最後の一文を見たとき、背筋が凍るというよりは、「ん?」という違和感とともに世界がゆっくりと反転していく感覚を覚えました。
それほどまでに、伏線の配置が巧みなホラーサスペンス作品です。
まず、実家の「平屋を無理やり二階建てにし、増築を繰り返した」という描写についてです。
最初は古い家の雰囲気を表すものとしてごく自然に読み流していましたが、その増築の内実が明かされたとき、あの何気ない一文が物語の根幹を支えるものだったことに気づかされ、思わずびっくりしました。
同様に、「二階の廊下は床板が薄くて、所々隙間が開いており」という一文も、単なる情景描写ではなく、ラストのあの場面を成立させるために最初から配置されていた設計だったことに、読み返して二度目の衝撃を受けました(何度衝撃を受けるんだという話ですが笑)
こうした驚きの連続は、今思えば作者による読者の意識誘導が非常に的確だったからだと感じています。例えば、「ギイギイ」という音が読者の誤認を確信に変えてしまう、あの聴覚的な仕掛けなどが見事でした。
また、前作もそうでしたが、非言語描写による関係性の表現は相変わらず素晴らしいです。
座敷に乗り込む場面で、岳士が紗恵香の手を無言で握り、振り返って頷き、紗恵香がその手を握り返す。この一連の仕草にセリフは一言もありません。
それなのに、二人が「常軌を逸した世界を共有する共犯者」として完成した瞬間が、言葉よりも遥かに強い密度で伝わってきました。
ホラーサスペンスとして、非常に読み応えのある、心から楽しめる作品でした。