ロマン職は異世界から帰りたい

庶民ザウルス三世

第1話 夢を追い求める。


 人は夢を見て夢に死ぬ生き物だ。


 そんな言葉がある。あるゲームのオープニングで使われている言葉だ。


 ゲームの中でも夢を追いかけ、浪漫を追い求める人達がいる。


 MMOが世界に出始めた頃から少しずつ頭角を現してきた人達だ。


 効率が悪い? 弱い? 何それ美味しいの? と言わんばかりに、ゲームのキャラクターに自分の好きをこれでもかとつぎ込んだ。魔法使いなのに杖で殴る。聖職者なのに鈍器で殴る。相方の鷹が本体といわれたり、防御と回避に極振りし攻撃は他人任せ。そういう人達をネタキャラ、もしくは……


 ロマン職と呼んだ。


 時代が進み、ゲームがEスポーツと言われたりして何でもかんでも効率を求めるようになってくると、そういう人達も少しずつどこかへといった。


 ただ消えた訳でもない。エロマンガの間にもロマンがあるように、形が変わっていただけだ。人々は夢を忘れた訳ではなかった。


 今日も一人、浪漫を追い求める男性がゲームをする為にスマホを操作していた。


 ゲームにログインし、新作のピックアップガチャが目に映る。


「なになに……聖銀光シリーズ?見た目はかなりかっこいいな」


 スマホに映る自分のキャラにお試しの着せ替えをさせてみると、とても似合っている。白に近い銀色で、その輝きはとても美しくかっこよかった。


 その装備によって上昇する効果に驚きガチャを引く事を決意する。


「これは買うしかない!コンビニ行くのめんどくさいけど……クレカで買い始めると意思が弱いからいくらでも使っちゃうしな。一万ほどやるか引くか!」


 男は上着を羽織り外へと向かう。


 道中でマンホールの工事をしている現場の横を通り、寒空のなか近くのコンビニへと向かった。


 スマホに映るのは赤に近い金色の髪とフルプレートに身を包み、それよりも目につく身長より大きなハンマーだった。


 女性キャラがそんなデカいハンマーを持てるか、とは思うかも知れないがゲームだからそんな物だ。


 キャラクターの名前はラシア・ラ・シーラ。特に何かを思って名付けた名前でもなく、思いついた名前をつけたキャラクターだった。


 そしてこのキャラも男の好きを形にしたキャラクターだった。


 DPSや殲滅力も低く、人見知りでオンラインゲームなのに一人でしか狩りに行かないが、クリティカルさえ出れば一撃のダメージだけは全てのキャラクターの中で最も高くなるステ振り、スキル取りだった。


 ただ、ほかのゲーマー廃人とは違い長く続けてボチボチやっているぐらいだったので、もっと最適化されたステ振りなどもあったかもしれないが、男はこのゲームを楽しんでいた。


 そして今回のピックアップガチャもクリティカル率の上昇とクリティカルダメージの上昇が組み込まれていたので、男は引くことを決意したのだった。


 一万円分ほど支払いを済ませガチャを引く……


 回復アイテムやもう持っているアイテムなどが当たるが、目的の物はなかなか当たらない。


 引き終わるが目的の物は出なかった。


 再度コンビニに入り、さらに一万円ほど支払いを済ませる。


 店員に「また来たんですが?」と言うような顔をされるが気にならない。


 駐車場でもう一度ガチャを引く。


 結果は惨敗である。


 そしてもう二度、三度課金し天井を迎えた所でようやく目的の装備が当たった。


 後悔は……大いにある。


 だが上昇したステータスと自分のキャラが装備した姿を見るととても似合っていたので、概ね満足だった。


「ま、まぁ……いいか。PC組み替える為にお金貯めてたけど、死んだら何もできないし。今を生きよう」


 満足はしていたが想像以上にお金を使ってしまった事には少しため息が出る。


「明日も……仕事か。あそことあそこに連絡入れて……資料作って……」


 ゲームを見ながら明日の仕事の事を考える。人見知りである男は会社に行くのが苦手ではあったが、仕事が嫌いな訳ではなかった。


 特にブラック企業という訳でもなく、残業も少しすれば帰れて給料もそれなりにもらっているので、特に文句などもなかった。


 帰ってからや休日に何かやりたい事があるのかと聞かれれば、特にやりたい事もないので、自分が好きで始めたゲームでボチボチ時間を潰したりサブスクのアニメを見たりするぐらいの生き方だった。


「学生時代のクラスメイトとかは結婚したみたいな話とか聞くけど、どうやって彼女とか作るんだろうな?そもそもどんな会話するんだろ?」


 ずっとゲームして生きる訳にもいかないが、今更何か新しい事をしたいかと言われればそうでもないので、これからどうなるのかと少し考えたが、そればかりは考えても仕方ないなと諦めて男はゲームに向き合う。


 ゲームの倉庫から装備を整えてダンジョンに向かっていく。


 課金しまくっただけあって外れたアイテムも使える物ばかりだった。今までは属性武器が足らずソロで行くのを諦めていたダンジョンにも入っていける。


 ロマン職だけあって効率を求める人達とはパーティーは組めない。ロマン職と言えば聞こえは良いが、彼らからしたらネタ職や遊びの類のキャラクターだ。


 人生があってゲームをする人と、ゲームが人生の人とは、基本的にわかり合えない。


 そして男はとても人見知りの性格で、仲良くなれば話もできるが仲良くなるまでの壁がエベレストよりも高い。


 だから生まれてこのかた友人の数は片手の指で足りる。仕事のように事務的な会話なら何とかなるが、雑談となるととても難しい。


 なんというか話しかけて相手の思考を止めてしまうのではないかと考えたり、話しかけていいのだろうかと考えると人に話しかけるのはとても難しいと思ってしまうからだ。


 実際、考え事している時に話しかけられると少し困ったりもするので……


 これから先もきっとこんな感じで生きて死んでいくんだろうなと、プレイしているゲームのフレンド数0が現実を突きつけた。


 ながらスマホで進んで行く。クリティカルさえ出れば楽勝なモンスターに苦戦したり圧勝したりしながらゲームの世界に入り込む。


 当然周りは見えていない。


 すれ違う車、すれ違う人。周りが自分を見ていない様に、自分も周りを見ていない。


 だからこそ……危ないと言ってもらえた声にすら気がつかない。


 足に黄色と黒のコーンバーが引っかかる。


 えっ?となり男は体勢を崩し前のめりにバランスを崩す。


 そして倒れ込む先にはマンホールの蓋が開いた大きな穴だった。


 ゆっくりと景色と思考が流れていく。そこは自宅の近くで工事をしていた場所だった。


 ヤバいと思ったが体は穴に引きずり込まれる様に落ちていった。


 真っ暗な大穴をゆっくりと落ちていく。


 そして何かが折れる様な音がした。


「……落ちたのは分かるけど……痛みが無いな。……だれか救急車呼んでくれたらいいな」


「あー……課金もしたし……病院代はいくらになるんだろう……」


 意識はゆっくりと消え始めるなか、男の瞳は自身のキャラクター、ラシア・ラ・シーラを見ていた。


 男にはもう聞こえないが、遠くから救急車が近づいてくる音と「大丈夫ですか!」と叫ぶ声があった。


 男が意識を失うと同時に操作されなかったキャラクターもボスモンスターに敗北した。


 そして男の意識とゲームのキャラクターは光に飲み込まれていった。


 白い光から黒い光。世界の全てを色で作った様な光が体を突き抜ける。


 ……………………


 まぶしい光に当てられて目を覚ますと、そこは何もない広い草原だった。


「うん?夢か!」


 男が起きたと同じ時間に一つのニュースが流れた。


 昨夜、一人の男性が工事中のマンホールに転落し、死亡したと報じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る