第11話 我が儘王女


華やかなパーティーに不釣り合いな異音が響く。


「ツェリ・ファータ。良くもこの私に恥をかかせてくれたわね!」

そう告げたのは……ミシェル・クラウン。人間の国の王女である。


「その……何のことでしょうか」

ひとのことを旧姓で呼んでおいて恥も何もないでしょうに。


「何のことですって!?白々しい!私はジャックさまと婚約し公爵夫人になるはずだったのよ!」

「はぁ……」

一体どこの公爵夫人になるつもりだったのかしら。


「だけどファータ公爵は言ったわ!私たちはファータ公爵家の血を引いていないから公爵位を渡さないって!」

それはそうだろう。ジャックが公爵位を継ぐはずだったのは直系の私と婚約したからだ。しかしミシェルと浮気し婚約しなおしたのならその縁も切れる。


「お父さまにお願いしてもダメだって!何でなのよ!」

ファータ公爵家に何の関係もないからでしょう?


「このままじゃ私、ジャックと結婚して平民になっちゃうわ!」

「そりゃぁジャックさまはフロウ侯爵家の次男だもの」

どこぞの貴族に婿入りしない限りは平民となる。ミシェルと浮気し自らその婿入りを蹴ったのはジャックだろう。


「聞いてないわよ、そんなこと!」

「考えないからでしょ、そんなことすら」

「うるさいうるさいうるさい!とにかくこのままじゃ私、平民になっちゃうわ!」

知ったことか。さすがに人間の国の国王陛下もこの我が儘王女に爵位を与えると言う愚行は慎んだようだ。


「だからそうよ……私が、私が妖精王子と結婚すればいいの!」

『はぁ??』

私たちは一様にそう漏らした。


「ふーん、呪われた王子と聞いていたけれど、顔はなかなかいいじゃない」

ミシェルが品定めするようにリュヌさまを見る。


「ふざけないで!リュヌさまは私の夫よ!」

「はぁ?元々は私が嫁ぐはずだったの!だから私が結婚するわ!取り替えなさい!」

何を言っているのよこの我が儘王女は!


「いい加減にしろ!」

リュヌさまの鋭い声が響く。


「俺はツェリと結婚した。俺の妻はツェリ以外あり得ない!」

「でもぉ、私の方がこおんなに美しいわ。私ならツェリなんかよりももぉっと尽くしてあ、げ、るっ」

まるで誘惑するように腰をくねくねするミシェルに、リュヌさまがはんと鼻で笑う。そして……。


「へぇ、これでもか?」

そしてリュヌさまが首を外した瞬間。


「キャァァァァッ!!化け物おおぉっ!呪いよ!やっぱり呪われているんだわ!」

ミシェルが大声で叫び出す。


「何が呪われてるよ。リュヌさまはデュラハンよ」

「その通りだ、ツェリ。ツェリはよく理解してくれている。さすがは俺の最愛の妻だ」

「リュヌさま!」


「いやぁ……っ、認めない、認めない!私が妖精王子と結婚するのよ!そうだ……あなた!」

ミシェルが次に目を付けたのはローお義兄さまだった。


「妖精王子ローランドさまぁ、私と結婚してっ!」

何を言っているんだ、この王女は。


「私は既に臣籍に下っているし、アンジェと言う素晴らしい妻がいる。そもそも最愛の弟を化け物と呼ぶような女は御免だ」

「その通りですわ。妻のいる殿方に対して何てはしたないのかしら」

お義姉さまが鼻で笑えばミシェルがわなわなと震え出す。


「いいから渡しなさいよぉっ!?」

強引に迫るミシェルにこちらの護衛たちが取り押さえる。


「そこまでにしなさい!ミシェル!」

現れたのは……国王陛下!


「お父さま!?」

「建国祭と言う映えある場で何と言う醜態を働いてくれた!みなのもの、ミシェルを捕らえろ!」

ミシェルは近衛騎士たちに引き渡される。


「ミシェル、お前は即刻王族の籍から抜く。フロウ侯爵家も醜態を働いたジャックは追放するそうだ。2人で結婚し平民として一生暮らしなさい!」

既にジャックは落ち目。平民になることまで決まっていたのね。


「そんな、嫌よ!嫌よおおぉっ!」

しかし暴れるも虚しくミシェルはパーティーホールから連れ出されていく。


「ツェリ・アートルム公爵夫人」

「は、はい。国王陛下」

「ミシェルの度々の非礼を詫びよう」

「そ……そんな!頭をあげてください!」


「ミシェルの愚行のせいでそなたが妖精の国に嫁ぐことになってしまった」

「それはそうですが、私、幸せですから」

「……」

「リュヌさまと結婚できて毎日幸せなんです!だからリュヌさまとの縁談を組んでいただいてありがとうございました!」

「そなたは良き娘だ。せめてもの詫びにこの建国祭を楽しんでいってくれ。君のご両親も参加しているはずだから久々に顔を見せるのも良いかもしれぬ」

「はい、ありがとうございます!国王陛下!」

国王陛下の後ろ姿を見送ればこちらに顔を見せてくれたのは懐かしい顔。


「お父さま、お母さま」

「ツェリ、ずいぶんと見ないうちに大人びたな」

「いきなり妖精の国に嫁ぐことになって心配したけれど上手くやっているみたいね」

「ええ、リュヌさまにはとても良くしていただいているわ」

リュヌさまは首を元の位置に戻し改めて両親に向かい合う。


「こんなにも素敵な娘さんをお嫁にいただけて光栄です」

「あらまぁ……」

「アートルム公爵、どうか娘をよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

ハプニングはあったものの、久々に両親との再会を果たしリュヌさまを紹介できたのはとても、とても幸せなひとときであった。


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