第63話 進む方向

 ラシアは懲りもせず、また古城に来ている。目的は書庫と訓練場だ。


 グオン達に見張り塔と監視用通路の行き方と入り方を教えた。

 バレ始めているなら、いつまでも人を避けるというのは無理だ。


 だからラシアは一つ決めた。自分を少しでも認めている人とは、できるだけ話す。


 相手が敵か味方か、ラシアには分からない。ただ今までの様に、最初から敵と決めてかかるのは駄目だと考えた。


 本音を言えばそんな事はしたくないが……それではすまないのがこの世界だからだ。


「おうち帰りたい……」


 そしてグオン達は監視用通路の行き方は知っていたようだったが、見張り塔の侵入方法は知らなかったようだった。なのでその辺りを実演で教えて別れた感じだ。


 グオンがSランクの前衛でフォルグやその他が全員Aランクなのでたぶん大丈夫だろう。見張り塔の侵入方法が分かっただけでも大発見だそうだが……少し中で狩りをしてから戻るとの事だ。


 見張り塔は見張り塔というだけあって遠距離系のモンスターが多く、ゲームなら弓やら魔法書を落とす。あとはいると思うがミミック。こいつからは様々なレアがランダムで落ちるから、見張り塔は古城ダンジョンの中でも楽で儲かる。


 ラシアは行った所で倒してドロップしても売れないからまぁいいかという感じだ。


 そんな事を考えていると目的の書庫へとたどり着く。悪い事はしてないのだが……色々と追われているし、帰られるならささっと元の世界に帰りたい。なので古城の書庫に何かないかな? と考えてだ。


 ただ本はゲームだとオブジェクト。クエストの時のみ何冊か読めるといった感じだ。


 だが適当にその辺にある本を手に取ると……字が書かれていて普通に読めた。


 この世界の文字で書かれている。


 これがラシアを戸惑わせる原因だ。仮にゲームを作った国の言葉で書かれていたら、この世界からゲームに繋がっているという感じになると思う。だが……ゲームでもこの世界の字は見たことがない。


「わからん……でも自分自身が違和感なくこっちの世界の言葉とか字とか使ってるから勝手に変換されてるのか? マジで意味不明過ぎる。騎士達も書庫の事は知らないみたいだし、何冊か調べて持って帰るか」


 そう言って近くの本に手をかけると、いきなり牙が生えラシアに噛みつこうとした。


 ガチン! ラシアは慌てて手を引き噛まれる事はなかったが……本のミミック版みたいなモンスターのグリミックだ。


 飛び出して来たグリミックを地面に叩きつけ、ハンマーで静かに叩き潰す。


「おっ? 魔導書か。こいつって高確率で魔導書をランダムで落とすんだよな。スクロールもよこせ」


 ラシアは魔法を覚える気もないので、後で調べていらなかったら売ろうと考えて書庫を漁る。


 書庫には様々なモンスターが出るが……グリミック以外は基本的に攻撃してこない。図書館ではお静かに、みたいな感じだ。


 だから走ったり攻撃して音を立てると襲ってくるので、ラシアは静かに本を調べて、興味深い物があればアイテムバッグに仕舞っていく。


 今のところ一番気になっているのは……創作っぽい物語がある事だ。この城の歴史もあったが……そこはゲーム会社が作ったという話でも良い。けど、創作の中に創作っぽい物語があるってどうなのって話だ。


 しかもなんか読み物としても面白い。だから最終巻まであるので全部お持ち帰りだ。


 ただ書庫といっても図書館並みに本があるので、何処を調べて良いのかという悩みはある。元の世界に戻るとしても魔法を調べれば良いのか、歴史を調べれば良いのかが不明だ。神様のいたずらって事もあるだろう。


「あーでも。転移だから……転移魔法の系統でもありか」


 そんな事を考えながらグリミックが出たら倒して書庫を調べる。


 書庫である程度の本を回収すると次は修練場に向かう。


 ここには前にラシアが先生と言っていたモンスターがいるからだ。


 修練場にたどり着くと、そのモンスターはいた。骨の体に血より赤い鎧を身につけた騎士、ブラッドナイトだ。


 武器は持っていない。


 修練場にプレイヤーが入るとそのプレイヤーと同じタイプの武器を使うからだ。


 ラシアが修練場に入るとブラッドナイトの影からラシアのハンマーと見劣りしない立派なハンマーが現れる。ブラッドナイトはそれを手に取り構える。


「先生も落ち着いたよなー。昔は大広間の入り口付近に設置されてて知らずに入って来たプレイヤーに古城の恐ろしさをたたき込む。あんまり凶悪だったからアプデでこっちに移されたんだよな……」


 ラシアの話を聞いているのか、まだ攻撃はしてこない。


 ブラッドナイトはボスを除けば古城で一番強いモンスターだ。レベル以前に何が凶悪かと言えば……影から出した武器に武器破壊の力がある事だ。


 しかもブラッドナイトを倒せば超低確率でその武器を入手できるからだ。ラシアもゲーム時代は何百回と戦ったが……ブラッドナイトが持っているハンマーはゲットできなかった。


 それでラシアはブラッドナイトのハンマーをゲットしに来たか? と言えばそうでもない。


 ハンマーでの戦い方が分からないから、ブラッドナイトを見て学ぼうという考えだ。レギオンや朽ちた騎士が技を使っているなら、先生も使うんじゃね? って話だ。


 壊れる事は覚悟の上でエルダーハンマーを構え、ラシアはブラッドナイトに挑む。


 ラシアの想像通りだった。


 力、スピードは圧倒的にラシアの方が上。だがスキルではない技だけは圧倒的にブラッドナイトが上だった。


 ラシアと同じ様に巨大で重たいハンマーを物ともしない。大ぶりをすれば簡単に流され、空いた手で殴られる。


 戦って分かる事だが……この古城ダンジョンの騎士達は力を流す事が非常に上手い。


 今もハンマーの柄でラシアを引っかけてバランスを崩させた所に、小さい振りでハンマーをたたき込まれる。


「ぐっ!」


 死に至るようなダメージではないが……これがなかなかに痛い。


 やられっぱなしも癪なのでラシアが反撃に転じ、ブラッドナイトのハンマーを狙い叩き落とすが……


 武器に固執するなとでも言いたいのだろうか。簡単に手を離した。


 まさかラシアも武器を離すとは思って無かったので、ハンマーを振り戻す間に捕まれてそのまま投げ飛ばされた。


「……よし。ムカつく」


 流石にラシアもこうも一方的にやられればムカつくので、スキルを使わず力任せでもない攻撃で叩き潰すと心に決めた。


 ……

 …………


 そして少し戦いに慣れてきたタイミングでブラッドナイトもHPが尽きたのかボロボロと崩れて行き始める。


 ラシアの攻撃は直撃こそはしていないが……それでもレベル差で考えてもかなりの物だ。


 いくら受け流してもダメージは蓄積され、ブラッドナイトのHPを超えたのだ。


 そしてアリス達と同じ様に白いモヤがブラッドナイトの形になった後に声が聞こえる。


「ありがとう強き者よ。ローウェンテニアを頼む」


「ちょっと待て意味が不明すぎるから!」


 ラシアの問いかけには答えないままブラッドナイトは消えていった。


 不可解な事は間違いないが……モンスターなので修練場から出て帰って来ると、またブラッドナイトは復活している。だからあのモヤみたいなのは何なのだろうとラシアは考える。


「まーしばらくは、書庫いって修練場で学ぶつもりだから……いいか」


 そう呟きながらラシアは帰還する。書庫を調べる事で何か分かる事もあるだろうからだ。


「だれかこの現象を教えてくれる人はいないんだろうか……」


 気味の悪さだけが残ったが、答えてくれる者がいないので仕方ないとラシアは諦める。


 歩いて帰る気分でもなかったので帰還石を使用して冒険者ギルドへと帰還する。


 思った以上に時間が経っていて夜になっていたが……この世界では時間がある=働くなのでいつもの受付嬢はまだ働いていたのでその列へと並ぶ。


「お待たせしました。ラシアさん。今日もご無事で」


 今までで一番ダメージを負っているので無事とは言いがたいが……なんとか無事ですと答えて魔石を出していく。


 ちなみに書庫で取ったものはほとんど出せない。守ってはいないが、ラシアのクラスは場内には入っては駄目だからだ。ノアはAランクで中級の上だが、パーティーで行っていたから大丈夫という感じだ。


 売れない物がたまっていくが仕方が無い。本日の儲けは五万セルだ。レギオンやレギオンアーチャーだけだとそんな物ぐらいという計算で出しているからだ。


 そして少し世間話をした後にラシアは宿へと帰還する。


 宿に戻るとおやっさんとティアはお風呂に入っている様で、片付けが終わったセレットが出迎えてくれた。


「戻りました」


「ラシアちゃんおかえりー。今日も古城?」


 そういえばセレットに話すモンスターの事を聞いていなかったので、ラシアは古城であった事を話した。


 するとセレットも似たような事を聞いた事がある様だったので面白い仮説を教えてくれた。


「もしかするとだけど……完璧にモンスターになる前で魂が体に残ってるとかかな? ローリスとかも何度かは討伐されてるけど声を聞いたのは一度目だけって話だからね」


「なるほど……一度、倒されていないモンスターの所に行って話しかけてみようと思います」


「うーん……ラシアちゃんなら大丈夫とは思うけど……人語を話すモンスターって強いの多いから気をつけてね」


 分かりましたと返事をして部屋に戻ろうとするとセレットはまだ用事があったようで、ラシアを呼び止め風呂に鎖で盗まれない様にしてある剣について尋ねた。


「ラシアちゃん。あの湯沸かしの剣を調べたいからあの鎖外してくれない? なんでちょうど良い温度になるのかが不思議で……」


「駄目です。あれをセレットさんに渡したら絶対帰って来ない気がするので……あとあれですね。人間の体に良ければ聖属性で悪ければ邪属性では? 発酵と腐敗と似たような物ですよ、たぶん」


「うーん……なるほど。じゃなくて! 一日! もしくは半日でいいから! 私の力じゃビクともしないの!」


「だからですよ! 盗まれたらたまった物では無いので私でも曲げるのがしんどい鎖で固定してますからね!」


「……ラシアちゃん普通は鎖って折ったり曲げたりできないからね! 二時間でもいいから!」


「いやです!」


 おやっさんとティアがお風呂から上がってくるまで、少しずつ仲良くなってるラシアとセレットの不毛な争いは続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る