10話 魔術協会日本支部 1
久遠達が露天商の男を捕らえてから翌日。久遠の提案で自身の所有する民家で男を監視することになったが男は魔法に関する質問には一切答えなかった。
彼が所持していた魔法具は全部没収しており外界と連絡するそぶりもなかった。
エリスとクレアに接触してきたのだから恐らく魔術協会の関係者だろう、そう久遠とクレアは予測していた。もしそうなら解放してはならないという理由で拘束しているがそれでも男から連絡がなければ魔術協会に怪しまれる。
いつかはこうなると覚悟していたクレアはとにかく男の素性と魔術協会との関係性を知りたかった。
久遠もそうであるが魔術協会や魔法に関しての情報は魔法が根付いていない日本ではクレア以上に分からないため魔法に関する情報も知りたいと考えていた。
「まだ何も話しませんか?」
「そうだな。口を開くのは魔法以外の話をする時だな」
「......なるほど。一応尋ねますが手荒な真似はしてませんよね?」
エリスは男の身柄を久遠に渡した際に手荒な真似はするなと久遠に頼んでいた。
「勿論だよ」
「エリス様があれほど好戦的だとは思いませんでした」
クレアは魔弾が魔法陣シールドで防がれた後の事を思い出す。
エリスは魔眼を使う事なく久遠から教わった接近戦でクレアを援護した、彼女の戦闘を見ていたクレアは自分が敬愛、いや溺愛していたエリスがあれほど積極的に戦闘をするとは思いもよらなかった。
「魔眼の力を忌み嫌っていた彼女なら戦うのを拒むかとばかり......」
「うーん、これは言っても良いのかな?」
「エリスが言ってたんだけどな━━」
エリスが久遠から特訓を受けていた時の話。
「それにしてもエリスがこんなに根気があるヤツとは思わなかったよ」
「そうか?」
多少手加減はしていたが幼い少女が根を上げるレベルの特訓をさせているつもりだったが泣き言も言わず、投げ出す事もせずに淡々と特訓についていくエリスに久遠は感心していた。
もし投げ出してくれるのなら......魔力と無縁な生活をさせてあげようとしていた。クレアとエリスの境遇を考えたらそれが幸せだと久遠は考えていた。
だが予想以上に特訓についてくるエリスが少し疑問であった。
「この特訓をしたって魔眼の力が必ず制御できるようになるわけじゃないんだぞ?」
「それに護身術にしたってそうだ、魔力強化の習得には役立つかもしれないが」
「......クレアには言わないと約束してくれるか?」
エリスが小さい声で尋ねてくる。
「見ての通り口は固いぜ?」
「......強くなればクレアを守れるから。魔眼を制御したいのは本当だ。だが魔眼の力を使わずクレアを守れるなら有難い」
「あいつは今まで私を守ってきてくれた。父上を失って絶望してくれた私の側にいつも寄り添ってくれてここまで付いてきてくれた」
エリスにとってクレアはかけがえのない家族である。
屋敷にクレアが来た日からエリスの人生は変わった、クレアという精神的な支えが側にいるようになってからは魔眼の暴走は収まった。討伐隊の襲撃までは魔眼の暴走は一切なくそれはエリスのメンタルが不安定になり攻撃的になる事がなかったという証拠だ。
「クレアには幸せになってほしい。それが私の願いだ」
「エリス様がそのような事を......」
内緒にするからとエリスに言われていたのはひとまず置いてクレアは彼女がそれほどまでに自信を想ってくれている事に驚きを隠せなかった。
自身が付き従うのは何も当主に言われたからではない、だが表向きは職務、あるいは仕事のようなものだ。
だからこそエリスが自分を守ってくれるなど畏れ多い。
クレアはエリスの言葉を知り胸を締め付けられる思いになった。
「私はエリス様が想っているような人間ではない」
「......久遠様はいつ頃から私達を尾けていたのですか?」
「公園を出た時からだな」
そんなに前から尾けていたのかと呆れるもクレアは話を続ける。
「私が通行人から財布を盗んだり、男に攻撃を加えた時どこか手慣れていると感じたはず」
「私は生き抜くために多くの罪を重ねてきました。その事に対し懺悔する気もありません」
「きっと私がしてきた行いを知ればエリス様は幻滅します、私はあの子が思っている以上に薄汚れた人間です」
クレアは苦しそうな表情で独白する。
「人間誰しも言いたくない過去の一つや二つあるだろう?俺にだってある。エリスだってクレアの過去を知ったからって嫌いにはならないと思うぜ?」
「......好きとか嫌いとかの話ではないのです」
クレアは彼の言葉にこれ以上話しても意味がないと察した。
後日、露天商の男に関して進展があった。
久遠の所有する民家に呼ばれたエリスとクレアは久遠と合流した。
「俺の秘書、国枝は元忍者なんだ。じいちゃんの右腕として働いてくれたんだが今は忍者の情報網を管理、担当してくれている。国枝が言うには......」
エリス達も何度か国枝と会話した事があった。とても温和な人で海外から面倒を運んできたはずの自分達に対しても丁寧に接してくれた。
とても元忍者には見えない一般人であった、そんな人間が久遠の秘書として彼を支えているのだ。
「まずこいつが露店に出している品はどれもが海外製品だ。入手元こそ特定しづらい代物ばかりだがヒントはあった」
「この手の物を入手するには海外の輸入業者とコネを持たないとならない。ましてや個人でやるには限界がある。極め付けはこいつが出店していた場所だ、あの公園に出入りをしつつ海外から輸入品を取り扱うなら近くに貿易会社があると推測した」
「その結果......こいつが頻繁に出入りしていた雑居ビルにあるサルシマ貿易という会社を見つけた」
サルシマ貿易、開業してまだ浅い貿易会社。取り扱う品も男が売っていたような小物をメインに販売していた。
取引先にはエリスの祖国も含まれていた。
「お前がここの社員だという事も調査済みだ。これからそこに行くんだが良ければ道案内してくれるか?」
ここまで調べておいて道案内もクソもないだろう、露天商の男はそう言おうとするが観念して口を開く。
「......電話を貸してくれ」
男は慣れた手つきで電話のダイヤルを回すとバツの悪そうな顔で受話器を手に取る。
「姐さんか?......ああ、ちょっとヘマして捕まっている」
飄々とした男が申し訳なさそうに電話するのを3人は黙って眺めていた。すると男は久遠に受話器を手渡す。久遠が受話器を受け取ると電話口から女性の声が聞こえた。
「アンタが冴島を捕まえてるヤツか?」
「九頭龍久遠だ。アンタんとこの人間が俺の身内に危害を加えたから拘束している。返して欲しけりゃアンタのとこまでお送りするぜ?」
「ふん。あのバカが何したか知らないがそいつの命がどうなろうと知ったことではない」
「しかしそいつが迷惑をかけたのなら詫びるしかない。だが生憎私は忙しい身だ、私の所まで来てくれるなら今回のけじめをつけると約束しよう」
久遠はその話を承諾し電話を切った。
「罠です」
「ああ、わかっている。だがこっちには人質がいる」
「......まるで悪役だな」
エリスが久遠の悪そうな顔を見ながらそう呟く。
「冴島とか言ってたな。こいつを連れてサルシマ貿易に行く。クレアとエリスはどうする?」
「私も行きます。お役に立てるかは分かりませんがもしもの際は国枝様との連絡役にはなるかと」
現状動ける人員が限られる中、クレアは九頭龍邸に待機するより久遠の側にいる方が良いと判断した。
「クレアも行くなら私も行く」
「エリス様!?」
「久遠と行動する方が安全だと思う」
エリスが最もな事を言うが内心自分達に危害を加える存在を知りたかった。
こうして久遠、クレア、そしてエリスの3人は冴島と共にサルシマ貿易へ行く事が決まった。
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