第103話 羽化場

 ラシアはフウコウ達と合流し、深緑のダンジョンへと入った。


 ガーゼンがXランクの冒険者だったので……白ナマズもその強さになっているはずだ。だから並みのモンスターよりも遙かに強い。


 もしものことがあっては話にならない。


 ラシアはフウコウに少し時間をもらい、装備を調える。ここに来る前に着替えるとギルドで目立つからだ。


 聖銀鋼の鎧に身を包むと、その姿を見ていない者達からは歓声が上がる。


「ラシア……お前またダンジョン破壊するつもりかにゃ?」


「しませんよ!」


 知っている者達からは、死の危険を察したような空気があふれ出す。


「グッ、グオンさん。ここって混乱の状態異常使ってくる奴いなかったよね?」


「おっ、おう。ボスも月齢の王も使ってこない。だだっ大丈夫だ」


 ノアとグオンは蟻の巣でのことを思い出しているのか少し顔が青いが、本当に何かあった時のことを考えると、浮かれているより今ぐらいの反応の方が良いなとラシアは思う。


 そしてアイテムバッグの中から三つのアイテムを取り出し、ノア、グオン、エリエスに貸し出す。


 ノアには遭難した時にも貸したローブ。名前は忘れた……ゲームと違い説明欄とかないので仕方がない。


 グオンにはディスラクシオンツール。これは+10なのでグオンの攻撃力の底上げだ。


 そしてエリエスには、ゲームで出なかったことが悔やまれるオリスメニタの遺品。オリスメニタのベールだ。


 これは、闇魔法無効。全属性攻撃軽減。MP増加の効果がついた、ドロップアイテム屈指の性能を持つ装備だ。パドロワが支援なのでそちらに渡したいが、女性専用装備なので仕方がない。


「ラシアさん! また国宝ローブ借りていいの!?」


「何処の国の国宝ですか……初めて聞きましたよ……夜で視界が悪い上に、どこからモンスターが来るかも分かりません。それを着て備えてください」


「わかった! 大魔導師ノア様の降臨だぜぃ!」


 そんなノアを見て、フウコウからお前ら楽しそうにゃ……と呆れたような突っ込みが入るが、ラシアもそれは言いたい。


 グオンに貸した物は攻撃力を上げるだけなので、特に驚きは少ない。持たせて名前を言わせれば、勝手に光って持っていた武器に張りつく。


「使用感などは変わらず攻撃力が上がるだけなので、大丈夫と思います」


「色々あるんですね」


 光るハンマーを見て、グオンは呟く。


 ラシアのハンマーを貸しても良いが、ラシアが持っているのは両手ハンマーなので、片手ハンマーのグオンにはたぶん持てない。しかも今日みたいなややこしい任務の時は、手に馴染んだ装備の方がいいだろう。


「ラッ、ラシアさん……このベール。なんか超すごく神々しいのですが!?」


「本当の聖女が使っていた、由緒正しきベールですからね」


「……私が装備していいんですか!?」


 闇魔法無効とかとんでも性能は課金アイテムでもない。だからオリスメニタのベールを欲しがるプレイヤーは本当に多かった。


 出れば一攫千金。売れば装備が全てそろうとも言われる程のアイテムだ。まぁドロップ率が低すぎて本当に出ないけど……


 そのことで、少しラシアはオリスメニタを思い出す。ゲームでは特定のイベントをこなすと、勇者のパーティーと共闘になるイベントがいくつかある。


 その時に出会うオリスメニタはいつもお腹が減っていて……お金をすられても喜んでいる、そんなキャラだった。


 貧しい人には自分の分の食料を全て分け与え、お金を取られても……なるほど、私のお金で彼の飢えがしのげるのですね。とか言うタイプ。


 ゲームなので色んなエピソードがあるが、オリスメニタはちゃんと聖女だったと思う。ちなみに姫様の魔法の先生みたいな立ち位置だったはず。


 そんなことを思い出しながら装備を調えて、忘れ去られた魔女の墓へと向かって歩いて行くと……なんか人が多い。


 フウコウにその辺のことを尋ねると、あの村に騎士団の人が大勢来始めて、色々と調べているとのことだった。


 デゴットさんが動いてくれてるのだなとラシアは思う。それにしてもヤバい奴と分かっているようで、とても行動が速い。


 話をしながら進んでいると、騎士団の人達から話しかけられる。


「おお。これは白の騎士様ではありませんか。今日はどうしてここに?」


 ラシアが何処かで見たことがあるなーと考えていると、その騎士はパルサーと一緒に古城の地下で助けてもらった者だと言った。


 思い出すと、確かにあの時にいた騎士だった。


「お元気そうで何よりです」


「あの時はありがとうございました。皆さんはどうしてここに?」


 森の中をうろうろしている騎士団がいるなら伝えておいた方がいいなと考え、ラシアは伝える。Xランクの冒険者が白ナマズになったことと、行方不明になった者達を探していることをだ。


 なるほどと驚きながらも、簡単にだがその騎士は騎士団の動きを教えてくれた。


 一つはラシアがデゴットに伝えたように、あの村の司祭の調査。そしてもう一つは……名前付きの白ナマズの目撃例があったとのことだ。


「私達が直接見たことはありませんが……大昔からいると言われているギュスターブという白ナマズがいるので、白の騎士様も十分にお気をつけて」


 分かりましたと返事し、礼を言ってからその騎士と別れ先を急ぐが……そんな名前の白ナマズは聞いたことがない。現実のテレビでなら、そんな名前のワニがいたとかは聞いたことがあるが……


 ラシアは仲間達に尋ねる。フウコウとグオンは知らず、ノアは少し知っていたようだった。


「確かー昔本で読んだことがあって……白ナマズがいて、騎士団が出るほど強い個体だったらしいんだけど……最後は逃げられたとか、そんなんだったはず」


「それって何年ぐらい前とか分かりますか?」


「私が生まれる前とかだと思う。お父さんとお母さんが現役ぐらいの時かな?」


 そんな前から生き残っているモンスターがいたら、強さはどれぐらいになっているのかとラシアは思うが……モンスターがどこにいるのかは分からないので、ラシア達は先を急いだ。


 そして先を急いでいるとスライムがいたので実験したいことがあったが……それどころではないのでノアに倒してもらって進んで行く。


 朽ちた岩に苔が生え、蔓などが巻き付いた拓けた場所へと出て来た。ゲームでは特に大きな説明もない場所だ。大昔に魔女がいて、静かに眠っているだけの場所。誰がこの墓を作ったのかも明言されていない。


「ラシアさんここ?」


「はい。ここは特にモンスターとか出ないと思いますが、何があるかは分からないので、警戒だけはしておいてくださいね」


 グオンもフウコウもこの場所は知っているようだったが、墓だったとは知らなかったらしく、興味深く辺りを調べていた。


 ラシアはアイテムバッグの中から花束を取り出し墓の前に置き、静かに黙祷を捧げる。


 すると少し風が動いた後に木々が分かれるように動き、今までなかったはずの道が現れた。


 ……木は根を張ってるから動かないのでは? と思うが、バイオ怪獣の全否定になってしまうし、魔法があるんだから木ぐらい動くだろうと思ってラシアは考えるのをやめた。


 何があるか分からないので、ラシアが先頭を歩き進んでいくと……大きな木があり、空が見える寂しい場所へとやってきた。


 命の音もしない。風の音もしない……本当に寂しい場所だ。


 大きな木の下には幾つもの……人影がある。皆、祈るように木の方を向いている。


 ただあるのは、身につけていた物と……人の皮だけ。


 中身はない。


「フウコウさん、ここです。たぶんここにあると思いますが……ガーゼンさん達の物や行方不明者を探してもらえますか?」


「……わかったにゃ。探すにゃー。皆行くにゃ」


 仲間を連れてフウコウは行ったので、ラシア達も色々と調べ始める。


「こいつはひでーな……」


「ラシアさん……これ全部、白ナマズになった人達?」


「はい」


 見えているだけでも軽く百は超える脱皮された皮がある……古くて形を保てなくなった物の上に、新しい物が重なるように残っている。


 犠牲者は……本当に何人になるんだろうとラシアは思う。


 ゲームでも引くような光景だったが……現実になると本当に終わっている光景だなと、ラシアは自虐気味に笑ってしまう。


 そんな光景に若いエリエスは耐えられなかったようで、隅に行って吐いている。


 ここには……色んな人がいる。冒険者はもちろんだが……どうしてだか貴族様のような服装の者もいる。


 騎士団や聖騎士もいれば、みすぼらしい格好の者もいる。


 その疑問にはグオンが答えてくれた。


 たまにだが、あの村のことを聞いて少し腕の立つ貴族が護衛を連れてくることがある。みすぼらしい姿の者は元は冒険者で、悪いことなどをして街にいられなくなった者があの村に流れてくる。


「最後がこうなっちまうとは、自分達も思わんでしょうな……」


 モンスターになりたいと思う者はいるかもしれないが……それは自我があってのことだとラシアは思う。


 そんなことを考えていると、光が反射してキラキラと光る物を見つけた。


 ラシアが近づいてそれを見ると、まだ体液が乾いておらず、光が反射しているだけだった。


 そして近くを探すと、羽化したばかりでまだ乾き切っていない皮が幾つもあった。


 マネキンだと思っていた者達には、ちゃんと表情があった……たぶんこの人達だろう。


 ラシアはフウコウを呼び、確認してもらった。

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