過去へのタイムスリップを扱った作品だと舞台となる時代は、昭和あるいは戦国時代など、現代から遠く離れた時代が選ばれがちですが、本作でタイムスリップするのは2008年。まあ、わりと最近ですね……えっ? 2008年ってもう18年前なの? 今の世の中の高校生の大半が生まれてなかったの? ……そのころってスマホはもうあったかな?
アラサーで独身女性だった「私」は、そんな最近のようでまあまあ昔な2008年の世界――正確にはその年に発売された百合ギャルゲーの世界の主人公の身体に憑依してしまう。そして時代が時代だけあってこの世界のヒロイン一人一人の味付けがやたら濃い! そしてあざとい! これがゼロ年代か……!
最初は戸惑いつつも、徐々にヒロインたちとのギャルゲー生活に順応していく主人公。だが、ある日彼女はこの世界の真の異常性に気づいてしまう! さらにそのショックに畳みかけるように、周囲のヒロインたちが何者かによって殺されていく! いろんな意味で崩れていく現実に彼女はどう向き合っていくのか?
2008年のギャルゲー世界を懐かしいレトロなものとして描くという発想が新鮮で、また物語後半で起こる殺人事件の伏線の張り方やトリックも本作の設定をフルに活かしたものになっている。このトリックは賛否は分かれるかもしれないが非常に挑戦的。当時を懐かしく思う人にも、「まだ生まれてなかったよ」という人にも読んでもらいたい一作だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)