「うるさい」
「理解してよ」
「親ガチャに外れた」
思春期だから。
反抗期だから。
そう一言で片づけてしまえば、それまでなのかもしれません。
けれど、この物語に描かれている綾香の苛立ちは、そんな単純なものではありませんでした。
受験。
成績。
友人関係。
将来への不安。
自分でもどうしたらいいのかわからない気持ちが積み重なり、一番近くにいる母親へ向かってしまう。
しかも綾香自身、本当はわかっているのです。
言いすぎていることも。
八つ当たりしていることも。
こんな自分は嫌だということも。
だからこそ、読んでいて苦しくなるほど、その感情がとても人間らしく感じられました。
そして、そんな娘の言葉を受け止める母親が、本当に強い。
怒鳴り返さない。
傷つけられたからと、傷つけ返さない。
正論でねじ伏せるのでもない。
綾香がどれほど尖った言葉を投げても、その奥にいる娘自身を見失わないのです。
特に印象に残ったのは、母親の言葉が「あなたは間違っている」ではなく、何度も「あなたがいてくれて幸せ」という方向へ返ってくること。
娘が自分を否定するような言葉を重ねるほど、母親は反対側から、その存在を肯定していく。
そのやり取りを読んでいるうちに、綾香の中で荒れ狂っていた感情が少しずつほどけていくのが伝わってきました。
親子だからこそ、甘えてしまう。
親子だからこそ、一番痛い言葉を投げてしまう。
それでも、その手を差し出し続けてくれる人がいる。
この物語を読み終えたとき、
「母は強し」
という言葉の意味が、少し違って見えました。
勝つ強さではなく、
どんな言葉を向けられても、愛することをやめない強さ。
そんな母親の姿に、胸が温かくなる一作です。