第65話 姫と騎士

 お姫様の幽霊がでた! とか言われても、そうなんですね。おやすみなさいとは言えないし、おやっさんもセレットさんも一階にいるのでラシアはティアについて行く。


 ただ歩いて向かう廊下はいつもより静かで、世界が止まっている様な雰囲気があった。


「勝手に入って大丈夫? おやっさんとセレットさんに後で怒られない?」


「たぶん大丈夫!」


 たぶんは止めてと思ったところでティアがドアを開けて先に中に入る。


 そして……中にいる幽霊に話しかける。


「姫様ーつれてきたよ!」


「ありがとうございます」


 幽霊が喋ってるよと思いながら中に入ると、ラシアが持って帰って来た王女の王冠に月の光が集まり、そこからホログラフを写すように一人の少女がいた。


「ひっ姫様!?」


 ラシアが姫様と驚く。幽霊の正体はローウェンテニアの王女だ。


 明るく長い金色の髪に緑と黄色のオッドアイが特徴的な美少女だ。ゲームの設定ではその能力で窮地のローウェンテニアを幾度も救った神童だ。


 ただ滅んだのは勇者を愛したせいで騙されどうのこうの……


 ちなみにガチで救っている。


 ラシアがやっていたゲームは一度、サービス終了の危機に陥っている。その時に起死回生として出されたアプデでローウェンテニアが実装され姫が来た。


 その美しさに魅了されたプレイヤーはとても多く、爆発的にプレイヤーが増えサービス終了の危機を救ったキャラだ。


 今でこそ、その人気は落ち着いたが……人気投票では登場時からぶっちぎりで一位に居座るお姫様こそが……


 リレッサ・ロード・ローウェンテニアだ。


 ラシアも魅了され薄い本を何冊か持っている。


 だが……その話ではない。


 リレッサはラシアの事を認識していた。それが一番不可解だ。


 その事でラシアが固まっているとリレッサはクスッと笑い願いを告げる。


「ラシアよ。私からお願いがあります。どうか……私達を殺してください。勇者ローリスの呪縛から解き放って頂きたいのです」


「……一つ聞かせてください。姫様は何処まで私の事を知っていますか?」


 それが重要なのだ。プレイヤーとして知っているのか、ゲームの外のラシアを知っているのか、この世界でのラシアを知っているのか。


 少しキョトンとした顔をした後に考え答える。


 あまり時間がない様子だったので、簡素にラシアと出会った時の事、直轄の騎士になった事を語った。


 それはゲームでのクエストの話だ。話を聞いていてラシアはリレッサがラシアの記憶を元に話していると思った……確証はないが。


 ゲームならプレイヤー全員がクエストをこなせばリレッサ直轄の騎士になれる。何万人といるプレイヤーの名前を記憶して覚えている事は不可能に近いのに、リレッサはラシアの名前を出したからだ。


「??? 意味が不明すぎる」


「どうやらここはローウェンテニアとは別の世界の様ですね。ラシアよ。父や母そしてオリスメニタ……ローリスにとらわれた魂を救って欲しいのです。今の私は魂だけ……貴女に何も返す事はできませんが……」


「姫様はどうして……その姿に?」


 その質問に足下にある王冠の宝玉を指さし答える。


「この宝石は王家に昔から伝わるもので、邪を払い魂を守ると言われています。ですから……これが私の魂を救ったのかも知れません」


「ですが……ローリスを倒せば姫も消えてしまうのでは?」


「人は体と魂があって人ですよ。片方だけでは生きているとは言いません。いまここにいる私はただの奇跡で、貴女に出会えただけの存在です……そろそろ時間ですね……強制はしません。ですからこれはお願いです。ラシアよ頼みました」


 そうやって静かに消えゆくリレッサにラシアは呼び止める。


「まって! まだ聞きたい事が!」


「私の魂を救ってくれたら答えるかもしれませんよ」


 そういってラシアにウィンクをして静かに消えていった。


 王女だが茶目っ気のある所が好かれる原因でもあるので、それだけ言い残してリレッサは元からなかった様に静かに消えた。


「ぐあっ……もっと他に聞いとく事があったはずなのに私は何をやってるんだろう……」


 本当にもっと聞くことがあったのに何をやっているのだろうと頭を抱えていると、ティアが話しかける。


「ラシアさんって騎士様だったの?」


「ん? 騎士っていえば騎士だけど……この街にいる騎士みたいな人じゃなくて、ある程度強かったら誰でもなれる感じなんだけど……内緒ね」


「分かった! さっきの人がお姫様? すっごい綺麗な人だったね!」


「そだよー。リレッサ・ロード・ローウェンテニアって名前のお姫様」


 それから少しティアと話をしている間に宿の雰囲気も元に戻ったので、姫様がまた出たら教えて欲しいと言ってラシアは部屋に戻った。


 それからラシアは数日ほどずっと考えた。人型のモンスターを倒さねばならないからだ。倒せる倒せないではなく……倒したくない。ラシアには姿以外での人とモンスターとの違いは分からないからだ。


 もっと言えば、人の心を持ったモンスターはどっち? 姿は人で心はモンスターならどっち? となるからだ。


 これはラシア自身に近いことでもある。中身は男で体は女。


 だから……ずっと考えた。答えは無い。だからラシアは原点に帰って考えた。


 自分の目的は元の世界に帰る事。そこだけはブレていない。だからそれに関する手がかりがあるなら手を伸ばさなければならないし、邪魔をする物がいたら……排除しなければならない。


 この世界はそういう世界だ。郷に入っては郷に従え。


 だからラシアは勇者ローリスを倒す事を決めた。


「もし人を殺して元の世界に戻ったとしても今まで通りに暮らせるんだろうか? ……まぁ今回に至っては姫様の頼み事だから……セーフ。うん、セーフだセーフ。」


 倒すと決まったら少し急がないといけない。ラシアの場合は全て一人でしないと駄目だからだ。


 勇者ローリスがリレッサや王族を召喚するのには少しギミックがあるからだ。戦いに入る前に時間沸きのボス、剣聖ロビルカロン、天弓ゼレティエス、そして……声を聞いた聖女オリスメニタ。


 この三人を先に倒して勇者ローリスに戦いを挑むと取り巻きが変化する。その三人+王族が出現する様になる。


 大変な思いをして戦いを挑んでさらに大変になるという鬼畜っぷりだ。


 聖女オリスメニタに出会った時に言葉を話していた。だからたぶんだがまだ倒されていない。そうなるとリレッサや他の王族の魂も解放されていないのだろう。


「おうち帰りたい。私はゲームしながら姫様かわいい! とか一人で騒いでるぐらいがちょうど良い」


 ラシアは文句を言いながら古城のダンジョンへと向かう。


 急ぐ理由だが……今なら礼拝堂にいるはずの剣聖ロビルカロンと弓の練習場にいるはずの天弓のゼレティエスがいなかったからだ。


 礼拝堂の方は騎士団が倒したと思われるのだが……練習場にいるはずのボスがいなかったのは少し意外だった。


 だから今なら聖女オリスメニタを倒して玉座に向かえば……楽に本気のローリスと戦える訳だ。少しラシア的にも試したい事があるので速い方が良い。


 古城のダンジョンにたどり着くとかなり辺りを警戒して最強の装備に着替え、食事バフでステータスを大幅に上昇させる。


 今のラシアができる本気の状態だ。


「誰かに見られた所で白の騎士は古城でなんかしてるってのは分かってるから、ぱぱっと進む方が絶対にいい。そもそもこの状態ならステータスがおかしいからラシアとは思われないはずだ!……たぶん!!」


 何組かの冒険者とすれ違い、その戦闘力の高さに驚かれもしたが……ラシアはようやく地下聖堂にたどり着く。


 この辺にくるとやはり道が分かっていない様で本当に人がいない。だがラシアは話しかける。


「こんにちは……姫様の願いでやってきました。倒させて頂く。だけど知っているならこの世界がどういう物か教えて欲しい。私は元の世界に帰りたい」


 対峙しているオリスメニタは何も答えない。その目はラシアを敵と認識し、即座に五体の天使を召喚し戦いが始まる。


 天使達の速度は速く攻撃も重い。そして聖女のバフや回復もある。


 だけどいくらボスと言っても中級や上級のプレイヤーが来る場所だ。超級で狩りをしていたラシアの相手ではない。


 一撃で天使達を消滅させていく。再召喚されようが何も問題はない。


 そして防御魔法を展開するがラシアの前には紙と同じなので聖女オリスメニタは吹き飛ばされ膝をつく。


「本当はこんな事したくない。けど私も帰りたいから……ごめんね」


 ラシアはこれ以上、苦しめないようにプラティディオンハンマーを振り下ろしとどめを刺した。


 気分的な物だろうが……手には本当に気持ち悪い感触が残った。


 そして白いモヤが現れ人の形になった。


「強き者よ。辛い思いをさせましたね……本当にありがとう。姫様をお願いいたします」


 それだけ言って聖女オリスメニタの魂と肉体は消え、身につけていたベールと魔石だけが残った。


「クソッ……ゲームの中なら素直に喜べるレアアイテムをこんな世界で出すなよ!」


 ラシアは泣きながら聖女のベールを仕舞い、勇者ローリスがいる玉座へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る