第113話 箱船ダンジョン

 ロワンテ・デリーチェは人ではない。


 体は何十年も前からホムンクルスになっている。ティーガー達が制圧した場所で作って増やし、この箱船ダンジョンでモンスターにする。


 姿だけは人と全く区別がつかないが……モンスターだ。


 では人とモンスターとの違いはないのでは? となるが……そんな事はない。


 この体は完成しているが……それでも破壊衝動や捕食行動は残る。


 魔法や薬で抑える事も可能だが……それでもモンスターであるが故に、人の肉などが食べたくなるのだ。


 ここが明確に人とモンスターの境目だろう。


 人は人を食べないが、モンスターは人を食べる。


 そんな体に人の魂が入っている。


 そうなってくると……本当にどっちなのだろう。恐怖や痛みを克服し永遠に生きたい。それは人の欲望であり夢だ。


 本能のままに人を食し、生を謳歌する。それはモンスターだ。


 様々な者がホムンクルスになっている。貴族、聖騎士、騎士、冒険者……


 彼らはどちらだろう。


 だが……ロワンテ・デリーチェだけは人であるとは言いがたい。


 一つに、人の頃から持っていた残虐性。


 二つに、他者を人とは思わないこと。


 ティーガー達、聖騎士に襲撃される前にも一つの依頼を受けていた。


 貴族の息子にスキルを覚えさせる依頼だ。奴隷達をモンスターに殺させ、進化したモンスターを貴族に倒させる。


 人を人と思わないからそんな事もできる。奴隷の中には犯罪者もいるが、そうでもない者もいる。


 ロワンテからすれば違いはない。


 人は人。男か女があるかだけ。殺した所で替わりはいくらでもいる。


 あとは……人が泣いている顔を見るのも好きだ。もう十年も前になるが、白い猫を蹴り殺した時に泣いていた少女を見た時はとても気持ちが良かった。


 そんな者だが……モニターに映る数名の騎士を見て、顔には焦りの表情が色濃く出ている。


 騎士団でも上から数えた方が早い者達が集結しているからだ。


 武力だけなら騎士団長のデゴットよりも強いと言われている者もいる。騎士団の狂犬、パルサー・テンペリオンもいる。


 そして……何より危険なのは白の騎士、ラシア・ラ・シーラだ。


 こいつに関してはロワンテがその強さをまともに見ているし、その力は簡単にこの施設を破壊できる。


「くそっ! どうしてここがバレた!!」


 ……


 ロワンテがそんな事になっている頃……ラシアはラシアで少し大変だった。


 箱船ダンジョンは上級扱いになるのだが……全員がマジで強いので、出現するモンスターは問題がない。


 パルサーはルーンランサーだが一緒に来ているお兄さんお姉さんは……インペリアルナイト、ロードランサー、アークパラディン、ビショップだ。


 パルサーの上でラシアの下になる職ばかりで、とても強い。


 で……何が大変か。調査という依頼なので、全員が初めて来る場所、初めて見るモンスターに興味津々だ。


 ダンジョンに入ってからほとんど進んでいないのだ……倒したモンスターから出るドロップアイテムにも興味津々。


「ラシア殿! あのモンスターは何という名前だ!?」


「ええっと……確かアルファA型ですね……不用意に接近すると麻痺のガスを使うので気をつけてください」


「心得た!」


 急接近、ガスを出す前に真っ二つ。


「ラシア様! 剣の柄だけ出ましたがこれはどういう物ですか?」


「おめでとうございます。それは魔力を流せば光の剣が生成される武器ですね」


 ブォン!


 それを振り回して騎士団はキャッキャし始め、何か楽しそうだった。


 なんというか……社会見学の引率の先生になった気分だ。


 そんな中でもパルサーとアークパラディンのお姉さんは真面目に調査している。魔物の姿を紙に魔法で映したりして、様々な事を書き込んでいる。


「ラシア。少しいいか? このダンジョンの魔物は進化するのか?」


「ここは少し特殊なダンジョンなので進化はしません。モンスターはモンスターですが、兵器扱いなので」


 いまラシアが言ったように、このダンジョンのモンスターは進化しないという特徴がある。


 その代わりに、同列のモンスターに比べると全体的に能力が高めだ。


 モンスターが進化するという不確定要素がないので、狩りができるようになると比較的安定して狩れるダンジョンだったりもする。


 パルサーにモンスターが使ってくるスキルなどを教えていると、アークパラディンのお姉さんに話しかけられる。


「ラシア殿は……ローウェンテニアの騎士と聞いたが。このダンジョンとの関係は?」


 どう答えるのが正解かとは考えるが……嘘を言った所でどうしようもないし、本当の事を言っても確認のしようがないので、ラシアはゲームの中の事実を伝える。


「要は敵国になります。ここで作った物でローウェンテニアを攻める予定だったはずです」


「……なるほど。ローウェンテニアにあったゴーレムなどの魔法技術に似ている所が見られるのは?」


「この国は鉄と錬金の国なので、錬金術を使った物が得意です。だから似ている所があるはずですよ」


「持って帰って調べたい物も多いが……本職ではないから迂闊には触れんな。教えて頂き感謝する」


 そんな話をしていると、前衛組の人達はさっきの光の剣が形成される武器がもう一つ出たようで、二人で斬り合って遊んでいる。


 ダンジョンの中だが、とても楽しそうだ。


 そしてようやく三階層に降りる部屋を見つける。


 このダンジョンは少し近未来的な感じなので、下りる時は円形のエレベーターになる。


 ラシアがカードキーを差し込むと起動し、自動で動き始める床に全員が興味津々だ。


「こういうダンジョンは初めてだな!」


「実に楽しい!」


 パルサーの顔が少し疲れている。表情で読み取るなら、遊んでないで仕事してください、だ。


 パルサーよりも上司や上官といった立場になるのだろう。普段なら絶対に言いそうなのに言わないのはそういう事だと、ラシアは納得する。


 そしてエレベーターが止まり、三階の探索が始まる。


 このダンジョンに出てくるモンスターは、基本的に機械人形が多い。


 アルファA型は男性型の近接人形。ベータB型は女性型の遠距離型。

 そんな感じの名前がついていて、型番で接近戦はA型、遠距離はB型。支援タイプはC型、魔法タイプはD型とか色々なタイプがいる。


 見た目、服装がほとんど同じで、髪の色や髪型で見分ける感じになる。


 後は見た目が鉄の塊のメカスライムや、ボルトゴーレムみたいな鉄鉄したモンスターが多いのが特徴だ。


 二階層と同じようにラシア達は進んで行くが……ラシアに関してはやる事が少ない。


 知らないモンスターが出てくれば答えるが……戦闘にはならない。遊んでいるインペリアルナイトとロードランサーが倒してしまうからだ。


 しかも支援職のビショップが全員にもれなく支援済みなので隙がない。調査しているパルサー達も、出てくるモンスターが同じなら書き留める必要もないので、ドロップアイテムの確認ぐらいだ。


 ただ……そんな中でもラシアは少し疑問に思う事がある。


 全員、間違いなく強い。これは間違いないが……職のレベルに対して、ゲームでいう所のキャラクターのレベルが低い感じだ。


 キャラクターのレベルと職のレベルは大体同じぐらいになるはずなのだが……インペリアルナイトやロードランサーは職のレベルで言えば八十台になる。


 だからキャラクターのレベルも八十台付近になるはずなのだが……


 ギュスターブと戦った時のようなヤバい感じはまったくしない。仮に全員が襲ってきたとしても……今の状態ならたぶん制圧できる。


 ゲームの基準で考えるとそれは無理だ。レベル百のプレイヤー一人よりも、八十台五、六人の方が間違いなく強い。


 この感じだと……ロディーの方が圧倒的に強いし、ギュスターブはもっと強かったのでかなりの謎になる。


(うーん……現実だとレベルってなんぞや? ってなるから、その辺はやっぱりないのかなー?)


 そんな感じで、ラシアの中では「あるにはあるが、数値化できないもの」がレベルという所に落ち着いた。


 数値で表せない事が多すぎるからだ。仮にレベルがあってそれが同じだとしても、身長が高い低いで攻撃力は変わるのか? などなど……


 そんな事を考えていると、ボスを除くモンスターは一通り出会う事ができたので、その事をラシアはパルサーに伝える。


「ボスを除くモンスターに関しては全て出ましたけど……どうします? 後は下に行くほど数が増えるぐらいですね」


「分かったが……しかしラシアは本当にモンスターに詳しいな。これだけでもかなりの情報だぞ」


 暇があったら攻略サイトを覗いて時間を潰していたのは伊達ではないのだよ。と思うが、褒められて嬉しいのでラシアは素直に礼を言う。


 そして騎士団の目的は調査なので、余裕を持って行ける範囲まで進もうという事になった。


 そのため、最下層を目指す事になった。


 そしてラシアはこのダンジョンで別れた一体の機械人形の事を思い出した。

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