九章 狩猟祭

第135話 祭りとはなんぞや?

 狩猟祭……それは冒険者がお互いのプライドをかけて戦。祭りと名のついた狩りだ。期間内にダンジョンへ潜り、モンスターやボスを倒し、未知なる場所を見つけ、見たことのない物を持ち帰る。


 上位の冒険者が参戦し、持ち帰った成果を冒険者ギルドがポイント化して、総合得点で順位を決める。


 狩猟祭で優勝する事はとても名誉なことらしい。それを狙う冒険者は多いとのことだ。


 ラシアは異世界人であり、中身は一般人なので思う。


 競技みたいなことを言っているが……人の生死がかかっているのに祭りってどうなん? という話だ。はっきり言って何も楽しいことはない。


 楽しくない祭りは祭りではないのだ。


 普段なら絶対に参加しないし、いつも通りに過ごして終わりなのだが……今回は毛色が違う。


 陛下が狩猟祭を宣言する前の大喧嘩にラシアも巻き込まれていたので、その延長になっている。


 ドリルヘアーのなんとか侯爵令嬢に負けた場合は、騎乗ドラゴンの情報をラシアが渡さなければならない。


 デルパロア家に負けた場合は、ラシアのクランごとデルパロア家専属の冒険者にならなければならない。


 ラシアが勝った場合は……別に欲しい物はなかったので悩んでいたら、大公と話す機会があり、超級ダンジョンに関する情報をすべてもらえることになった。


 デルパロア家とドリルヘアー家のやりとりは、ラシア的にはどうでもいいので放置だ。


 今回の狩猟祭には、この国のXランク冒険者とZランク冒険者が参加する。XランクはZランクに上がるため、Zランクはさらに強さや富を手に入れるために。


 優勝すれば国にできる範囲にはなるが、願う物をもらえるそうだ。貴族になった者もいれば、莫大なお金をもらった者もいる。


 他のランクの冒険者も参加はできる。有能な者は、SランクからXランクになることもあるそうだ。


 一応の主役は、XやZといった高ランクの冒険者達だ。彼らがモンスターを狩ったり、未知を見つけたりするのがメインとなる。


 祭りなので、騎士団や聖騎士も参加する。仕事があるため大人数のパーティーでダンジョンに行くことはないが、知り合いの冒険者に手伝ってほしいという話があれば、参加することもあるらしい。


 ラシアのクランは、少しだけ他とは違う。パルサー、ティーガー、フウコウが入って参加する感じになっている。


 フウコウは自分のクランに帰ってメンバーに説明したら、狩猟祭が終わるまで帰ってくるなと追い出されたとのこと。


 パルサーとティーガーは、大公令嬢と侯爵令嬢にあれだけ言ったので、負けたら騎士団と聖騎士を引退。


 その代わり勝ったら、令嬢達を殴って庭に埋めるとのことだ。


 パルサーとティーガーが辞めて得するのは誰もいないし、周りは絶対に困るのでは? とラシアは思う。


 そんなことを考えながら、ラシアは厨房でフィッシュフライを作っている。


「ラシアー。まだかにゃー」


「もう少しですね」


 この前の食事会で、コーヒーゼリーみたいな物から魚が生えている食べ物の話になった。その流れで、あれより美味しい物はあると言ったら、フウコウが作ってくれと言い出したので、狩猟祭のことを聞く代わりに作っている感じだ。


 ちなみに、おやっさんに話したら爆笑された。


 そしてようやく完成したので、リレッサに作ってもらったソースをかけて仕上げる。


 フウコウの元に持っていくと、目が輝いていた。ティアやリレッサの分も皿に盛り付けて持っていき、平和な食事会の始まりだ。


 ラシアは自分の作ったものを一口食べる。わりと高級な魚を使っただけあって、美味しいのは美味しい。ただ、想像できる範囲の味なので、こんなものかなーとは思う。


 しかし、この世界にはフィッシュフライがなかったようで、ティアやフウコウは絶賛している。


「ラシア! これマジで美味いニャ!」


「ラシアさん。これ美味しいね!」


 リレッサの故郷であるローウェンテニアにはフィッシュフライがあったようだが、それでも美味しいと言って食べているので、作って良かったなーとラシアは思う。


 そして食事をしながら、狩猟祭の話を続ける。色んな人に話を聞いているが、開始までもう少し時間はあるが、知らないことばかりだからだ。


「あと何か、狩猟祭で気をつけることってありますか?」


「そうだにゃー。ワッチのクランは例外だけど、クランは全員参加が基本にゃ。自分達の力量をどれだけ知ってるかも大事にゃ。だからダンジョンに入る時は、全員で行くのが基本にゃ」


「なるほど。体調不良の時とかは?」


「罰則があるわけでもないから、強制でもないにゃ。昔からの習わしみたいなものにゃー。だから高位の連中は、メンバー内の低位を待機させて行くことも多いから、あんまり気にしなくていいにゃ」


「まー……XとかZが行くようなところに、BとかAが行くと死にますからね」


「そういうことにゃ~。あとはにゃー……行くところはかなり考えないとダメにゃ! 冒険者同士で邪魔し合うのも許されるにゃ!」


「祭りでは?」


 ラシアの疑問に、フウコウではなく、やってきたガロニアが答える。


「大昔から暴力と人の不幸は最高の娯楽だよ。それ美味そうだね」


 そう言って、フウコウの皿から一匹残してあったフィッシュフライをつまんで食べた。


「へぇー。なかなか美味いじゃないか。やるね白獅子」


「どうも。というかラシアで大丈夫ですよ。二つ名ってなんかこう背中が痒くなるので……」


「欲しいと言っても手に入る物ではないけどね」


 そんな話をしていると、フィッシュフライを取られて固まっていたフウコウがやっと復活した。


「手に入る物ではないけどね……じゃ! ないにゃ! 何さらすねんにゃ!」


「クランを追い出されてまともに仕事できない冒険者が言うセリフじゃないね!」


「それとこれとは話が別にゃ! ワッチに責任はないにゃ! 副マスがガロ婆の依頼を受けられないくらい弱いのが悪いにゃ! ワッチにフィッシュフライ返せにゃ!」


 フウコウも不幸体質が問題なだけで、実力的にはちゃんと強い。ガロニアからというより、錬金術ギルドの関係で仕事が来ることが多いそうだ。ただ、食事会の一件で追い出され、しばらく難しい依頼は受けないことにフウコウのクランの副マスターが決めたらしい。


 そこで、時間を見て協力しますからと言ってしまったところ……喜んでガロニアが釣れた。いいか悪いかは分からないが、そこから話すようになった感じだ。


 思うところは少しあったが、ラシア的にも少しありがたい話ではあった。


 ラシアが持っている最上級の回復薬を作ろうと思い、セレットに頼んだことがある。だが、セレットでは職のレベルが足りず成功率が低かった。


 錬金術に詳しいナットンに頼んでも作れないとのことなので、その流れでセレットの師であるガロニアの職を尋ねた。すると、セレットより上の職であるミスティックだと判明した。しかも言うほど戦えないので、純製造職寄りらしい。


 大公と同じで今はまだ見極める時期なので、こちらの知識を渡して何かを作ってもらおうとはまだ思っていない。


 ただエリゼとか大公を見ているので、奴らに比べると……全然マシだ。


 正直……ラシアの性格に似ているところもあるので、合わないところは合わない。ただ、実験や調べ物に関してはよく合う感じだ。だから話もできる。


 ラシアがやらない実験などもやっていたりするので、気になったら聞けることもある。


 それはそうと、わりと激しめに喧嘩がヒートアップしてきたので、ラシアは残っていたフィッシュフライをフウコウに渡して、落ち着くようになだめた。


「ラッ、ラシア! おっ、お前本当に良い奴にゃ!」


「それぐらいでいいなら落ち着いてください」


「ワッチの周りにはガロ婆を筆頭に怖い奴ばっかりだから……ラシアとティアとリレッサが癒やしにゃー」


「はっ! 私よりそこの姫が怖くないと思ってる時点で、その目は節穴だよ!」


「姫様怖くないよねー」


「ええ。怖くありませんよ」


 ガロニアの場合は姫様にやられている。が、元の世界の感覚で考えるなら……体の構造的にも猫怪人のフウコウの方が怖い気がする。耳とか尻尾とかどうなってるの? って話だ。


 モンスターがいる世界なので本当に今更なのだが……


「ラシアは絶対に変なこと考えてるにゃ」


「そんなことはないですよ」


「まぁー。フィッシュフライ作ってもらったから何でもいいにゃ~。それで? もうすぐ狩猟祭が始まるけど、どこに狩りに行くとか決めてるんにゃ?」


「ええ。ちゃんと決めてますよ。パルサーさんやティーガーさんが来たら、その辺を含めて話をしましょう」


 ドリル令嬢には負けたところで騎乗用のドラゴンのことを教えるだけだからまだ良いとして、デルパロア家に負けると大変なことになるのは目に見えている。


 確実に勝ちに行く。だから……場合によっては姫様にも出てもらおうと考えていると、ちょうど良いタイミングでパルサーとティーガーがやってきた。ラシアはクランメンバーを呼びに行き、話し合いが始まった。

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