勇者とは皮肉な病なのだろうか?
この作品を読んで、私が抱いた感慨だ。
世界を救う崇高な使命を抱き、平和のために戦う勇者には、いずれ世界の病理たる魔王と対峙する因果が与えられている。
よくある勇者魔王もののお決まりなパターンだが、この作品の面白いところはその勇者と魔王の戦いそのものが、世界を維持し続けるために必要なシステムになっているという点にある。
魔王は人の悪意を一手に引き受ける病理として君臨し、勇者はその病理を世界から取り除き平和に導く。そしてその勇者が次なる病理として世界に闇をさしていく。
勇者と魔王の戦いはあらゆる作品で時代を変え、場所を変え、繰り返されているが、その戦いそのものが神の定めたシステムであり、世界を維持するための対処療法なのかもしれない。私たちが見ているのはきっと、その終わりなき治療の物語なのではないのか……そんな残酷な想像に、この作品を読んでいると掻き立てられる。
果たしてこのシステムに終わりはあるのか、因果を断ち切る勇者は現れるのか……。考えさせられてしまう。
また、この作品は文章表現も非常に巧みであり、戦闘の臨場感や風景の空気、キャラクターたちの虚しさや絶望感までありありと伝わってくる。
それがこの設定に、さらなる深みを与えていることは間違いない。素晴らし表現力だ。
悔やまれる点が一つあるとすると、この作品が短編であることだろう。設定そのものが面白いので長編で読めないのが勿体なく感じられる。
未読の方はぜひ読んでみてほしい。
あなたも勇者が至る病の絶望感に飲まれるだろう