第6話 『ゴブリンの天気予報はよく当たる。昨日の事を忘れているからだ』
あっという間に訪れた土曜日。春だと言うのに少し寒々しいが、天気は良好。まだ残る日差しのせいで、念のために引っ張り出した厚めのアウターが熱せられて汗ばむ。
グラス・オニオンの店内で開催されるサタデーナイトフェスティバルは、オレが初めて挑む公式戦である。
店舗を訪れた日と同じ様な緊張感と共に、駐車場に設けられた受付をすませるため列に並んだ。少しだけ緊張してるのをごまかすように、メッセンジャーバッグの紐を片手で握りしめる。
前には数名。だいたい見知った顔で、普段との違いはあまり感じられない。
気がついた人へ挨拶をしたりしながら順番を待った。
「いらっしゃーい、大会初参加だねぇ」
「です、今日はよろしくお願いします!」
雨よけの下、長机の対面に座った虎谷さんがにこにこと言う。
すっかり馴染んだ店員さんが続けた。
「大会参加費用は1500円、今回は参加者がそれなりなので予選が一本勝負、ベスト8から三本勝負になりますよ~」
「たしか三本勝負だと一戦ごとにサイドデッキと入れ替え可能でしたよね」
サイドデッキと呼ばれる物は、言ってしまえば予備だ。
対戦中は使用できず、三本勝負のいわゆるマッチ戦で一戦ごとにメインとなるデッキのカードと入れ替えたり追加したりできる。
相性の悪い対戦相手への対処や露呈した戦略の変更を行うためにあるらしい。
一応、フリー対戦の時に練習させてもらったけど。本番の今日、そこまでいけるかどうかは別問題だ。
「今回のルールは『カジュアルマッチ』。公式に禁止裁定を受けているカード以外は、自由に使えることになってるよ」
「スタン範囲だけなんで、一応は問題なさそうっすね」
いわゆるスタン落ちしたカードもデッキに投入できるルールだ。
普段のフリープレイに近い。
初期の効果が少ないカードが現代で以外なシナジーを見せたりと、色々な展開ができるルールらしい。
「はい、登録終わりです。対戦の呼び出しは番号でやるから注意してねー」
差し出されたのは数字の『18』が書かれた白い紙をパウチしたプレートだ。手のひらサイズ、ちょうどサマナーズインベイジョンのカードと同じくらいの大きさである。
「了解です……ところで負けちゃった場合って、どうなります?」
「参加賞のプロモカードを貰って、他の人の対戦を観戦するか交流やトレードしたりになるかな」
つまり普段とほとんど同じか。ただ、今日は知らない人も来てるから試合観戦はいつもと違った楽しさがありそうだ。
オレは虎谷さんへ礼を言って、長机の横を抜けて店の二階へと進みドアを開いた。
何人かの視線がこっちへ向く。見知った顔へ挨拶を。それから馴染んだ相手の側へと寄った。
「よっす、るなちー。今日はよろしくー」
「おお、来ましたな広斗氏。大会で当たりましたら手加減はしませんぞ」
春物の白いボレロにチェックスカート姿。軽やかなファッションといつもの眼鏡スタイルで、るなちーが答える。
実際、当たるかは運次第と言うか初戦でないとぶつかる機会は無さそうな気はするけどそれはそれ。
「今回は新しくデッキ組んできたやつで挑戦するからね、驚かせてみせるぜ」
「ほほう。期待していましょうか」
きらんとるなちーの眼鏡が光った気がする。
師匠とも言うべき相手だ。できることなら、ここ一ヶ月くらいで成長した所を見せたい所。
まあ、初心者というかチュートリアルの突破位はしたよって感じ。
「ちょっと速いですけど、ある程度は揃ったので初めていきますよーー!」
簡単に挨拶をしていると、店のドアが開き虎谷さんが入ってくるなり告げた。
おおっと興奮した声が上がる。
それと同時に、オレの中にも湧き上がるものがあった。
闘争心、と言うよりも未知へと挑むワクワクに近いものだ。
「ふふ、健闘を祈るわね」
ぽん、と。るなちーがオレの肩を叩いて片目を瞑る。
任せておけとオレは親指を立てて返した。
■□■□■
さて。
初戦の相手はショップ内で何度か対戦したことがある年上の男性、犬飼さんだった。
普段使いしているのはビートダウン系だが、今回は――――
「ええと……」
「ふふ」
盤面。
オレの戦場にはオピニオンリーダーの他、7体のユニットが準備万端で指示を待っている。
LPが万全であっても削りきれるだけの攻撃力。オレにターンが回れば終わる状況下で、犬飼さんは不敵に笑った。
「ころせぇ! 一思いにやってくれーーー!!」
がら空きの盤面。可憐な赤髪の少女が不敵に笑うプレイマットにはデッキと墓地、それと専用の領域に置かれたオピニオンリーダー以外はなにもない。
何度か出てきたユニットは、上手いことこちらの妨害が通ったというのもあるが……いや、まさかこんな展開になるとは。
「ええと、じゃあターン貰って……ドロー、そのまま進軍します」
「対応有りません、ありがとうございました」
ぐはーと、犬飼さんが手札を置いて頭をさげる。
オレも習って対戦への礼を告げた。
「それで、えと……何を狙ってたんです?」
周囲ではまだ対戦が続いている。
決着後。対戦の反省や振り返り、健闘を称えつつ検討することを感想戦と言う。
のだが、今回に限れば犬飼さんが何をしようとしていたのかのほうが気にかかる。
「よくぞ、よくぞ聞いてくれた」
言って、犬飼さんはデッキの底から数枚のユニットを出して横に並べた。
「端的に言えば、このマジックのコストを0にして無限回使いまわして場に無限体のゴブリントークンを出すデッキだよ……だったんだよ」
「うぇ、無限ってそんな簡単にできるんですか?」
「できちゃうんだなー、意外と……知っての通り必要パーツが多いから燃やされたらソレまでだけど」
此方へ向けて並べられたカードをざっと眺める。
見た目に反してコミカルなフレバーテキストのゴブリンたちがのびのびと描かれていた。
「無限ってなった場合、トークンの処理とかどうなるんです?」
「無限回数の証明をして、そのへんは省略だな」
なるほど。
置ける分けないし時間も有限だもんね、しょうがない。
「そっちは――――カイルじゃなかったみたいだけど」
犬飼さんがオレの新しいオピニオンリーダーへ目を向ける。
さんざん悩んだ末、今回は【三界を翔ける神鳥ヴァリア・マンダール】を選んだ。
これが一番、使ってみたいカードを詰め込みやすかった。
と言っても、シナジーとかコンボじゃなくて良さそうな動きをするカードをひたすら入れたって感じだけど。
「なんですよ。初めての大会なんで、自分で組んだやつで挑戦してみたくて」
「良いじゃん良いじゃん、アーキタイプは……さっきの感じだとローコスト主軸のビートダウン?」
「そんな感じです。ユニット並べるの楽しいんすよね」
「わかる。さぁ、君も無限ゴブリンを握ろうぜ」
「ええ~~でも、お高いんでしょう?」
「いやー、安いよぉ。古めでそもそも流通に並んでないからストレージを大量に漁らないとだけど」
冗談めかして犬飼さんが返す。
このお店のストレージだけでも何万枚あるやら。
「ふとした時に過去のカードが再録されたり、調整されて出てくることもあるから暇な時に見ておくと楽しいぜ」
「色々と試してみたいですしね」
そうそうと頷き合う。
そうして雑談混じりに感想戦を進めていると、虎谷さんが対戦スペースに顔を出した。
「予選一回目が終わったので、二回目にいきまーす! 負けた人はどいて~! 勝った人は抽選するのでその場で待機ー」
「と、どうやら俺はここまでのようだ……俺の変わりに、グラス・オニオンの天下を……天下を、頼む……!」
うう、と冗談めかした声で大げさに嘆きながら犬飼さんが席を離れていく。
それを見送ったあと、オレは息を吐いて小さく手を握った。
ほとんど、というか9割は運で掴んだ勝利だが勝ちは勝ちだ。
ちょっとだけだが、自分のデッキに対する自信がついた。
■□■□■
「ふふふ、無事に勝ち残れたようですな」
対面に座ってるなちーがカバンからデッキケースを取り出しながら言う。薄い水色は初めて見る。この大会用に新しいデッキや戦術を試す人が多いらしいから、彼女のもその一つだろう。
プレイマットも以前と違った。少し動物らしい顔立ちをした少女が描かれいる。
白っぽい狐に桜色の巫女服がよく似合っていた。
「運が良かったというか、相手の運が悪かったと言うか」
無地のプレイマットを広げ、デッキの一番上。色違いの赤いスリーブに包んだオピニオンリーダーを所定の位置へ置く。
混ざることを避けるためにオピニオンリーダーだけ色違いや、別のデザインが描かれたスリーブを使うのは推奨とまでは行かないが問題ない行為だ。
現に、グラス・オニオンの先輩国主の殆どはそうしているし、動画で見た人たちもだいたい。
いつかは自分の相棒を専用のカッコいいスリーブに収めたいものだ。
「さて――――新デッキのお手並み、拝見と行きましょう」
「お手柔らかに、とは言わないよ」
笑う彼女へ笑い返す。
さあ。
戦争開始だ!
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