第2章 骨董屋のペアウォッチ
土曜日の朝、健やかな目覚めの中、小鳥のさえずりのする、緑の豊かな住宅街。
こんがり焼けたトーストにバターの香りが芳(こう)ばしい。
庭で採れたミニトマトに、彼女が作った野菜ドレッシング、濃いめのミルクは
朝の食卓を新しく彩っていた。
小鳥のさえずりは、晴れの土曜日の朝にふさわしく、彼女のを心を歌うかのように、楽しく、賑やかに思える。
携帯電話のストリーミング放送のラジオニュースは、今日の天気予報を知らせていた。
「今日の午前中は、快晴。最高気温24度、少し汗ばむ陽気になるでしょう。日傘があると便利でしょう。
午後は曇りのち雨、一時強く降るでしょう。
折り畳み傘を持ってお出かけください.......降水確率は午前中0パーセント、午後70パーセントのち20パーセント。」
このみ「今日は何色の傘を持っていこうかな?」
このみ「ああ、もうこんな時間だ!」
このみ「そろそろ出かけなきゃ」
急いでタクシーに乗り、10分ほどでSCショッピングセンターまで行き着いた。
このみは、タクシーを降りると約束の時間までまだ余裕があったので、お店の店内の広告などをチラチラと見ていた。
広告メッセージ「思い出の時間へリマインドトリップ。あなたの好みに合わせた理想時間をあなたに。思い出チェンジは今から...」
杉田骨董店へお気軽にどうぞ!SCショッピングセンターから徒歩1分。
このみ「なんだかよくわからないけどおもしろそうなお店ね」
時計台の前で約束の時間午前10時に「ひろし」と出会った。
ひろし「やぁ、おはよう!」
このみ「おはよ〜う」
このみ「待ってました!」
ひろしは薄いベージュ色と白のチェック柄のジャケットと紺色のスラックス姿でこのみを出迎えていました。
このみ「すぐ近くにおもしろいお店を見つけちゃって...」
ひろし「じゃあまずそのお店に行ってみよう」
そのお店は待ち合わせの時計台から見通しで見える位置にありました。
ひろし「杉田骨董店か。」
ショーウィンドウにはいろんな年代の骨董品が展示されていました。
お店の中には、口髭を生やした小柄な年配の男性店主がカウンターに立っていました。
彼は、お辞儀をするが、ほとんど言葉を口に出さない物静かでおとなしい雰囲気の店員さんなのでした。
「シーン」とした異空間を思わせる独特の静けさが二人を出迎えていました。
ひろしとこのみの息づかいが互いに響き合う店内は、時代を超えた過去の時間へと誘(いざな)っているようにも思えるのでした。
「シーン」とした雰囲気は、目の前の感覚も研ぎ澄ましているようで、空間に浮かぶホコリの様子も手に取るようにわかるかのようです。
時折店員がホコリ用のはたきで商品をきれいにしていました。
ひろし「このパソコン学生時代に初めてインターネットができたときに発売されたんだ」
「とってもセンセーショナルな宣伝で、刺激的だったなぁ」
「音楽とタレントのコスチュームが斬新だったんだ」
「何かこう前衛的な感覚が呼び覚まされるというか...」
このみ「私は、このスマートフォンが思い出深いなぁ」
「まだみんな高価でガラケーがまだ手放せなくて...」
「でも、ガラケーからスマートフォンにどうしても変えたくて...」
「そんな時に、このスマホと出会ったの」
このみ「これ、これ見て」
このみ「思い出チェンジウォッチペア2000円か。」
商品説明「困った時や悩んだ時に、恋人と思い出交換してみませんか」
このみ「これよさそう」
「あなたが昨日言っていた、小説の中に出てくるのと同じような商品よ」
外見は普通の腕時計のようでした。
この時計を身につけて、二人で並んで腕を組みそれぞれの過去を想像すると、思い出が交換されるという。
このみ「これまでにこの腕時計を身につけて幸せになったり、逆境から立ち直って、成功したカップルがこれまでで4組いるのだそうよ。」
「私たちも先人の後に続いてみるのはどうかしら...」
ひろし「うんうん」
ひろし「困った時でなくても、もっと幸せになりたい時とかでもいいですよね?」
ひろしは店主に訊いていた。
店主「それはもちろん」「人生にはいろんなことがございますから...」
「この時計で幸せになるカップルが増えることは私にとってこの上ない喜びです。」
店主は少し顔のシワが目立つ笑顔で答えていた。
店主「私もこの時計で随分と幸せになりました。その私の家内が先日異次元へ旅立ちまして...」
「それでこの時計はもう使わなくなったので...後世のカップルにこの時計で幸せになってもらえれば、私にとっては嬉しいことこの上りません...」
このみ「そういうことだったのですか...」
このみ「私たちもこの幸せ時計に参加してもいいですか?」
店主「あなたたちは心のあるカップルだ」
「この不思議時計でうんと幸せになってくださいね」
このみ「わかったわ」
このみ「この不思議なペアウォッチ購入します」
ひろし「この時計役に立つといいね」
ひろし「なんだかこの先が楽しみでワクワクするね」
このみ「そうそう」
この不思議時計は店内で新しいバッテリーと新メモリーに更新する設定作業が行われて、このみとひろしの腕にそれぞれ身につけた。
店主が具体的な思い出交換の仕方をこのみとひろしに教えていた。
ひろし「今、思い出が交換できるんですか?」
店主「さっきの設定で、明日の午前0時から思い出交換機能が有効になります」
店主「よくカップルが腕を組んで歩いているでしょう。時計をつけてあの状態でお互いに思い出を思い出すんです。そうすれば自然と交換が始まります」
店主「時計のメンテナンスが必要であればいつでもお申し付けください」
このみ「保証期間はいつまでですか?」
店主「バッテリーの寿命がなくなるまでです。」
店主「この時計でいいことがあるとバッテリーの寿命は伸び、悪いことがあるとバッテリーは消耗します」
このみ「わかったわ。できるだけ大切に使うわ」
店の外はさっきまで雨が降っていましたが、すっかり雲間からお日様が顔をのぞかせていて、このみとひろしの気分を晴れやかにしていました。
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