第12話 道具屋

 装備の修理は夕方とのことなので、ラシアはティアに街を案内されていた。日用品や雑貨が売っている店、本屋などを見て回る。


 街並みは中世というかそんな感じで、あまり発展していないのかなと思っていたが、こうして見ると魔法がある分、想像以上に整っている。


 特に本だ。書かれた物を転写する魔法があるらしく、普通に大量生産できるとかなんとか。ただ漫画のような物はなく、基本的に文字や図で書かれた物が多かった。


(……ここまで発展してるなら水洗トイレ作れよ!どうしてくみ取り式なんだよ!)


 そのことをティアに尋ねると、他の街は知らないけどこの街はどこも似たようなものらしい。


「お風呂ってあるの?」


「お湯に浸かるやつ? 高い宿だとあるってお父さんは言ってたよー。家の水は井戸があるから大丈夫だけど、場所取るし排水が大変だからあまり作らないって」


「確かに場所は取りそう……」


 風呂付きの一軒家を買ってもいいかなとは思ったが、自分で管理するのは面倒だしいつまでもこの世界にいる気もない。金さえ払えば料理も出てくる宿でいいなとラシアは思う。


 歩いていると服屋があった。ティアは子供だが女の子でもあるので興味があるようで、中に飾られたドレスのような服を見て目を輝かせている。


「あの服とかラシアさんに似合いそう!」


 指さした先を見ると、ピンクを基調にフリルがいっぱい付いた服だった。確かに着れば女性になったラシアには似合うかもしれないが……あんな格好でダンジョンは無理だ。歩けばスカートを踏んで転びそうだと思う。


 ラシアの今の格好は、いかにもファンタジーの冒険者だ。膝まであるロングブーツが足を守り、動きやすい上下の服。その上に軽装を装備するが、今は修理中。


 聖銀鋼の鎧を装備するときはブーツだけアイテムバッグに入り、勝手に装備される感じだ。


 だからまともな私服が少ない。いずれ買わなければならない。


 ただ下着は超絶幸運なことに、女性キャラの見た目を変える下着セットがガチャで当たっていた。

 それがアイテムバッグに入っていて、取り出すと自分の体にフィットする物がランダムで出てくる仕様だ。

 汚れてしまってもアイテムバッグに戻せば綺麗になり、またランダムで出てくる。


 ちなみに今日は黒。


(これだけは神様がいるなら本気でお礼を言いたい。女性用の下着を買うとか……レベル高すぎて無理だし嫌すぎる。そもそも店に入った時点でアウトだ)


「ラシアさんどうしたの? 服買う?」


 考えが飛んでいたラシアは慌てて戻り、今はお金が少ないから無理だと答えた。そして道具や魔法関係の店に行きたいと伝える。


「分かった。道具関係はいっぱいあるから、うちがよく行く所でいい? 魔法のアイテムも一緒に売ってるよ」


「それで大丈夫。お願い」


 二人はまた歩き出す。次は反対側の区画にあるため少し遠い。街の中央にある大きな噴水の公園を通ることにした。


 治安が悪い街ではあるが、世紀末のような雰囲気ではない。兵士も巡回しているので、公園のような人の集まる場所では皆くつろぎ談笑している。


 そんな中、ラシアの鼻に甘いカラメルのような匂いが届く。


 匂いの方向を見ると、露店が出ていて紙に包まれた何かが売られていた。


「ティアちゃん、あれ何売ってるの?」


「んー食べたことないけど、前に泊まってた冒険者さんが甘いお菓子って言ってたよ!」


 こういう時、子供がいると本当に助かる。ティアの分も買ってあげるから行ってきてと言えば、嬉しそうに買ってきてくれる。余計な会話をしなくていい。


 それを実行すると、ティアは嬉しそうに返事をした。少し多めにお金を渡し、買いに行ってもらう。


 その間、ラシアは近くのベンチに座り、遊んでいる子供や通行人を眺める。


 耳の長い子供や、ウロコが生えている子供もいる。服装も元の世界とは違い、丈夫そうだ。


 通行人も甲冑を着た兵士、モンスターをハントしそうな格好の者、尻尾の生えた人間、人間版ウルフマンのような獣人など様々だ。


 このゲームには少し面白い設定がある。同じ存在でも、モンスターとして登場する場合とプレイヤーが選ぶ種族では呼び名が変わるのだ。


 例えばモンスターならウルフマン。だがプレイヤーが選ぶと「獣人」という種族になる。


 吸血鬼も同じで、モンスター側はヴァンパイア。プレイヤー側だとナイトフォークだ。


 見た目は似ているので装備で寄せると見分けがつきにくい。ラシアも昔、殴ったらプレイヤーで怒られたことがある。


 それも今となっては良い思い出だ。


 ラシアは空を見上げる。空も流れる雲も太陽も同じなのに、世界が違う。どうしてこうなったんだろうと。


「おうち帰りたい……」


 そろそろゲームのコラボイベントや周年イベントがあるはずだった。だが自分は異世界にいる。


 空は青い。だが、心には雨が降っている。


 もう一度大きくため息を吐き、ティアの方を見るとちょうど買い終わったようだったので、ラシアは小さく手を振り、こっちだと伝える。


 ベンチに座ってそのお菓子を食べる。ポップコーンではないが食感はそれに近く、キャラメルポップコーンが一番似ていた。


「ラシアさん、ありがとう!美味しいね」


 久しぶりに食べる甘味にラシアも満足し、「そうだねー」と答え、次の店へ向かった。


 ようやく店にたどり着くと、先ほどの武器屋と同じくらいの規模だった。ただこちらの方が人は少なく、客層も冒険者より一般の街の人が多いように見える。


 受付にはラシアと同じくらいか少し上に見える若い女性が座っていた。話しかける前に店内を見ようとラシアが考えていると、ティアが元気よく先に話しかける。


「ノアお姉ちゃん!こんにちは。今日は休みになったので来ました」


「あっ、ティアちゃんいらっしゃい。今日休みになったの?お母さん宿に色々届けに行ったよ?」


「大丈夫。おうち改装でお父さんとおじさんいるから!」


「改装ってなにかあったの!?」


「床に穴開いた!」


「なんで!?」


 全面的にラシアが悪いが、知らない人に「私のせいです」とは言いたくない。静かに近くのアイテムを眺める。


 店の中には見たことのない物も多いが、見覚えのある物も多い。ゲームで見た回復薬や消耗品とそっくりだった。瓶の形は違うが、液体の色は本当に似ている。


 そこで大事なことを思い出す。


 毒や麻痺といった状態異常のことだ。ゲームでは毒になってもHPは1だけ残るが、現実ではどうなるのか。そういう問題だ。


(睡眠とか凶化ってどうなるんだ?……毒ってどんな感じだ?お腹痛いみたいな感じか?)


 などとアイテムを見ながら考えていると、ティアに話しかけられ現実に引き戻される。


「ラシアさん。この人はノアお姉ちゃん。お父さんが鼻の下伸ばしてる魔道具店の店長さんのお姉ちゃんです」


「ノアです。こんにちは。鼻の下伸ばしてるって言っても、お母さんも案外ほの字だからそのうちくっつくんじゃない?」


 あの厳ついおやじにモテる要素がどこにあるのかと失礼なことを思ったが、それも人それぞれだと納得し、「ラシアです」と手短に挨拶を済ませる。


「この強そうな人がティアちゃんの家に泊まってるの?初心者さんとか初級さんが多かったよね?経営方針変えたの?」


「ラシアさん強いけど、まだCランクになったばかりって言ってたよ!」


「なんで!?」


 この街に来てから思うのは、住んでいる人のコミュニケーション能力が異常に高いということだ。いつもの受付嬢も、おやっさんも、ティアもそうだ。ラシアのように用がなければ話さないタイプをまだ見たことがない。


「だからラシアさん強いけど初心者だから、ダンジョンで役立つ物があったら安くていいの教えて欲しいって!」


 この小さな女傑を見てラシアは思う。この子はきっと元の世界の遥か未来から来た人型AIだ。人の考えていることを読み取り、勝手に補完して伝える最新式AIに違いない。間違いないとラシアは納得する。


「なるほどー」


 ノアはラシアを上から下まで何度か視線で往復させてから立ち上がり、近くの店員にレジを代わってもらった。


「おすすめは色々ありますが、何か聞きたいこととか、こういう物が欲しいとかありますか?」


 気になる物は多かったが、先ほど思い出した状態異常の方が重要だ。

 まずはそのことを伝え、教えてもらうことにした。


「なるほど。初級ならボス以外は状態異常はほぼ使いません。中級からメインになりますからね。分かりました、分かる範囲で答えましょう」


 ラシアが「ん?」と思っていると、ティアが補足する。


「ラシアさん。ノアお姉ちゃんも冒険者でAランクなんだよ!」


「いやー……なかなか上級になれないAですよ。まずはSにならないと」


 褒められてまんざらでもないノアは置いておいて、ティアを見ながらラシアは思う。この子はやっぱり高性能AIだと。

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