【詩集】100本ノック!
須田釉子
1〜10
第1主題:固い
人間はみんな液体の状態から始まる
羊水の中で細胞を増殖させて形を作っていき
生まれては柔らかく、死しては硬直して
老いるごとに人間は固くなっていく
六十年前、母の胸の中でのけぞった赤子は
三十年前、おでこのシワを気にし始めて
十五年前、
そして三秒後、その男からは昔の記憶が消えていく
六十年の時間を経てガタの来た肉体と頭脳は
まるで錆びついたロボットみたいにキィキィ言って
差す油もなければ付ける薬もない
取り返しの効かない人生と部品にいつだって後悔している
同調圧力の幻聴が今でも脳裏に襲う
会社と嫁さんを見つけて、早く身を固めろと
それでいてあの人は頑なだと笑われて
早く「固く」なって大人になれと言ったのはお前たちだ
そして世間は柔軟に生きる人間を許容しないし、
凝り固まった人間は社会から断絶される
世の中は固体と液体の間を流動している人間だけをもてはやして
古く固い人間はヴィンテージにも成り下がれない
そうして変えることのできない信念と価値観を携えて
まっさらな灰になっていく人間の末期
サラサラした砂状の灰には流動性が取り戻されて
また新しく液体のような柔らかさの中に転生していく
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