02話

 遠足のシーズンも落ち着いて、特筆すべきイベントが何もない今日この頃。

 当然、定期連絡の内容も簡潔になっていて、本日の業務はトントン拍子に進んでいた。


「今日は早く終わりそうかもな」


 私は残りの時間で何をしようかなと思いながら、午後最後の報告先である丸木まるき孤児院に電話をかけた。


「もしもーし」


「……っ、は、はい。まっ丸木です」


「う、うふふっ、まっ丸木って、もしかして緊張してます?」


「い、いいええ、全然だいじょぶですっ」


 可愛い反応を見せる相手に少しの親密感を覚えながら、私はふと疑問に思ったことを口に出した。


「えっと、声をどこかで聞いたことがあるんだけど……もしかして、前回の報告した子かな?」


「は、はい!その、こ、今回の報告する予定であった子が、その、急に風邪にかかりましてっ!」


「そうなんだ。早く元気になるといいね。ふふっ、そうか、私、実は同じ報告担当の子と連続で話すのは初めてなんだ。どうしよう。私も緊張しちゃうねー」


「ッッ!!」


「ふふ、じゃあ、定期連絡をお願いね」


「は、はいっ!」


 ひどく緊張していた割には、そこまで大きなトラブルがあったわけでもなく。まあ、季節の変わり目だし風邪くらいは仕方ないか。


「――以上です」


「了解―。その子に『お大事に』って伝えといてねー」


 すべての確認が終わり、志保さんと本日のまとめ会議をしようとした私は、「また来月ね」と言い残して電話を切ろうとした。


「……あ、あのっ!!」


「ん?」


 だけど、通話を切る直前。受話器の向こうから聞こえた単語は、平和ボケしていた私の心臓を激しく鷲掴みにした。


「あ、あの、その……もし違ったらごめんなさい。あなたの本当のお名前は……未尋みひろさん、でしょうか……?」






**********






―――Another View「???」


 私は、今月の定期連絡をするはずだった子に、自分の一ヶ月分のお小遣いと遠足で貰った景品を全部渡し、無理やり順番を代わってもらった。風邪を理由にするから、今日だけは自室から出ないようにと固く口止めもして。


 そして、一人で通話室に入った私は、震える声を必死に抑え、報告の最後にこう切り出してしまったのだ。


「あ、あの、その……もし違ったらごめんなさい。あなたの本当のお名前は……未尋みひろさん、でしょうか……?」


『………!?』


『……ストップ。あなた、誰ですか。何を余計なことを聞いているんですか』


 私はユミさん……いや、未尋さんと通話をしているはずなのに、スピーカーから急に別の女性の冷たい声が響いた。なぜだか知らないけどボイスチェンジャーのせいで前回聞いた声とは少し違っていても、間違いない、この人は確か……。




「……もしかして、ひいらぎさん、でしょうか?」


『!?、あ、あなた、どうしてそれを……!?』


「そ、その、先月の通話で偶然耳にしてしまって、柊さんの声が聞こえまして……」


『……通話?』


「はい、えっと、そうだ。自己紹介がまだでした。私、丸木の一花いちかと申します。その、前回の通話が終わって、私の方からも通話を切ることを忘れずにボーッとしていたところ、急に男性様の声が聞こえて……そして、その方から志保しほさんという方を呼び、会話をするところを聞きました。盗み聞きなんかして本当にごめんなさい」


『……もしかして、通話は繋がったまま、こちらのボイスチェンジャーだけが落とされた……?それで、私の声は有名だから、私が柊志保という結論に辿ったのね』


「……はい。どこかで聞いたことのある声だな……と思いました。そして、そこで柊さんが担当を持った履歴がない不自然さが頭によぎって、もしかしたらな、と」


『はぁ……あなた、なかなか優秀よね』


「あ、ありがとうございます。私も、柊さんみたいに、男性専担総括管理人になりたいと頑張って来たので」


『こんなことじゃない普通の出会いだったら、褒めてあげたかも知れないけど、はぁ……それで?あなたの目的は?』


 私の目的。

 それは当然、この未尋様という男性を知りたい。あわよくばワンチャン狙って……って、それはまだ早いけど。

 もちろん、純粋な『男性への興味(性欲)』もあるっちゃあるけど、人として今までの感謝の気持ちも伝えたい。私はユミ未尋さんのお金で助けられた命なのだから。


「私は、今まで長い間援助してくださった未尋さんに……直接お会いして、どうしてもお礼を申し上げたいんです。生まれてすぐ捨てられた私にとって、未尋様は命の恩人でもあるわけで……だめ、でしょうか?」


『それは、出来ない相談ですね』


 私は、このことを切り出すには今しかないと判断して、もう一歩、奥の方へ踏み出した。


「―――それは、もしかして、未尋さんが、だから、でしょうか……?」


『ッ!?』


「えっ、ごめん、一花ちゃん、それ、どうやって知ったの?」


 今までは黙って聞いていた未尋さんが、驚きの声を隠せずに聞いてきた。

 そして、その言葉で私の推測が正しかったと確信した。


『ば、バカ! 未尋様! それではまるで、ご自身で認めているようなものでしょう!?』


「うーん、でも一花ちゃんって、多分ある程度確信を持ってお話をかけてるように見えるからさ」


「は、はい。その、先月の通話から、いろいろ調べてみて、この結果しかないと思いまして……。でも大丈夫です! 誓って誰にも言っていません!」


 私が必死に弁解すると、スピーカーの向こうで柊さんが重いため息をついた。


『………これは、国家を揺るがす重大事ですね。……一花さん、私の直通番号はこちらです。この後、私に直接電話をかけなさい』


「えぇ、私は参加しなくていいの?」


『未尋様は、危機感が無さすぎるご自身を一人で反省していてください』


「言われなくたってずっと一人なんだけどぉー」


『ッ! ……そういう冗談は、本当にやめてくださいッ!!』


 ―――ブツン

 また、強制的に電話が切られてしまった。

 最後の方、柊さんの声が少し震えていたような気がしたような……。


 ……大丈夫。柊さんとちゃんとお話しできれば、きっと道は開けるはず。私は、震える手でスマートフォンを握り締め、教えられた番号へ発信ボタンを押した。




―――View Off

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る