第139話 海底へ

 ラシア達は湿気が多く、どこからともなく波の音が響くダンジョンを進んで行く。


 一階層から三階層までは、ダード達でも進めるぐらい楽な中級ダンジョンだ。四階層からはモンスターの強さが上がり、フィールド効果と属性攻撃によって上級ダンジョン並みの難易度になってくるのが水没ダンジョンだ。


 全てのモンスターが水属性になるので、地属性で固めておくとわりと楽に狩りができるのも特徴だ。


 ラシアを含めて超級に挑めるほどの戦力がチラホラいるので、連携を見るには怪我の心配も少なく、ちょうど良い感じになっている。


 今のところ心配していたリレッサも全く問題がないようで、ついてきた騎士団のお兄さんお姉さんズも特にクランメンバーと揉めることなく……たまにフナムシとか捕まえて遊んでいる。


 箱船ダンジョンを一緒に踏破した四人だが、その後少し人事異動があり、インペリアルナイトとビショップは騎士団、ロードランサーとアークパラディンは聖騎士となったそうだ。


 さらに狩猟祭への参加をかけた戦いも勝ち上がって本日に至るので、前から分かっていることだが確実に強い。


 ティーガーがお兄さんお姉さんズと話す時は丁寧な感じなので、あの四人も立場のある相当な実力者だと思われる。


「あれ? でもティーガーさん。大公には普通に素で話してませんでした?」


 気になったので、竜の背に乗っているティーガーに質問をぶつけてみることにした。


「そやなー。簡単に言うたらウチと大公は仲良しやからなー。なんや自分は大公の秘密でも知りたいんか? 全然教えたるで!」


「命を狙われるので絶対にいりません」


「それは大丈夫やろ。ラシはたぶん大公に好かれてるからな!」


「全然嬉しくねー」


「にゃんか……大公もティーガーみたいな奴にゃ! 嫌って言ったら寄ってくるタイプにゃ!」


「お? 嬉しいこと言うてくれるやんけ。今の台詞、ちゃんと大公に伝えといたるわ」


「お前マジでやめろにゃ!」


 みたいなことを話しながら進んで行くと、ようやく四階層へと降りる階段が見えてきたので、気を引き締めてから下って行く。


 四階層からはウォータードラゴンのようなドラゴン族なんかも出てくる。竜の巣に行けるのなら問題はないのだが、フィールド効果がモンスターにも乗るので、ゲームだと攻撃力が上がる。


 その辺も検証したいが……今やることではないので、また今度といった感じだ。


 ここからはラシアが一番後ろに下がり、グオンやノアに指示を出してもらっている。


 ラシアが先頭を歩き、モンスターを倒しながら進めば話は早い。だが自分達より立場の高い者に指示を出す機会なんて滅多にない。はっきり言ってこのメンバーなら、ラシアとお兄さんお姉さんズなしで水没ダンジョンぐらい踏破してもらわないと天城ダンジョンは無理だ。


 グオンはエリエスに指示を出し、全員にアースアーマーを付与させる。これで水属性への対策は少しはできている。


 ダード達にしても、前の虹蜘蛛の素材で防具を作っている。グオン達も竜の巣で手に入れた素材で装備を整えたので、装備的には何の問題もない。


 ノアにはローブを貸し出してあるし、リレッサにはオリスメニタのブーケや、ラシアのアイテムバッグの中に眠っていた物で装備を整えてもらっている。だから油断さえしなければ大丈夫なはずだ。


 支援に関してもパロドワ、聖騎士のお姉さん、リレッサがいるので、回復アイテムの使用すら必要ない感じだ。


 なんてことを考えていると……ウォータードラゴンとシーサーペントが出現する。


 ラシアはすぐに支援組の守りに入り、戦闘はメンバーに任せる。グオンは灰竜に命令し、まずはストーンブレスで先制する。


 尖った岩が生成され、モンスター達に降り注ぎ、あっという間にシーサーペントを倒した。


 続いてウォータードラゴンがアクアブレスを放つ。だがエリエスのアースアーマーと灰竜自体の防御力もあり、まともに受けても大したダメージにはなっていなかった。


 そしてビエットとゲニツの二人がウォータードラゴンの両目を潰し、その隙に大剣使いのエンセトが首を刎ねて勝利となった。


「この辺やったらウチらの出番はなさそうやなー」


「ああ。油断さえしなければ問題ないだろう。そういえば大公に、誰がどこに行っているかみたいな話を聞いたと言っていたが、このダンジョンには誰か来ているのか?」


「どっかのXランクは来とったはずやで。シャークムーンとかボス狙ってるんとちゃうかなー」


 ティーガーとパルサーがそんな話をしながら階段の方向に進んで行くので、ラシアは待ったをかける。


「皆さん。そっちではなく、こっちですよ」


「ん? ラシア、そっちは行き止まりじゃなかったかにゃ?」


「フウコウさんが……そう言うってことは、やっぱり未開拓かー……行けば分かりますが、このダンジョンもルートが分かれるダンジョンなんですよ」


「マジかにゃ!?」


「マジです」


 次はラシアが先頭を歩き、目的の場所へ向かう。たどり着いたのは何もないエリアで、床には大きな穴が空き、水の底へと繋がっていた。


「ここから行けるんですが……この先に誰か行ったとか、そんな感じの話を聞いたことってありますか?」


 全員が首を横に振るが……パルサーだけは、この場所について少し知っていた。


「ここから海に潜れるという話は、騎士団でも出ている。潜って行けば先に進めるからと、泳いで挑戦した者が何人かいる。……父さんも若い時に潜ったそうだ」


 すごく恥ずかしそうに顔を隠してそう言うパルサーを慰めるように、インペリアルナイトとロードランサーの二人も、自分達も潜ったことがあると話した。


「確かに……潜れそうな気はするけども、なんで騎士団は潜ってるねん。聖騎士ではそんなん聞いたことないで」


「ロマンだからじゃないですかね」


「ロマンかー。なるほどなー」


 水の中ではまともに武器などを振れるわけもないので、モンスターに襲われたらすぐに撤退したそうだ。


 ゲームだと泳いで行くとかそういうものはないので、ラシアはアイテムバッグの中に手を入れて必要なアイテムを取り出す。


 紅珊瑚のお守り。


 アクセサリーではなく消耗品で、ゲームでは一度使うと三十分間効果が続く。


 効果は水属性攻撃の二割カットと、水中で行動できるようになることだ。超級ダンジョンでは属性攻撃の軽減が必須なので、ラシアはこのアイテムを大量に持っている。ただ、水中で行動するダンジョン自体が少なく、魔法職が習得できるエアーフィールドでも代用できる。


 とりあえず全員に、余裕を持って五つずつ渡す。錬金釜で珊瑚と酸素藻というアイテムを使えば簡単に作れるので、無駄遣いしても特に問題がないアイテムだ。


 ただ少し疑問なのは、こういう形の消耗品はどう使えば消耗するの? って話だ。回復薬とかは飲めば良いので話は早いのだが……口に入れるのは絶対に違うよねって話なのだ。


 ラシアはとりあえず紅珊瑚のお守りを握って魔力を流してみる。すると自分を中心に、ゲームと同じような半球状のドームが形成され、周りから歓声が上がった。


「今みたいな感じで魔力を流せば、こんな感じになるので少し先を見てきます」


 ラシアはそう言って穴に入って行く。形成されたドームには全く水が浸入せず、浮力なども発生しない。そのまま海底を歩くことができ、武器を振っても何かに邪魔されることはなく、地上と同じように行動できた。


 これなら大丈夫そうなのでラシアがメンバーの元に戻ると、全員が準備を終えていた。皆で大穴へと入って行く。


 海の中に入ると、やはり全員が未体験だったようで歓声が上がっている。そしてゲームと同じように、パーティーメンバーを包むようにドームも大きくなっていた。


 一人だけ離れたらどうなるかは気になるが、余計なことをする必要もないので、先ほどと同じような隊列で進み始める。


「姫様。大丈夫ですか?」


 特に顔色が悪いわけでもないが、慣れない所に連れて来ていることもあり、ラシア的にはかなり心配だ。


「冒険者の皆さんのように体力が多いわけではありませんが、それでもこれぐらいなら余裕ですよ」


 ゲームの時でもリレッサがダンジョンに行くイベントがあるのだが、あの時は火山だった。その時に比べれば、出てくる敵も余裕を持って倒せる相手ではある。


「確かに大丈夫そうですが……しんどくなったら言ってくださいね」


「分かりました。ラシアはなかなかに心配性ですね。周りには有能な方々がいるので問題ありませんよ」


 そうリレッサが言うので周りを見るが……全くそうは思えない。全員が初の海底なので、浮かれに浮かれている。


 騎士団のお兄さんお姉さんズは変な貝とか見つけてキャッキャしてるし、ノアやグオンもメンバーと遊んでいる。ティーガーやパルサーも似たようなものだ。


「フウコ! 先に言うとく!」


「なんにゃ?」


「お前絶対にこの中で屁こくなよ!」


「お前はアホかにゃ! するわけないにゃ!」


「フウコには前科があるからなー」


「ないにゃ!」


 その中でも、浮かれながらも真面目に周囲を調べているのは、パルサーとアークパラディンのお姉さんぐらいだ。


 まぁこのフロアはまだ四階層になるので、遊んでいてもそんなに問題はないのだが、ラシアは大丈夫かなーと心配してしまう。


「ふふっ。ラシア。楽しいですね。今日はありがとうございました」


「どうしたんですか急に」


「貴女が助けてくれなかったら、こんなに楽しいことには出会えなかったと思いましてね」


「どういたしまして」


 そして進んで行くと、五階層に降りる階段が見つかった。ラシアはリレッサの笑顔を見て、仲間達に怪我をさせないためにも気を引き締め直し、先へと進んだ。

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