第148話 戦女神

 ラシア達は三日ほどかけて、比較的楽なエリアを全て回った。予定では一週間ほど見て踏破するつもりなので、なかなかに順調だ。


 仲間達も天使の動きや戦い方に慣れてきたこともあり、かなり楽に倒せるようになってきている。


 だけど……日頃からクランの課題である火力不足が、どうしても出ている。今は応援というか、一時的にパルサー、ティーガー、フウコウ、お兄さんお姉さんズ、リレッサがいるので火力は足りている。


 だけど今挙げた者達を除くと、全く火力が足りない。ここが本当の課題だ。


 クランメンバーだけでは、この天城ダンジョンクラスのダンジョンを踏破できないということだ。


 たぶん水没ダンジョンの海底神殿が限界で、竜の巣も古代のダンジョンも無理だろう。


 そうなると、ラシアの目的である超級ダンジョンなんかは確実に攻略できない。


 天城ダンジョンも上級ダンジョンの中では上澄みの部類に入るが、ダンジョンは他にもまだまだある。資金や装備を整えるにしても、その辺りへ行けないとなるとキツいなというのがラシアの本音だ。


 ラシアが悩んでいると、警戒中のパルサーが少し話をしにやって来た。


「なんだ? 悩み事か?」


「そんな感じですね。パルサーさんなら、騎士団というか部隊で火力が足りないと感じたらどうします?」


 少し考えた後、パルサーは答える。


「そうだな。まずは人を増やす。一人より二人いる方が単純に強い。命令系統の問題は出るがな。その次は装備だな」


「うん? スキルじゃないんですね」


「それはラシアが詳しいから出てくる話だ。普通は、覚えようと思って覚えられるものではないからな。前に教えてもらったデトネイトランスも、騎士団も聖騎士も知らないスキルだからな」


「なるほど。それで装備となってくるんですね」


「そういうことだ。いくら装備を落とすモンスターがいるとはいえ、全部が全部落とすわけではない。仮に落としても、戦闘の影響で使えないものもあるからな」


「確かにそうですよねー」


 この辺りは、ラシアが痛いぐらいよく分かっている。ラシアがモンスターを殴ると、基本的に魔石ぐらいしか残らないからだ。


 そしてゲーム的にも、性能が高い装備ほど出にくい。そういうものは、ボスモンスターや出現数の少ないモンスターが持っていたりする。


 ゲームなら何度も倒すだけで良いのだが、現実では移動にも時間がかかる。そのため特定の装備を狙って狩るのは難しいといったところだ。


「狩猟祭が無事に終わったら、モンスター素材で武器を作ってもらおう」


「それはそれで手間もかかるがな。変な所に持って行くと、素材だけ盗まれるとか粗悪品が作られるなんてことはザラにある」


「普段行っている鍛冶屋さんは、良い店だったのか」


「ラシアは冒険者なんだから、何軒も知っているだろう? 回ってみるのも手かもな。まとめると、楽に火力を上げる方法はないということだ。それで思い出したが、ここも城なのだろう? ローウェンテニアのように、宝物庫とか武器庫みたいなものはないのか?」


 そう言われたので、ラシアはゲームをやっていた時の城の見取り図を思い出す。確かにそんな場所はあった。


 全てのエリアを回るつもりだったので、上手くいけばメンバーの装備強化もできるかもしれない。


 あとは先ほどの戦闘でラオメの盾が破壊されたので、もう少し使える盾があれば良いといった感じだ。代わりの盾は持っていたので問題はないが、騎士団にしても聖騎士にしても、能力に装備が追いついていないといった感じだ。


 フウコウも、能力に対してスキルが追いついていないという意味では似たようなものだ。ダンサー系の職だが、ほとんど踊りを知らない。だから獣人特有の身体能力の高さで、持ち前の不幸とスキルの少なさをカバーしている感じだ。


「では、そろそろ行ってみますか。次のエリアから強さの桁が一つ上がりますので、本当に気をつけてくださいね」


 分かったとパルサーが返事をすると、ラシアは次に向かう場所を皆に伝える。支援魔法もかけ直してもらい、天空の城の中へと入っていく。


 今までラシア達が調べていたのは、城の外回りだ。


 城の中からは天使をはじめ、ヴァルキリーと呼ばれる天使より上位のモンスターが出てくる。このダンジョンのモンスターは進化しないが、進化しない分、一個体の能力が高い。


 白く大きな門を開けて中に入ると、ラシア達の体にかかる圧が変わった。早速お出ましだ。


 目の前には大きな白い盾を持ち、背に大きな黒い翼を生やした女性がいる。


 盾の戦女神シエルオーテスだ。


 物理防御も魔法防御も、ボスモンスターを除けばトップ10に入るほど高い。それほどの堅牢さを持つのが、こいつだ。


 たぶん仲間達の火力では、倒すことは不可能だ。だからラシアはハンマーを構えて前に出る。


「ほう。外が騒がしいから、どこの侵略者かと思ったら……ローウェンテニアの死神か。その上、姫君までいるとはどういう冗談だ」


「えっ?」


 ラシアも仲間達も、時間が止まったように固まってしまう。誰もが驚きに顔を強張らせ、声を発したシエルオーテスを見つめていた。


「何をそう驚くことがある? お互いに知らぬ顔ではないだろう」


「モッ、モンスターが喋ってるにゃ!? ラシア! ここは村とか町なのかにゃ!?」


 フウコウの叫びで皆が我に返り、戸惑う。


 ラシアも驚きを隠せないが、迂闊には動けない。こういう状況での経験があるわけではないが、迂闊に動けば目の前の戦女神が襲ってくるのは分かる。だから動けない。


「ふむ。人語を話すキャットマンも珍しいとは思うが……やはりこの世界は何かおかしいな」


 今の台詞を聞いてラシアが思ったのは、こいつらは……ダンジョンを認識しているのか? ということだった。


「貴女が知っている私と、私が知っている貴女は違うようです。貴女はこの世界を認識していますか?」


「そうだな。私が知っているお前よりはよく話す。それと、この世界が閉じられた世界だということも、こちらは認識している」


 モンスター側がダンジョンのことを認識している……これはかなり危ない案件ではないかとラシアは思う。


 あの村の人達ですら、それは認識していなかったのだ。下手をしたらダンジョンから出てくる可能性がある。


 ラシアが警戒しながら悩んでいると、お兄さんお姉さんズに守られながらリレッサが前に出て、シエルオーテスに話しかける。


「懐かしい顔ですね。シエルオーテス」


「ローウェンテニアの姫君が来るような場所ではないと思うが、さすがは神童といったところか。ローウェンテニアは滅んだと聞くが……どうしてここに?」


「ええ。滅んだので、冒険者というものになっているのですよ」


「なるほどな。ただの冒険者というのなら、こちらもやりやすい」


「過去のことを水に流してとは言いませんが、一旦脇に置いて、話をしませんか?」


「断る。私達天使族と、お前達人間は殺し殺され合う仲だ。話など戯れ言にすぎん。その上、私達は侵略者だ。話し合いなど不要。欲しいものがあれば奪え」


 そう言った後に魔力を解放し、シエルオーテスはリレッサに襲いかかった。


 ラシアはすぐに割って入り、その攻撃をハンマーで受け止めた。


 ドォォォン!


 攻撃を受けた衝撃で、凄まじい爆発音が響く。


 ラシアはシエルオーテスの腹に蹴りを入れて吹き飛ばし、一旦距離を取らせる。


「姫様。下がってください。こいつらと会話は無理です。私が倒します」


「そのようですね。ラシア、任せましたよ。ですが、もしもの時は言ってください」


 ラシアは頷き、構えを取る。


 いくら現実といっても、ゲームの設定も残っている……ラシアはその設定を覚えている。


 目の前のシエルオーテスは、いや、この天城ダンジョンにいる全てのモンスターは、天使の姿をした別の世界の魔族なのだ。


 元の世界を滅ぼし、増えすぎた種族の新天地を求めて現れたのが、ローウェンテニアがあった世界という設定だ。


 だから話など通じるわけがない。こいつらも種族を背負っているのだから……倒す以外にないのだ。


 言葉は通じるが……会話ができない。典型的な例だとラシアは思う。


「さすがはローウェンテニアの死神か。全く衰えてはいないようだな。だが地の利はこちらにあるぞ?」


「その分、こちらには知識があるので」


「ふむ。本当によく喋る」


 シエルオーテスは体より大きな盾の中から、光で作ったかのような剣を取り出して構える。ラシアも同じタイミングでスキルを使用する。


「オーガテックハンド! ハンマーコンタクト!」


 全力で戦えば、シエルオーテスなら楽に倒せる。だが仲間がいる上に、ここは空の上だ。何があるか分からない。


 だから少しだけ抑える。ただ支援はかかっているので、油断などはない。


 だが先手はシエルオーテスに取られた。即座に接近され、光の刃でラシアに斬りかかる。


 ラシアは、こういう技術と手数で攻めてくる相手が苦手だが……それでもこの世界に来て学んでいる。大きなハンマーを小刻みに振るい、その攻撃を流す。


 いくら速いといっても、ギュスターヴよりは遅い。戦いようはいくらでもある。


 攻撃を見切って左手でシエルオーテスの手首を掴み、そのまま持ち上げて地面に叩きつける。


「ぐはっ!」


 そのまま剣ごと腕を握り潰す。


 そしてこれで決着と言わんばかりに、プラティディオンハンマーを振りかぶり、力の限り叩きつける。


 地面が割れて光があふれるが……甲高い音が鳴り響いた。


「ぐっ! 硬い! リフレクションシールドか!」


「本当にさすがだな……こちらも今ので、ここまでダメージを受けるとは思っていなかったぞ」


 そう言ってシエルオーテスは、割れた地面から大きな盾を持ち上げて立ち上がる。左手は潰れ、片足は変な方向に曲がり、翼は散っているが生きている。


 回復魔法を使うと……その傷は一瞬で癒えた。


 ラシアも即座にアイテムバッグから回復薬を取り出して飲み込む。攻撃したのはラシアだが……シエルオーテスの魔法、リフレクションシールドで、ラシアが与えたダメージの二割が反射されたため、腕がズタズタになっていたのだ。


「さてと……仕切り直しだな」


「……そうですね」


 そして仕切り直した二人の戦いは、さらに激しさを増していった。


 結果だけを見ればラシアの圧勝だったが……問題が出て来たので、一度休憩できる泉まで撤退することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る