貰ったただ一言のために、自分のすべてとも言える声を差し出そうとする。
美少年ルカの献身は、あまりにも純粋で、そして、美しく切ない。
ヴァルトは音楽という芸術に取り憑かれ、歌を閉じ込める楽器『ヴォクス・カーヴァ』の製作者。
この二人の関係は、名前のつけられないまま、歌を介して魂に触れ合っていくように交わり、すれ違っていく。
この物語が特にすごいのは、「音」の描写。
音楽が死んだ街・シュタインベルク。
その荒廃が、「音」として強く伝わってくる。
酒場に満ちる騒音、錆びた金属、食物の飛び散る音、舌打ち──
不快な不協和音が街を満たし、読んでいるだけでこちらも胸がざわつく。
だからこそ、路地裏に響くルカの歌声の美しさに、圧倒的な説得力がある。
どこか、往年の名画『ベニスに死す』を思わせる、芸術的な美と破滅。
楽器の完成を控え呼応する二人の心情のクライマックスの重さ
そして、読み終えたあとに残る余韻は、長く心に残ります。
ヴォクス・カーヴァの製作過程がまた、独創的で少し怖くて良かったです。
聖書の天地創造において、神は言われた。「光あれ」と。
もしそうだとするならば、
光より先に、闇より先に、
この世界には音があったのではないかと思う。
音は神聖で、神秘的だ。
目には見えないのに、一瞬にして現れて、やがて永遠に溶けていく。
音には底知れない力がある。
人の魂を震わせ、光よりも眩しく世界を照らす。
この物語で語られる伝説の楽器——ヴォクス・カーヴァは、まさにその力を体現する存在だ。歌声を弦に写し取り、魂そのものを音として残す。美しく、そして残酷な楽器。
音楽が死んだ街で、二人は出会った。音に取り憑かれた職人ヴァルトと、歌うことでしか生きられなかった少年ルカ。似ているようで、まったく違う二人が作り上げたものは、単なる楽器ではなかった。
そこに閉じ込められたのは、旋律ではない。
祈りであり、
罪であり、
救いであり
——魂そのものだった。
『ルカの唄』は、音という目に見えない奇跡を、透きとおるほど美しく描き出す物語である。
冒頭の一文の強さ!
そして音楽が死んだ街という設定だけで、もう勝利が確定している。
この作者さんは、本当に舞台設定が上手い。
錆びた刃、濁った琥珀色の水面、霧の粒子――この作者さんは、言葉の選び方が直感的で、かつ正確だ。
透明な弦が放つ虹色の光なんて、読んだ瞬間に脳内に映像が浮かぶ。
ただの情景描写じゃなくて、こっちの五感に直接手を突っ込んでくるような生々しさがある。
正直に言う。この物語の一番の凄みは、このヴァルトとルカの二人が文字の上で完全に生きていることだ。
過去の罪と音楽への狂気に囚われたヴァルトの、血を吐くようなエゴ。そしてルカ——彼から与えられた対等というたった一言のために、自分の全部を差し出してしまう、あの祈るような無垢さ。二人の感情が、素材の髄から最後の一滴まで絞り出すように煮詰められていて、読んでいて痛い。でも目が離せない。
彼らの行動が物語の都合じゃなく、内側からの切実な衝動で動いているのがはっきりと伝わってくる。
読み終わった後、しばらく動けなかった。
音楽堂のクライマックス、あれは反則だろう。 ルカの声が消えていく静寂と、それと反比例するように世界を満たしていく『ヴォクス・カーヴァ』の旋律。美しいのに、ものすごく重い喪失感が残る。でもエピローグで風と共に旅する青年の姿を見て、不思議と救われたと感じた。
悲劇なのに、どこか神聖で、清々しいような。
美しさと痛みが同居する、忘れがたい作品だった。
最後にこの作者さんに贈る言葉を。
面白かった。読めてよかった。