第三十三話 因果の流路①

『お祖父様。だいぶ寒くなって参りました――』

 

 そんな書き出しでリリアの手紙は綴られていた。

 枢機卿グレッセン・クロウフォードへの手紙だ。自宅でその手紙をゆっくりと読みながら目尻に皺を寄せているのが、その宛名の人物。


 歳は60。やや小柄だが、骨太の体を普段着の貫頭衣で包んでいる。

 白いものの混じった髭を摩り摩り、手紙を持ち替えては優しい目を細める。


「……もう“贄”を見つけたか。さすが我が孫娘だの。どんな者か楽しみじゃて」


 文字を追う目も優しく細められている。


『因果反動についてお伺いしたく――』


「さてさて、孫殿のために資料を見直しておくか――」


 と呟いて微笑みを浮かべた。


『ついては路銀を稼ぐのを兼ねて、依頼をこなしつつ訓練しております』


 と、ここまで読んで微笑みが凍りついた。


「執事はおるか! 何をしておった! 活動資金を送ってやれ。リリアが金欠で冒険者になっておるではないか」


 慌てふためいてグレッセン・クロウフォードは自宅の執務室から飛び出した。


「まさか本当に冒険者になっておるではないか」


 調査に向かわせただけなのに――

 冒険者に身をやつし、神託に現れた“贄”の存在を確かめさせるだけのつもりだった。

 まさか孫娘が襲撃を受けたり、本当に冒険者になるとは想像もしてなかった。

 

 世界にまたがる大宗教の枢機卿から見れば、冒険者は食い詰め者の最底辺。

 久しぶりの孫娘からの手紙に、心躍らせて開いて見れば青天の霹靂へきれき、頭を抱えてしまった。


 そんな事とはつゆ知らず、リリアたち『フェイトブレイカー』は順調に依頼を成功させ、半年でCランクにまで昇格していた。


 ――――季節は春を迎え。


 名残り雪がちらつく中、リリアたちフェイトブレイカーの一行は枢機卿の自宅へたどり着いた。


「おお、よく来た。よく参られた。ささ、まずは湯浴みと着替えをなされよ」


 執事と共に宗教界の重鎮グレッセン枢機卿の、やや過剰とも思える出迎えを受けて戸惑うフェイトブレイカーの面々。

 夕食を経て、暖炉で温められたリビングに落ち着いた。


「お祖父様。伺った要件なのですが、因果反動についてご存知な事があればと」


 ふむ、と改めて孫娘を見遣る。

 神託のためとは言え、極秘で調査を申しつけた時は胸が潰れる思いだった。

 一年も経たぬうち物言いと言い、立ち振る舞いと言い、ずいぶん逞しくなって戻って来た。


 その原因は“贄”と思わしきこの少年か?

 と目の前のアレックスを見遣る。


 断固たる決意デターミネーションとでも言うのだろうか。

 この少年の瞳にはそれが宿っており、グレッセンはそれに強く惹かれた。

 

「僕に、因果反動の事を教えて下さい」


 少年は静かに、だが力強く切り出した。

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