この作品では、「オリジナル百科事典を作る」という小学校の課題で、とある男子生徒が作った辞典が載せられています。
「あ」〜「ん」までのすべての五十音順で辞典の形式に添って書かれた文章群です。
ですが、これは五十“音”辞典ではなく五十“怨”辞典。
当初から覗く違和感は進むにつれて大きくなっていき……やがて、悍ましい村の因習やそこに巣食った碌でもない怪異、辞典を作った少年や彼が“君”と呼ぶ少女を取り巻くヘドロの塊のようにあまりに凶悪で最悪な悪意が明らかになっていきます。
閲覧者を“傍観者”と類義語とし、閲覧者を呪う辞典を作った少年が、因習渦巻く村で一人戦い続けた日々を想像すると……そして、彼の視点を通してでもあまりに胸糞悪くひどい環境に置かれていた少女やその前の犠牲者達が受けていた扱いを考えると、怖気と涙が止まりません。
あまりに酷く、救いがない地獄のような村のお話です。
ですので先に一言断っておくと、決して万人にすすめられる作品ではありません。
ですが、地獄の中だからこそ……少年が胸に秘めて貫き通した決意の美しさが、少年と少女が二人で送った短い平穏な時が、その間に確かに芽生えていたであろう恋が、より一層際立ち美しく感じられます。
情報の明かし方や言葉選びが非常に巧みで、気づいた時には引き込まれてやめられなくなっていること間違いなし。
因習ホラー×恋愛が好きな方は、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょう。