第8話 ラクリメの怪


――――大衆料理屋での食事を済ませ、私たちは宿への帰路に着く。


「アニキ、露店には寄ってかねーの?」

「ああ、そう言えば」

デュラハンたちに誘われてやってきたのはお義姉さまにも聞いた噂の露店。


「美味しいわよ。今日は何にする?」

売り子は水系の妖精族のようだ。香ばしい焼き物の匂いに混じってどこかピリ辛な匂いがする。


「これは?」

「イカメシ。イカの中におこわが詰められててな。ピリ辛ソースを塗った特別旨いやつだ」

「わぁ、美味しそうね」

「だろ?俺の分は本辛、彼女はピリ辛で頼むよ」

「本辛はデュラハンお手製ソース100%だけどいいのかい?」

「問題ない。俺もデュラハンだ」

『イエーイっ!』

後ろでデュラハンたちが首を掲げながら叫ぶ。


「そうかい。なら待ってな」

そうして提供されたイカメシ。はむっと齧ればピリ辛ソースとイカと中のおこわが合うのなんの。


「でもこのソース、うちのとはちょっと違う?」

「気が付いたか。デュラハンの激辛ソースも土地や家ごとに違うことが多くてな。ここのソースはラクリメならではのものだ」

「そうなのね。でもこっちのピリ辛ソースも美味しいわ」

「だろ?」

はむはむとイカメシを完食すれば後は宿に戻るだけだ。


「……?」

その時路地裏に消えていく影に違和感を覚える。


「ねぇ、リュヌさま。さっきあっちにデュラハンがいた気がするの」

「え、そうなのか?」

デュラハンたちを見れば。


「俺ら?」

「誰だろ」

「俺たちに気付いたんなら声くらいかけてもいいと思うんだけどー」


「ならちょっと行ってみよう。静かにな」

「う……うん!」

地元民もいることだし迷うことはないはずよね。

慎重に進めばその先の路地は開けておりそこに立っていたのは。


「デュラハン!」

そしてこちらに気が付いたデュラハンが兜を脇に抱えながら鞭を振り上げてくる。


「え、誰あれ」

「知らんし!」

地元のデュラハンたちも知らない……!?


「いい度胸だ!」

リュヌさまも鞭を取り出し頭を脇に抱えれば臨戦態勢だ。


相手のデュラハンは無言で襲い掛かってくる。


「リュヌさま!」

「何の……!」

鞭を振り上げ巧みにしならせれば、相手のデュラハンの鞭に巻き付きそのまま激しく引っ張る。

相手のデュラハンは体勢を崩し前のめりに倒れる。


「やけに軽い。それに小さいな」

「どう言うことなの?」

「それを確かめよう」

相手のデュラハンから鞭を奪い取れば、デュラハンは急いで兜を手繰りよせる。


「素直に姿を見せろ。お前が近頃街を騒がせているデュラハンだろ」

「……」

ゆっくりと兜を首に装着すれば兜を外しふぁさりと長い髪が降りてくる。その瞬間こちらのデュラハンたちが叫ぶ。


「女!?」

「デュラハンちゃんじゃん!」

「うっそ、超めずらしーっ!」

妖精族と言うのは妖精種に応じて男女が固定されたり片寄ったりすることがある。例えばバンシーは女性のみ。セイレーンやドリュアスは男女共にいるが、セイレーンは女性が圧倒的多数。


「デュラハンは男性のイメージが強かったけど」

「女のデュラハンもなくはない。だがものすごく珍しい」

その一例がこのデュラハンちゃんなのだ。


「女のデュラハンちゃんがいたなんて」

「びっくりだよー」

「どこから来たの?」


「どこからでもない。女のデュラハンなんて女としても扱われない。気味悪がられるだけ。土地から土地を渡るばかり、定まれる地もない」


「そんなことないよー」

「行くところがないならここに住めばいいじゃーん」

「俺たちデュラハン仲間ぁっ!」


「だけど私は……この街で姿を見られる度に恐くて……鞭を」

真相はそうだったのだ。デュラハンちゃんは姿を見られたくなくて、女のデュラハンであることを隠したかっただけなのだ。


「なら騎士団に自首すればいい。そしてここのデュラハンたちの中でやり直せ」

「いいの……?」

リュヌさまの言葉にデュラハンちゃんが顔を上げる。


「もちろんだ。この中で騎士団のものは」

「あ、俺が騎士団長だ」

デュラハンの中に団長いたの……?さっき噴水に一緒に激辛ソース投げてなかった?


「事情は分かった。彼女はこちらで面倒を見よう」

「ああ、頼むよ」


『デュラハンちゃんイエエエエェイッ!!』

デュラハンたちに手を引かれ受け入れてもらえたデュラハンちゃんはどこか嬉しそうだ。これから更生してデュラハンとして堂々と生きていければいいわね。


※※※


宿に戻れば極上のスイートが待っていた。


「色々あって疲れたな。今日はゆっくり休もう」

「そうするわ」

「湯は先に使っていいぞ」

「ええ。それじゃぁ……って、あれ?」

「どうした?」

「リュヌさま、デュラハンは水は苦手だけど湯は平気なの?」

「冷たいとどうしてもビビるが湯なら平気だよ」

そう言ってニカリと笑む。湯に入れないと日々の生活にも困るか。


先に湯を使いベッドで待っていればリュヌさまも湯を使い終えこちらにやって来る。


「待ったか?」

「いえ、そんな。これを編んでいたの」

「これは……コースター?」

「そのね、どう?」

「ああ、上手だよ。これは妖精の丘か?」

「ええ。2人の思い出にどうかなって思って」

「俺にくれるのか」

「うん」

「ありがとう、大事にするよ」

「ありがとう!その、今度はラクリメのコースターも作ろうと思うの」

「それは楽しみだな。楽しみにしてる」

「ええ」

どうやらプレゼントは大成功だったようね。

ラクリメ滞在の一日目はハプニングもあったものの幸せで穏やかに過ごせたわ。

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