七章 人で無し

第107話 進み歩み

 深緑のダンジョンの件が落ち着いて少し経ってから、ラシアはXランクの申請が可能となった。


 戦闘能力の高さは言わずもがなだが……羽化場の発見と行方不明者の発見。その功績が大きかったからだ。


 ただ、すぐにXランクになったとしても信用などはまだ足りないので、超級のダンジョンには行けない感じだ。やる事も多いし、急いで申請しなくても良いと思う。


 まぁラシア的にも、行って願いを叶えて即座に元の世界へ帰ろうとは思っていない。クランの事もあるし、リレッサの事もあるからだ。流石に放置して帰るのは無責任過ぎる。


 最低でも三人でパーティーを組み、中級のボスを倒せるぐらいまでは鍛えたい。リレッサも自分の生き方を見つけるまでは見守りたい。


 おやっさんの宿で働くというならそれで良し。定食屋をやるというならそれで良し。できたら国に関わるような事はやめて欲しいと思うが……そこはリレッサ次第だろう。


 で、行方不明になった者達のアイテムの扱いだが……ラシア的には遺品なので欲しくない。だけどクランメンバーはそういうのを気にしない世界に生きている。だから自分達で欲しい物をもらい、装備を調えていた。


 それでも数十年分、数百人分だ。とんでもない量と額になる。忙し過ぎてギルド職員が数名倒れたとか何とか……


 そして本来なら、冒険者としてやっておかないと駄目な事があった。


 ラシアの場合は大公の命令などもあってすぐにランクが上がったが、本来は後輩の育成も評価に関わってくる。


 ノアやベルエドがラシアやダード達を王都まで連れていったやつだ。必須ではないが割と楽で、ギルドからの信用も上がるので、AやSの時にやる冒険者も多い。


 ラシアにも声がかかり、打診されたが……二週間ぐらい知らない人と一緒にいるとかしんど過ぎるし、また遭難したくない。


 だから……余った遺品を有効活用させてもらった。


 後輩育成を免除してくれるなら寄付しますよ! だ。


 総額にしたら五百万セル以上になる上に……歴史的な価値がある物もあったとか何とか。


 この世界の人達は賄賂に弱い。ラシアは無事に後輩との王都旅行を回避し、遺品も処分できたので言う事なしだ。


 クランの活躍はクランメンバーのランクにも直結する。


 ノアはまだ据え置きだが、以前Xランク昇格の話が出ていたグオンに、再びその話が来た。だが……また断った。


 やはり今の実力ではXランクになるのは恥ずかしいとの事。


 ラシア的にはグオンとガチンコで戦った事はないが、戦い方を見ていると、そこまで卑屈にならなくても良いような気はする。

 かと言ってパルサー相手に善戦できるかと言われたら、そうでもないので難しい。


 ちなみに冒険者と騎士で違いはあるものの、パルサーとティーガーはランク的にはXランクになるそうだ。


 で、デゴットとロディーがZランクになるとの事。


 おやっさんは自分ではXになるかならないかぐらいだから、グオンと同じぐらいだと言っていた。だがパルサー的には、おやっさんは自分より強いとか何とか。


 職による相性の加減もあるし、強さの基準はバラバラだ。


 ラシアだって一撃なら誰にも負けないが、先生やギュスターブのように技を使う者の相手は本当に苦手だし、遠距離型や飛行型もとことん苦手だ。


 そんな感じで自分の中でまとめていると、おやっさんが作ってくれていた朝食が完成した。朝食と言っても昼食に近いが……


 この時間になると食堂にはほとんど人がいないので、おやっさんと世間話をしながら食べ始める。


「そういえば、この辺で走ってた人を運ぶ馬車があっただろ?」


「ありましたね。この辺とギルドと門の方を回るヤツでしたよね?」


「それだ。あれがこの都市全体で動き始めるらしいぞ。時間を決めて同じ場所を回るそうだ」


 要はこの都市を回るバスのことだ。大型の馬車で、けっこうな人数を運べるらしい。


 しかも馬車には広告のようなものも貼ってあり、商人達が自分の店の宣伝などをしているとの事だ。


 元の世界ではよく見たが……似たような事を考える人はいるのだなーとラシアは感心する。


「それって、どこか新規で来た人がやり始めたんですか?」


「いや、昔からこの都市にいる裏方のトップとかがやり出したって話だ」


「えっ……それって大丈夫なんです?」


「普通はそう思うが……危ない事に手を出すより、そっちの方が儲かるんだとよ」


 おやっさんの話を詳しく聞くと、バスもどきの広告費も馬鹿にならないらしい。


 だが、それ以上に大きいのは、自分達で路線を決められることだ。人の流れを作れば、土地の価格も動かせる。


 それに始めたばかりの事業なので手探りな所も多く、余計な事に手を回している余裕もないそうだ。安全に儲かるなら誰でもそっちを選ぶ。


「後は騎士とか、この街を守ってる兵士の連中は運賃が半分になるらしいし、何かあればすぐに馬車を動かして現場に行くよう協力するって話だ。実際にやってるからな。私達は敵じゃありませんよアピールもできてるから、何も言えんわな」


「あー。そうか。そうなってくると敵対組織がいたとしても、騎士とか憲兵に喧嘩売るみたいになりますもんね」


「そういうこった。後は様子見して、冒険者ギルドの職員とかも安くするかを決めるらしい。そこまでやったら敵対=この街になるからな」


「はー、すごいっすね。というかおやっさん詳しいっすね」


「ああ。この辺で最初に人を運んでた奴が、ここに飯を食いに来るからな。それで教えてもらった。今は新人に色々教えてるんだとよ。割と話題にもなってるし、使ってみたが……かなり便利だな」


 悪くなる分には文句は言うが、良くなる分にはラシアから言う事はないので、良いことだと思う。


 実際、もとから大きな組織だったらしいが、それでも都市を巻き込んでの事業なので人が足りず、働きたくても働けなかった者達も雇って手広くやっているとの事だ。

 そのおかげで、スラム街みたいな所にいた人達も少し減っているらしい。


 そんな事を話しながらご飯を食べていると、リレッサとティアが帰って来て挨拶をしたので、ラシアとおやっさんも挨拶を返す。


「姫様、ティアちゃんおかえりー。どこ行ってたの?」


「ラシアさん。お父さん。ただいまー」


「戻りました。はい。この区画で高級路線の宿をやっている店主の相談に乗っていました。ラシアは人を運ぶ馬車の話は知っていますか?」


「いまおやっさんとその話をしてました」


「でしたら話は早いですね。その関係で、どの方向に舵を切ろうか悩んでいるとの事で、話を聞いてきました。この辺りの治安は良くなっていますし、そのまま高級路線でいった方が良いという感じですね」


「なるほど」


「はい。別の地区になりますが、公衆浴場ができるので、また人の流れも変わり、こちらの地区の宿にも客が来るようになりますからね」


 やたらと詳しいなとラシアは思う。


 だが、この前おやっさんがリレッサを泣かせた時の事を思い出すと、リレッサがこの辺りの人達に慕われているのは分かる。


 ラシアは、この辺りでリレッサがうまくやれているなら良いことだと思った。


「このままスラムっぽい所もなくなってくれるといいんだがなー」


 おやっさんが言うと、リレッサはそれは無理だと言い、置いておかないと駄目だと話す。


「悪く言う事ではありませんが、下を見て安心する人もいます。それに、あそこの生活に満足している人も少なからずいますので……ああいう場所は必要なんですよ。ただ、前よりは綺麗になっていますし、巡回も増えていますから、問題は起きにくいはずです」


「なるほどなー……てか姫様、スラムの場所知ってたのか?」


「……それは姫ですから」


 何の説明にもなってないな……とラシアとおやっさんが思っていると、一人の騎士が宿へとやってきた。


「申し訳ない。この宿にラシアと呼ばれる者がいると聞きましたが、ここにおられるか?」


 面倒くさいとは思うが……彼も仕事で来ているはずなので無視もできない。ラシアは手を上げた。


「私ですが……どうかしましたか?」


「ありがとうございます。騎士団長のデゴット様から手紙を預かっておりますので、一読お願いします」


 ラシアは礼を言って手紙を受け取ると、騎士は頭を下げて去って行った。


 おやっさんが、また何か悪い事したのか? とからかってくるが、ラシアは一度も悪い事はしていないと反論しながら、手紙を読み始める。


 内容は……騎士団が忙し過ぎるから、普段は彼らが討伐している月齢の王を倒して欲しいというものだった。


 その事を詳しく話したいから、暇なら家に来いとも書かれている。


「これ……私がいなかったらどうするんでしょうね?」


「ラシアは用事がない時は家から出ないというのを知られているのでは?」


 リレッサに正論を言われてしまったが……騎士団の情報網が凄いだけだと、ラシアは納得する事にした。


 少し面倒だとは思うが……行方不明の司祭の事も気になる。

 ラシアは皆に行ってきますと言ってから、パルサー宅へと向かった。

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