第179話 妖精のポーチ

「それで? 私は国王となりましたが……天使達、いえ、シエルオーテス様達はどう動きますか?」


 数日前にこの国を滅ぼし、新たな国王となった男がシエルオーテスに質問する。


「まずはゼレストニア様をこの世に召喚することだが……どうやって連れ出すかだな。指定した者を呼び寄せるアイテムがあると聞く。それを探す方が無難だろう」


「この国を一日も経たずに落としたあなた様が、それを言いますか?」


「自分の知識だけで世界ができていると思わない方がいいぞ。貴様が思っているよりも世界は広い」


 空を飛べる者が、飛べない者を攻撃するのはとても簡単だ。この国にも強者はいた。だが……空への警戒が抜けていたのだ。


 だから簡単に落とせた。


 雲より上から近づき、相手の攻撃が届かない上空から魔法を撃ち込めば勝てる。それだけでいい。


 そして降下し、強者がいれば天使達で囲んで倒す。動けなくなった者はその場で天使にしてしまえば……国など簡単なものだ。


 確かに自分達より強い者はいた。だが、ローウェンテニアの死神のように桁違いの強さではない。数十の天使で囲めば倒せる。


 こうしてシエルオーテスは、この国の王や城にいた者を全て排除し、シエルオーテスに手を貸した男は国王となった。


 この国にいる人間達を全て殺す必要はない。出ていくというなら好きにすればいいが、残るのなら加護を与えよう。


 この世界を支配するといっても、前回は急ぎすぎた。だから時間をかけてゆっくりと進めていく。


 この世界に天使がいるのが当たり前と思わせるほどに。


「一通りは調べましたが、この国のポータルでは竜の巣や天の城とは繋がっていません」


「それはこちらのミスだな。王都にいる時にゼレストニア様を連れ出しておけば良かったが、今更だ」


「分かりました。まずは……ゼレストニア様をこの世界へ呼び寄せる方向で、こちらも動きます。それと今日は、わたくしこと新国王の挨拶ですので、お力添えをよろしくお願いします」


「いいだろう。お前がどんな王になるのか見物だな」


 そして元司祭だった男は、壊れた城の中から魔法を使い、国民達に向けて自分が新たな国王であると演説した。


 ……


 …………


 そんなことになっている頃、ラシアは宿で、一緒に地星のダンジョンへ行った者達にお金やアイテムを渡していた。


 魔石などを売った金額は労力の割に少なかったが、残したアイテムを見ると……さすがは超級と思える物もある。


 回復薬や状態異常を治す物、耐性を得る物はもちろんだが……『妖精のポーチ』が全員分出た。これが全員分出たのは、おいおい、マジかよ、と言いたくなるレベルだ。


 このアイテムは、ゲームの中で無課金でも課金アイテムを手に入れられる唯一の物で、超低確率で黒い妖精とヴェユリテスアが落とす。


 効果は、全てのアイテムの中からランダムで一つが手に入るというものだ。通称は詫び袋。メンテナンスが延長されたりすると配られるので、その名がついた。運営さん曰く、換金アイテムは出にくく、装備アイテムは出やすいように調整してあるとのことだが……実際のところは謎だ。動画配信者が千個ほど溜めて検証していたが、運営の言うことは嘘ではない。でも出ないよね、という話だ。


 その辺りを省いてメンバーに伝えると、皆は興味津々だった。


「ってことは……いまいちよく分かってないけど、ラシアさんのハンマーとか鎧も出てくるの?」


「ものすごく運が良ければ、出ると思いますよ?」


「明らかにこの袋の方が小さいのに、どうやって?」


 猫型ロボットの四次元ポケットみたいな物とラシアは説明したいが……絶対に通じないので悩む。


「ノアさん。気になるとは思いますが……とりあえず開けてみては?」


「うん。分かった!」


 そう言ってノアが妖精のポーチに手を突っ込み、中身を引き抜くと、バスケットボールぐらいの大きさをした綺麗な水晶が出てきた。


「お? お天気水晶だ。家具系のアイテムも出るのか……一応は課金アイテムだから当たりだけど……」


 どう考えてもポーチより大きい物が出てきたので……ノアもグオンも考えるのをやめた。


「ラシアさん。これってどう使うの?」


 ゲームでは拠点へ設置し、自分が住んでいる地域を設定しておけば、水晶に天気が現れるアイテムだ。だが、こちらの世界での使い方はラシアにも分からない。とりあえず今日の天気を尋ねてみては、と言うと、ノアが試した。


 すると水晶に文字が現れ、夕方ぐらいから曇り、夜には雨になると教えてくれた。


「凄い便利そう! 洗濯する時とか!」


 この世界で天気予報など聞いたことがないので、うまく使えば、あれ一つで財を成すこともできるんじゃね? と思ったが……出したのはノアなので、余計なことは言わない方がいいなーという感じだ。


「お姉ちゃん! 私も使っていい?」


「うん。いいよー。部屋に置いとくから使ってねー」


 そして次はグオンがポーチに手を入れると……小さな木の実が出てきた。


「姐さん、これは?」


 グオンが出したのは力の木の実。食べるとステータスの力が永続的に+1される物だ。食べ続けたらステータスが上がり続けるんじゃね? となるが、そうは問屋が卸さない。木の実で上げられるのは、どのステータスも+10までが限界だ。


 それを説明しても仕方がないので……食べると少しだけ力が強くなる木の実だと伝えると、グオンは皮を剥いて食べ始めた。


「なんか柑橘系みたいな味っすね」


 ステータスがないのに、力が+1されるとどうなるのか? というのはとても気になるので、その辺りは数日経ったら尋ねてみよう。そう思っていると、フウコウがポーチを見て悩んでいた。


「こういうのは基本、わっちが開けても碌なの出ないにゃ。このまま売って金にした方がいい気がするにゃー」


「そんなに気にしなくていいと思いますけどね。それなら、ティアちゃんに開けてもらったらいいと思いますよ?」


「それはそれで、自分に負けた気がするにゃー」


 そして少し悩んだ後、開けないならガロニアが開けると言い出したので、フウコウもポーチに手を入れてアイテムを取り出した。


「なんにゃ、これ?」


 フウコウが取り出したのは、ラシアにも見覚えがある本当に危険な物だった。


「アウトーーー! すぐさま処分で!」


 ラシアが大きな声を出したことに全員が驚く。ラシアはそのことを謝ってから、フウコウが出したアイテムについて皆に話した。


 アイテムの名前は『ボスモンスター名鑑』。召喚系のレアアイテムだ。通常のドロップでは手に入らず、妖精のポーチのようなアイテムからのみ手に入る。


 効果は、全てのボスモンスターの中から一体を指定して召喚できるというものだ。このアイテムがあれば戦いたい時にボスモンスターと戦えるが……現実の街中でやることではない。


 それでなくともカオスドラゴンが現れ、王都は半壊まではいかなくても、五分の一ほどが被害を受けている。


 しかも盗まれたりすると……大変なことになるのは目に見えている。


「……やっぱり碌な物出なかったにゃー」


「紛争地域へ行って、何か呼び出すのも面白そうだけどね」


「ガロニアさん、さすがにそれは……」


 とりあえず出したのがフウコウなので、その辺りは雇い主と相談して決めてほしいが……騎士団や聖騎士のお世話になるような使い方だけはやめてほしいと思う。


 次はラシアの番だが……今回はティアに碌なお土産を用意できなかったので、これをあげればいいかと思い、妖精のポーチを渡した。


「これは私からティアちゃんにお土産ー。開けていいよ」


「ラシアさん、いつもありがとう!」


「ラシアさんは基本的に、ティアちゃんに激甘すぎる」


「お土産の範疇を超えてるにゃー」


 そんなことはないと思っていると、ティアがポーチに手を入れて何かを取り出した。そこには、太陽と見間違えるほどに輝く物が現れた。


 そして……その場にいた他の皆に待ってもらい、ティアとおやっさん、セレット、ノアを連れて二階へ上がり、家族会議だ。


「それで? 今日はそんなに忙しくないからいいが……このブレスレットがどうかしたのか?」


「私も見てたんだけど~、ラシアちゃん的にやばい物?」


「綺麗だねー。ティアちゃん、触っていい?」


「いいよー」


 ラシアは小さくため息をついてから、ノアが持っている腕輪を見る。


 はい。がっちがちの課金アイテムです。今はもう手に入らないくせに、欲しがる人がやたらと多いアクセサリー――太陽神の腕輪。


 効果は……全ての状態異常を無効にし、約四割の確率で反射する。状態異常を無効にするだけなら、カオスドラゴンからドロップする夢竜の爪飾りと同じだ。だが、この太陽神の腕輪には、それ自体にアクセサリーの装備枠が一つある。


 なので……腕輪を装備しても装備枠を消費せず、さらに他のアクセサリーを装備できるのだ。これが欲しくて課金しまくった奴は多い……。


 簡単に性能を伝えると、ティア以外は冒険者の経験があるので全員が黙り込んだ。


「その辺の宿屋にあっていい物じゃねーな」


「ですから、親御さんに相談したわけで……」


「ラシアちゃんが嘘を言ってるとは思わないけど、少し鑑定させてね」


 セレットさん鑑定もできるのか、とラシアが思っていると、セレットが何も書かれていない紙を取り出した。ティアから腕輪を借りて紙の上に載せ、呪文を唱えると……何も書かれていなかった紙に文字が浮かび上がった。


 そしてその紙を手に取って読み終えると、目眩でもしたように小さくため息をついた。


 ラシアもその紙を読ませてもらうと、先ほど説明した通りの性能が書かれていた。


「お父さん、お母さん。どうするの? その辺の国宝より凄くない?」


 ラシアは国宝がどんな物か分からないのでなんとも言えないが……おやっさんが少し考えた後、ティアに言った。


「ティア。飾るなり身につけるなりしてもいいが……どこかに出かける時はミミックに預けておけ。あとは姫様とナットンならいいが、他の奴には黙っとけ。それだけは約束だ」


「分かった! けど、それで大丈夫? 駄目ならラシアさんに預けようかなと思ってる」


「いくらセレットやガロニアがいるからといっても、所詮は街の宿だからな。そんな物がこの宿にあるとは思わんだろ」


「まあ、それはあるかも。この辺りでもティアちゃんがお金持ちだって言っても、誰も信じないしね~」


「えっ!? ティアちゃんって、そんなにお金持ってるの?」


「お姉ちゃん。お母さんの冗談だよ!」


「だよねー」


 みたいな話をしているが……太陽神の腕輪を入れたら、たぶんラシアでも総資産では追いつかれる気がする。もちろんゲームの中での話になるが……プラティディオンハンマーも聖銀鋼の鎧も、課金すれば当たるのだ。


 ティアの運の良さを舐めていたと反省し、ラシアはおやっさんに謝った。


「いや、別に謝らなくてもいいが……お前は前からティアには甘々だよな?」


「そんなことはありませんが?」


「そんなことはあるかな~。それでラシアちゃん、私のお土産は? できたらガロニアさんと同じ物だと嬉しい。別の物だと、貴重な方を奪って逃げるから!」


「お母さん、昨日もマンドラゴラ取られたって言ってた!」


 泥棒かな? と思いつつ、ティアと太陽神の腕輪のことは決まったので、一階へ戻る。見ていた人達には、とても高価な腕輪とだけ伝え、黙っておいてほしいと頼んだ。


「まあ、誰かが言ったらラシアが責任持ってハンマーするって話だから、黙っとけよ」


「おやっさん。それは人が死ぬにゃー」


「お前までおやっさん言うな」


 そしてセレットのリクエストで、ガロニアとセレットに渡す物だが、これは偶然にも同じ物に決めてあった。


 それは妖精の粉というアイテムだ。基本的に地星のダンジョンでしか手に入らず、消費アイテムの効果を大幅に高める力を持つ。


 回復薬に使えば回復量が大幅に上がる。地味そうに見えるが、料理アイテムに使っても効果が上がり、持続時間も長くなるので、なかなか馬鹿にはできない消費アイテムなのだ。


 この辺りの効果は現実だと変わっているかもしれないので、名のある錬金術師に渡しておくのが一番無難なところではある。


「へぇー、妖精の粉かい。もっと変な物を選んでくるとは思っていたが、なかなか分かってるじゃないか」


「え? ガロニアさん、知ってるんですか?」


 セレットも知らなかったようで、驚きながら尋ねると、昔、本で読んだことがあるとのことだった。


「私は超級に行けるほどの実力はないからね。実物を確認することはできなかったけど」


 まあ、喜んでくれているので、これで良かったのだろうという感じだ。あとはパルサー、ティーガー、ラオメ、レクトアの分を持っていかなければならないので、ラシアは準備をして王都へ向かうと告げた。


「ラシアさん、ついて行こうか?」


「いえ、すぐに帰ってきますから大丈夫ですよ」


「ラシアさん。今日はありがとー。気をつけて行ってきてね」


 本当にすぐに終わることなので、ノアには待っていてもらうようお願いし、ティアに手を振って、ラシアは王都へと向かった。


「それで? 猫怪人は、そのボスを呼び出すアイテムをどうするんだ?」


 グオンに言われ、フウコウはボスモンスター名鑑に触れながら考える。


「姫様が戻ってきたら、高く売れる方法を聞くにゃー。こんなの、ない方がいいにゃ」


「まあ、それはそうだな」


 そんな話をしていると、ガロニアが思い出したようにフウコウへ質問する。


「そういえば、地星のダンジョンにはコアラの王様がいるんだろ? 若い時にそんな話を聞いたけど、本当にいるのかい?」


「にゅうん? いるにゃー。コアラキングにゃ」


 その言葉に反応するように……ボスモンスター名鑑のページが勝手にぱらぱらとめくれ始め、やがて本全体がぴかーっと光り始めた。

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