第158話 調査依頼

「滅んだ国はウィルディア帝国っていう国だ。お前さんはどれぐらい知っている?」


「全くといっていいほど知りませんね。馬車で半年ぐらいかかる場所とは聞きましたし、大公の資料で地星のダンジョンへ入れる国だと最近知りました」


「それだけ知っていれば十分だな。遠すぎて騎士団も聖騎士も、それこそ冒険者もほとんど行かん。まぁポータルを経由して行けるから、俺達は商人に比べれば速いがな」


 ラシアがなるほどと頷き、話を続けてもらう。


 ウィルディア帝国が滅んだと分かったのは、本当に一週間ほど前のことらしい。狩猟祭の途中に他国の冒険者が流れてきたことで判明したそうだ。


 ウィルディアの城は跡形もなく消え、そこにいた人々の姿もなくなっていたという。


「ただ全員が消えたわけではなく、生き残っている者も多い。そいつらが他国へ散っているって感じだ。ただ、この国でいう騎士や騎士団は全滅したらしい。国を維持するだけの戦力が残っていないということだ」


「何があったんでしょうね?」


「よっぽどのことがあったんだろう。まぁモンスターが原因なのは間違いないだろうな。人々が連れ去られたか、何かを召喚したか。国が滅ぶ原因は基本そんなところだ。モンスターとの生活圏争いに負けて、移動を余儀なくされることもあるがな」


「人対人は?」


「それはないな。人間同士でドンパチを始めれば、人や物資が動く。遠いとはいえ、こちらにも話は届く。あの国とあの国が戦いますよーってな。今回はそういう動きが一切なかった。そういう時は基本、モンスターだ」


「まぁモンスターが、今から戦争しますのでよろしくお願いしますって言わないですもんね」


「それはそれで見てみたいが、そういうこった。だからモンスターなんだが……遠い上に情報がなさすぎて分からんって話だ。こっちもそこまで暇じゃないしな」


「冒険者とかが流れてくると、騎士団や聖騎士の仕事も増えそうですね」


「おう。恐ろしく増えるぞ。どこの国でもそうだが、難民ってやつは主張が激しくてかなわん」


 色々あるんだなーと思いながら、ラシアは話を聞き続けた。


 情報が少なすぎる上、現状ではポータルを使ってもウィルディアの手前にある都市までしか移動できない。そのため調査は難航しているとのことだ。


 それに、かなり言い方は悪いがモンスターも生き物だ。人間との生活圏争いに勝って都市を縄張りにしたとしても、そこから遠く離れた王都まで攻めてくるとは限らない。


 モンスターは人間のように世界の全てを手に入れようとはしない。下手をすれば、人の方がたちが悪い。


 だから今のところは、王都と直接関係のない遠い土地の話なのだ。


 近場なら別だが、そんな遠い国のことまでは手が回らないとのことだった。


「人と動物の間にいる変な生き物が、モンスターって感じだからな。マウスマンとか、まさにそんな感じだろう」


「そう言われたら確かにそうですけど……気にはなりますね」


「完全に無視はできんからな。俺が騎士団長じゃなければ、自分で調べに行くんだが……今は忙しい。そこでだ」


 ラシアはかなり嫌な予感がした。


 だが今から話を無視して逃げるわけにもいかない。続きを聞くと、予想通りの話だった。


「パルサーとティーガーとフウコウを連れて、そのうち調査してきてくれ。報酬は弾むぞ。今の騎士団は白騎士様のおかげで金持ちだからな」


「メリットはあると思いますけど……絶対に大変なのでは?」


「だが……お前さんは超級ダンジョンに挑むんだろ? ウィルディアは地星のダンジョンに入れる場所だから、いつかは確実に行かないと駄目だろ?」


「ってことは、地星のモンスターを国が呼び出したとかもありそう……」


「超級のモンスターを呼び出すような馬鹿な国ではないと思いたいが……その辺は分からんな。そういうわけで、一、二週間後には依頼書を出す。調査へ行ってきてもらいたい」


 お金がどうこうより、国からの正式な依頼として後ろ盾があるならかなり動きやすい。


 行くこと自体は全然構わないのだが……ラシアには一つ懸念がある。


 宿やリレッサのことではない。


 ラシアのクラン、LLLのことだ。


 地星のダンジョンには確実に連れて行けない。


 仮に地星のモンスターがダンジョンの外へ出て、ウィルディアを滅ぼしたのだとすれば、街にも超級のモンスターがいることになる。


 そうなると、ダード達やグオン組も連れて行けない。


 天城ダンジョンは運がよかっただけだ。水没ダンジョンの海底神殿も、本当にギリギリだった。


 ラシアやリレッサ、お兄さんお姉さんズ、パルサー、ティーガーがそろっていたからこそ、何とか攻略できたのだ。


 超級になると、Mr.フェンリルのようなモンスターが普通の雑魚として出てくる。


 超級のモンスターを相手にするとなれば、ノアやグオンでもかなりギリギリだ。ティーガーやパルサーで、ようやく何とかなるという話なのだ。


 そんな場所のモンスターがいるかもしれない街へ、クランメンバーを連れて行くことはできない。


「超級ダンジョンは見なくてもいい感じですか?」


「いや、何があるか分からんから、地星のダンジョンも見てきてほしい。踏破まではしなくてもいいがな」


 となると……確実にダード達を連れて行くのは無理になる。


 全てのダンジョンへ全員で行く必要はない。ラシア達がウィルディアへ行っている間、残った者達が別のダンジョンへ挑むこともできる。


 だが彼らの性格を考えると、無理をして自分達のレベル以上の場所へ行こうとするに違いない。


 だからラシアは、しばらくクラン全体の戦力を底上げしようと考えていたのだ。


 ウィルディアへ行くこと自体は構わないが、その辺が今後の課題だとラシアはデゴットへ伝えた。


「パルサーやティーガーからは、ラシアはけっこうスパルタだと聞いたが……ちゃんと考えてはいるんだな」


「失敬な。スパルタ違います」


「ティーガーやパルサーが苦労する場所に、Bランク辺りの冒険者を連れて行く奴が言う台詞じゃないな」


「うぐっ……」


 それからデゴットは少し考えた後、面白いことを提案した。


「お前らが行くなら、その間に残ったクランメンバーを騎士団と聖騎士で揉んでやろうか?」


 そんな提案が出るとは思っていなかったのでラシアは驚いたが、なかなか悪くない話だとも思った。


 モンスターと戦えば、相手の強さにかかわらず死の危険がある。人を相手にする訓練でも刃物を使えば危険だが……それでも人の方が圧倒的にましだ。


 言葉が通じるからだ。


 ダード達を信用していないわけではないが……まだまだ危ないところは多い。


 それに騎士団や聖騎士なら、デゴットやロディーもいる。死んだりすることはないはずだ。


「こちらからすればありがたい話なんですが……スキルのこととかもありますし、いいんですか?」


「それに関しては、こっちがお前に言う台詞だな。ラシアの方が詳しいからな。それに今は、騎士団や聖騎士に新人が多くいる。小生意気な世間知らずをしばいて、上下関係をはっきりさせる時期でもある」


「騎士団や聖騎士の方がスパルタでは?」


「だいぶ前にロディーから聞いたんだが……若い頃、自分が一番強いと思っていた時期があったらしい。そこへ急にぽんと現れた上司にいきって調子に乗ったら、ぼっこぼこにされたことがあったそうだ。あれはお前のことだろう?」


「私がそんなことをする……は……ずは……あれ?」


 デゴットにそう言われ、ラシアはゲームの中でロディーと出会った時のことを思い出した。


 何だかめちゃくちゃいきっていたことは覚えている。


 確かかなりいい家柄の出身で、「どうしてウチみたいな貴族が、平民の奴の言うこと聞かなあかんねん」といった感じの新兵だった。


 そこでゲームでは選択肢が出てくる。


「まぁまぁロディーさん、落ち着いて」


 と、


「(……うざいから殴るか)」


 の二択だ。


 ラシアが選んだのは、もちろん下の方。


 下を選ぶと続けて「さらに殴る」「泣くまで殴る」「謝っても許さん」といった選択肢が現れ、グラフィックの顔の形が変わるまで殴れる。


 どちらを選んでも、そこからクエストを挟んでロディーが部下になるイベントへ入るわけだが……。


「……私もロディーと同じで記憶の欠落があるので、覚えていませんね」


 そう言うと、それがつぼに入ったのかデゴットは大きく笑い出した。


「あれで世界の広さを知ったとか言っていたからな。よかったんだろう。それで話のついでだが、調査へ行ってもらうにしてもまだ先だ。騎士団や聖騎士がどんな訓練をしているか見に来るか? その方がお前も判断しやすいだろう」


「その辺は気になるので、ぜひお願いしたいんですが……いいんですか?」


「全然構わんぞ。お前のことを気にしている奴は多いしな。新兵共を全員しばいても構わん。というか、お前の場合は王女直属の騎士だからな。名乗れば立場は俺と同じぐらいだから気にするな」


「絶対に面倒なことになるので、一介の冒険者でいいです」


 騎士団と聖騎士の訓練を見せてもらう約束を交わし、そのうち使いの者を送ってくれることになった。


 これで話は終わりかと思ったが、ラシアにはもう一つ気になっていることがあった。


「そういえば、エリゼ嬢とそのメイドのメニスさんを助けた冒険者の詳細って分かります?」


「何だ、お前も気にしていたのか。こちらも気になって探したが……どこへ行ったか分からん」


 デゴットも気になって調べたらしいが、すでに足取りを追えなくなっているとのことだった。


 ちょうど狩猟祭があり忙しかったこともあるが、それでも少しおかしいという。


 この国のポータルを使って入国した者は、冒険者ギルドで手続きをするため記録が残る。


 また他国側のポータルから入った者は、帰る時も同じ国へつながるポータルを使うことになる。


 だがエリゼ達を助けた五人は、入国記録がないにもかかわらず王都のポータルから現れたとのことだ。


「人のやることだからな。年に数回は記入漏れなんかも確実にある。それかもしれないが……少し思うところがあったから調べてみた。だが、もう王都にはいないようだ。いつの間にか、どこかへ行ったらしい」


「なるほど……私は戦女神の五人が出てきたのかなーと思っているんですが、どう思います?」


「十分あり得るぞ。エリゼ嬢が遭難したのは十五階層だ。普通なら一階層進むのに一日、ラシアほどの強さでも半日はかかる。普通に考えれば日数が合わん。助けに来るのが早すぎるんだ」


「竜の巣って高難度ですからね」


「悪い方向に考えれば、どうとでも考えられるからな……王都にはもういないはずだ。調べても分からんしな。個人的には、そっちよりも目を覚まさない冒険者の方が気になっている」


「あー、リュートリアさん達のことですね」


「そうだ。というか、考えることが多すぎてな。何か知らないか?」


 ラシアはドロップアイテムやモンスターの配置など、攻略に必要だった情報は覚えている。


 だが公式ファンブックに載っていた細かな設定までは覚えていないため、すぐに答えるのは難しかった。


「まぁ何か思い出したら教えてくれ。何もなかったなら笑い話で済むが、何かあった時の被害を考えるとな」


 何か思い出したら伝えると約束し、話は終わった。


 外へ出ると、もう日が沈み始めていた。ラシアはそのまま宿へ帰っていく。


 そして朝から本当に何も食べていないとおやっさんへ伝えると、割と本気で呆れられた。


 食堂には人が多かったので、ティアに食事を運んでもらった。


 一人で今日初めての食事を口にしながら、ラシアは考える。


 色々なことが気になるが……やはり一番気になるのは、竜の巣のボスであるカオスドラゴンのことだ。


「確か……夢竜って別名があって、あいつの魔法を食らうと夢を見なくなって、どうのこうの……それで魂がうんたらかんたらって書かれていたような……」


 少しずつ思い出しながら夕食を食べ、そうしてその日は過ぎていった。

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