第181話 増えた住人

 ラシアが言葉を失い、パルサーが頭を抱え、ティーガーが現実から目を背けるようにコアラの王様へ話しかけた。


「おっ? コアラの王様やんけ! 元気か?」


「おおー。若虎ではないか。こちらは殺されても死なんぐらいには元気だな。そちらも元気そうで何より!」


「なるほど。それはええことやな!」


 そして……ティーガーは何度か深呼吸してから、大きな声を上げた。


「……あのアホ猫どこ行った! おやっさん! 猫怪人は!」


「おやっさん言うな。部屋に逃げていったぞ。二階の突き当たりだ」


「ありがとう! パル、行くで!」


「さすがに……これは見過ごせんな」


 ティーガーとパルサーは物凄い勢いで二階へ上がっていった。一階にいるラシア達にも、そのやり取りが聞こえてきた。


「こんにちはー。聖騎士です。フウコウさんいますかー。開けてください」


「いませんにゃ! ワッチは悪くないにゃ!」


 そんな問答を繰り返した後、ティーガーがキレた。


「聖騎士言うとるやろがい! はよ開けんかい!」


「開けろと言われて開ける奴はいないにゃ!」


 一階まで聞こえてくる声は、どんどん激しくなっていった。


「おやっさん。宿、大丈夫そう?」


「ん? 猫怪人には壊したら追い出すって言ってあるから、大丈夫だろ」


 大丈夫かなーとラシアが思っていると、どうやら大丈夫ではなかった。さらに荒っぽい声が聞こえてきた。


「おー! 開けへんつもりやったらドアから離れとけ! 蹴り破ったるわ!」


「にぎゃ!? やめろにゃ!」


 ドゴン!


 パラパラ……。


 宿が揺れるほどの衝撃があった後……猫の鳴き声と共にフウコウは確保され、逃げないよう縄でグルグル巻きにして正座させられた。


「おやっさん!蹴り破ったのはティーガーにゃ! ティーガーも正座させないと不公平にゃ!」


「お前は全然反省してへんな!」


「おやっさん言うな。そもそも部屋に逃げるな。捕まるの分かってるなら鍵かけるな」


 さすがにラシアも助け船を出すことはできないなーと考えていると、フウコウがコアラキングに助けを求める。


「ふむ。猫の獣人よ。物事の良し悪しにかかわらず、全ての行いには責任が伴う。その責任を取るのが本人とは限らないが、誰かが取らなければならないことは覚えておくのだ。そして責任は巡り巡るのでな」


 コアラの王様に諭され、フウコウはいつもの口癖である「……不幸にゃ」を呟いて静かになった。


 そんなフウコウを見ながら、ノアがティーガーへ質問した。罪状というか、フウコウが今後どうなるのかということだ。


 ノアが覚えている範囲では、街のど真ん中にボスモンスターを召喚してはいけないという法律はない。ティーガーはパルサーと相談してから答えた。


「国家反逆罪でもしょっぴけるけど、そこの猫怪人が前に言うとったみたいに王様を獣人扱いするなら、無罪にもできるな」


「だが……さすがに私達も騎士と聖騎士だ。ここまでのことを見過ごすわけにはいかんな」


 ティアと遊んでいるコアラキングを見ると、大丈夫という気にもなるが……こんななりでもカオスドラゴンより強いし、しかも取り巻きの軍勢を召喚できるのだ。


 王様にその気がないだけで、街のど真ん中へ一瞬で軍勢を呼び出すこともできる。そのような者を召喚したのだから、多少は怒られてこいと思うが……フウコウがボスモンスター名鑑を出した時点で、自分が買い取っておかなかったのも失敗だなーとラシアは思う。


 そんなことを考えていると、おやっさんがコアラキングを見ながらラシアへ質問した。実際にどれぐらい強いのかということだ。


「今ここで戦ったら……負けるかも? コアラキングは全力を出せても、こちらは街への被害を考えると全力を出せませんからね」


「あの王様、そんなに強いのか。ティアと遊んでいるのを見ると、そうは思えんがな」


「蟻の巣でもドミナトリクスを一撃で倒し、ついでにダンジョンをぶっ壊したラシの攻撃に巻き込まれたのに生きてるんやで? その辺のボスとは桁がちゃうやろ……というか、どうやって地星のダンジョンで生き残ったんや?」


 そういえば今更だが、ティーガーもラシアが地星のダンジョンを破壊した時、コアラキングがラシアを背負ってポータルから出てきたことを不思議に思っていた。


 ティーガーがそのことを尋ねると、コアラキングは笑いながら死にかけたと答えた。光に巻き込まれる瞬間、配下のコアラ達全員が自分に覆い被さり、何とか耐えきったということだった。


「家臣に恵まれてなかったら死んでおったな! 多少の火傷はしたが、そのままラシアを連れて出てきたという感じだ」


 そんな感じで助かったのかとラシアが思っていると、コアラキングは椅子から降り、そろそろ家臣達にも連絡しておくかと言った。そして床に手をかざすと魔法陣が浮かび上がり、一匹のコアラマンが姿を現した。


「我はこちらで、しばらくこの世界のことを学んでおく。他の者達にも伝えておくように頼むぞ。あとは妖精の女王にも声をかけておいてくれ」


 コアラマンは言葉を話せないため、膝をついて頭を下げた。しばらくすると先ほどと似たような魔法陣が現れ、コアラマンは消えてしまった。


 今の光景に驚いたラシアは、コアラキングへ質問した。ゲームでは取り巻きを召喚することはできても、帰すことはできないからだ。


「いや、我も知らぬが、他の家臣達が呼び出されることはあったからな。我だけが呼び出されないという例外はないと思い、準備しておいた」


 詳しく聞くと、送り返したのではなく、地星のダンジョンにいる配下のコアラが先ほどのコアラマンを呼び出したそうだ。


 何かあった時には、コアラキングが家臣の誰かを呼び出す。その後、時間を置いて地星のダンジョンに残った配下がその家臣を召喚し、情報を持ち帰らせるという仕組みだ。


 ちゃんと考えて行動しているから本当にタチが悪い。ラシア、ティーガー、パルサーの三人は頭が痛くなった。


 次に考えることは、どうやってコアラキングを送り返すかだ。モンスターを呼ぶアイテムはあっても、送り返すアイテムはない。そうなると、また前のようにポータルを抜け、歩いて地星のダンジョンまで行くしかないが、それも現実的ではない。


 それなら倒せばいいと思うかもしれないが……やり合えるのはラシアだけで、しかもここは街中なのだ。


「あかんな! このクソ忙しい時にやってくれたな、フウコウ! お前は一年ぐらい牢屋に入っとけ!」


「一年で済めば良いな」


「絶対に嫌にゃ!」


「まあまあ、お互いに言いたいこともあるだろうが、そうカッカせずに再会を祝おうではないか! 店主よ、この者達に何か作ってやってくれ。腹も膨れれば良き考えも浮かぼう」


「ほんまやな! おやっさん、なんかがっつりした物頼むわ! 代金は猫怪人で!」


「私もそれで頼む」


「ふっ……不幸にゃ」


 とりあえずコアラキングの扱いは一旦保留となり、本人は宿に居座ることになった。ただし無視できる存在ではないので、デゴットやロディー、デルパロア大公には報告し、指示を仰ぐことになった。


 口約束にはなってしまうが、コアラキングには人と揉めないようお願いした。


「人間に特に恨みがあるわけではないのでな。こちらからは何もせん。ただし殴りに来たら殴り返すが……それは良いな?」


「全然構わへんで。埋めてもええぐらいやな」


 そしてフウコウもようやく縄をほどいてもらい、騒ぎは一段落した。するとパルサーが思い出したように妖精のポーチを取り出し、中へ手を入れた。


 パルサーが手に入れたのは、メモライズリングという指輪だった。ゲームでは大きな街で売っているアクセサリーで、下位職が使える魔法を一つ入れておくことができ、MPがある限り使えるという物だ。入れておく魔法は交換もできる。


 ゲームではハズレの部類だが……この世界で考えたら結構当たりの部類じゃね? という気もするし、本人が喜んでいるのでそれで良し。


 次にティーガーが妖精のポーチへ手を入れると、皮の袋に入った大きな鎧を引き当てた。明らかに人用の物ではなく、課金で当たる騎乗用ドラゴンの見た目を変える物だ。


 ゲームでは性能などに変化はないが、触った感じでは明らかに軽いうえにめちゃくちゃ硬い。こちらでは見た目だけでなく、普通に強化もされるんじゃね? というのがラシアの感想だ。


 それを持って、ティーガーは喜びながら中庭にいる虹竜へ装備させに行った。


 二人が割と良い物を出したのを見て、フウコウは膝から崩れ落ちて泣いた。


「どうして周りばっかり良い物が出て……わっちはまともな物が出ないにゃ……不公平にゃ!」


「それは仕方あるまい。剣が強い者もいれば、魔法が強い者もいる。幸運な者もいれば、不運な者もいるのだ。他人と比べたところで仕方あるまい。比べるなら過去の自分と比べ、前よりマシなら良かったと思う方が心は平穏であろう」


「そうは言っても、幸運な方が良いにゃ!」


「確かにそれはあるな! では困ったことがあったら我が助けてやろう」


「ありがたいにゃけど……コアラの王様に何ができるんにゃ?」


「そうだなー。そこのラシアがいなければ、街ぐらいは滅ぼせるぞ?」


「それをやって捕まるのはわっちにゃ!」


 そんなやり取りをしている間に、出かけていたリレッサが戻ってきた。リレッサとコアラキングは互いに驚いたが、特に揉めることもなく、宿の住人が増えたのだった

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