第7話
学校一の推しの家に居候することになった俺は、どうやら彼女に狙われているらしい
第7話 グラウンドの特等席
「先発は――神谷。朝倉は途中からいくぞ」
試合当日の朝。
監督の声が、胸の奥にずしんと落ちた。
分かってた。
実力はほぼ互角。
でも“今”の信頼は、神谷が一歩リードしている。
「悪いな、朝倉」
神谷がグローブをはめながら笑う。
「まだ終わってねぇだろ」
強がりでもいい。言い返す。
今日は練習試合。
でも実質、レギュラー争いの最終テストだ。
(結果、出す)
何気なく観客席を見る。
そして、固まった。
……いる。
制服姿の橘美月。
日差しの中で、やけに目立つ。
目が合った瞬間、にこっと笑って小さく手を振った。
心臓がうるさい。
なんで来るんだよ。
いや、来てほしかったけど。
「おい朝倉」
チームメイトが肩を叩く。
「推し来てるぞ。打てよ」
やめろ。
耳まで熱い。
試合は序盤から動いた。
神谷が初回でヒット。
守備でもファインプレー。
「やっぱ神谷だな!」
ベンチの空気が神谷寄りに傾く。
俺はバットを握りしめる。
焦るな。
でも視線の先には、観客席の橘。
誰より真剣な顔で、俺たちを見ている。
(隣に立てる男)
神谷の言葉が頭をよぎる。
五回。
「朝倉、行くぞ」
ついに呼ばれた。
守備につき、すぐに打席が回る。
ツーアウト、一塁。
深呼吸。
観客席を見る。
橘が両手を胸の前で握っている。
口が動いた。
――がんばれ。
音は届かない。
でも分かった。
投球。
振り抜く。
カキン――
打球はセンター前へ。
歓声。
一塁ベースの上で、拳を握る。
派手じゃない。
でも確実な一本。
観客席。
橘が、誰より嬉しそうに笑っていた。
守備でも見せ場が来る。
二塁ゴロ。
落ち着いて捕球、一塁送球。
ダブルプレー。
ベンチが沸く。
神谷がグータッチしてくる。
「やるじゃん、朝倉」
「そっちこそ」
神谷はニヤリとする。
「橘さん、ちゃんと見てたな」
胸が跳ねる。
「負けねぇから」
爽やかな宣戦布告。
こっちも、負ける気はない。
試合終了。
僅差で勝利。
監督が告げる。
「最終判断は後日」
決着は持ち越し。
グラウンドの外。
橘が待っていた。
「おつかれさま、朝倉くん」
名前を呼ばれるだけで破壊力がある。
「なんで来た」
「応援」
即答。
「かっこよかった」
「ヒット一本だぞ」
「ううん」
橘は首を振る。
「努力してる人が結果出す瞬間って、いちばんかっこいい」
真っ直ぐな目。
逃げ場がない。
「レギュラー、どっちになると思う?」
「知らねぇ」
「私はね」
一歩近づく。
「どっちでもいい」
「は?」
「だって、朝倉くんが頑張ってるの知ってるから」
反則。
夜。
リビングで二人きり。
「ご褒美、まだだよね」
橘がソファに座りながら言う。
「まだ決まってない」
「でも今日の一本はすごかった」
距離が縮む。
近い。
「前払いで、ちょっとだけ」
顔が近づく。
頬に柔らかい感触――
寸前で止まる。
「続きは、レギュラー取ってから」
悪戯っぽい笑顔。
俺は天井を仰いだ。
心臓が持たない。
レギュラー発表は文化祭後の日
野球も。
恋も。
まだ途中。
でも一つだけ分かる。
俺は今、確実に――
学校一の推しに、狙われている。
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