるのに、観客でいっぱいだった。


うちが前半のうちに大差でリードしてしまっているので、試合としては見どころのない試合だったが、観客の熱狂は心地よかった。理由は、ベンチにいる選手目当てだろう。時折、愛想よく観客の声援に手を振っては笑顔を振りまいていた。


「インディアナは負けにきてるな。おかげで、貴重な勝ち星を拾えたな」


HCは満足げに語る。今期インディアナ相手に2連勝。タンク狙い同士の直接対決では2連敗というわけだ。俺はとっくに役割を終え、ベンチで休んでいた。うちのチームはこんな展開が多い。4Qで俺が仕事をしなきゃならない試合展開は少ない。


「シーズン前はインディアナってプレーオフ圏内は狙えるって評判でしたよね。多くのアナリストも解説者もそう言ってました。”ハリバーの負傷離脱はそこまで大きな穴じゃない”って」


去年のファイナル6戦で、タイリース・ハリバーはアキレス腱断裂をし、今期絶望だった。だが、ファイナルに行ったチームと、ハリバーのすぐボールを放すプレースタイルから、彼一人の離脱でそこまで大きな違いはないとの前評判だった。


蓋を開けてれば、インディアナは安定して勝率2割をキープ。ドラフト上位指名権争いの首位を独走していた。


「選手達の評判もいまいちで、最も過大評価されている選手トップに選ばれてたよな。なのに、プレーオフじゃファイナルへ行き、OKCを追い詰めた原動力なわけだからな。わからないもんだ」


ハリバーの凄さは素人目にはわからない。


オールコートでの彼の凄さはすぐわかる。卓越したコートビジョンでフリーの選手にノールックパスを送る。ハイライト映えする選手ってやつだ。しかし、ハーフコートになると、彼はすぐに横パスをする。だから、勘違いされる。


大したことない選手だって。


彼は、パスをした直後に、味方を誘導するようにリロケートする。パスコースやドライブコースができるように、ボールを持たずにプレーメイクする。味方がなにもできなくなったら、再びボールを持ち、ピックやドライブでハブとして、相手に選択を強制しながら、シュートまで持っていく。


一見するとなにもしていないように見えるが、彼のいるチームは、絶えず相手に選択を強制する。フリーのシュートだったり、ドライブだったり、ロールだったりで、その時々で最も期待値の高い選択肢を強制する。彼は、選択肢を生み出しているのではない。すでに生まれている“最適解”を、ただ選び続けているだけだ。


最も地味なのに、最も効果的な司令塔。


おそらく、ニコラ山・与吉と同等の攻撃でのプレゼンスを生む。


ただし、誰にも気づかれずに。


その彼はベンチで私服で笑顔を振りまいている。


「明るい選手だなー。スティーブ・ナッスをさらに明るくしたようなやつだ。あんなやつがチームにいると助かるんだが、ただ、あれでMAX契約ってのが重いよな。身体能力も平凡だし、スキルも平凡。いざって時に違いが作れないんだよな」


とコーチは語る。これがハリバーのほとんどの人の評価だ。


今、目の前でインディアナのハンドラーはドライブからクリエイトして、シュートを決めた。ベテランのTJマッコヌル。セカンドチームのメインハンドラーだ。


「マッコヌルのほうがクリエイト能力があるのな。あいつが控えなのは身長だろうな。ハリバーは196あるからスタメンで守備の穴にならないもんな」


このようにハリバーがいかにもクリエイト能力がないかのように語られる。


とんでもない。


ハリバーはクラッチタイムやプレーオフで徹底的にハントをする。ハリバーのIQで弾き出した相手チームで最も穴になっている選手を見つけ出し、あの手この手で、ミスマッチを作り出し、チーム全体でハントをさせる。


現に、ハイライト集で、ハリバーがビッグマンやスモールガード相手にタフショットらしきものを決めているのをよく見る。あれらはタフショットなどではなく、フリーのプルアップなのである。


かつて、マイクル冗談がフィジカルとスキルでフリーを生んだのに対して、ハリバーは頭脳でフリーのショットを作り出す。


「この調子で、来年、ハリバーが帰ってきて、インディアナは勝てるのかね?」


「さあ、どうなんですかね。でもま、一昨年はカンファレンスファイナル、去年はファイナル。アシストターンオーバー比は4くらいだし、なんかあるんじゃないですかね」


とだけ答えといた。


理解できない人には理解できない。

理解されないからこそ、価値がある。


少なくとも、理解されないことがあるからこそ、理解する側にとっては、貴重な仕事が回ってくる。NBAだろうが、MLBだろうが、NFLだろうが、スポーツじゃなくても、それはどこでもそうなんだろう。

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