第61話 夜食

ノア達が帰る時に渡そうと包んでおいたクッキーがいつの間にかセレットに強奪されていて、再度焼き直して持って帰らせたので少し遅くなった。


 ラシアが焼いたクッキーはおいしいらしいので、四人にはまた食べたかったら他のクラメンに余計な事は言うなと釘を刺しておいた。


 遭難組ならまだしも知らない人の為に焼くお菓子はない。


「うーん。調理器具がそろってきたから簡単なケーキなら作れるかも知れない。クリームは無理だけど」


 暇だったらティアに焼いてあげるか、と考えながら片付けを終える。そして食堂に出ると、おやっさんがたばこを吸いながらこの都市の情報とか噂話が載った物を読んでいた。


 元の世界で足組んでたばこ吸って新聞読んでるおっさんにそっくりだなとラシアが思っていると、おやっさんもラシアに気がついた様だった。


「おう。終わったか」


「厨房使わせてもらってありがとうございました。流石にもう来るなとは言えないので、また使わせてもらうと思いますけども」


「ノア以外なら言っていいぞ」


 そこから浴室作りの話になり、明日には入れる様になるが……魔道具で水を作ると高くつくのでどうするかという話になった。


 異世界系のラノベなら井戸に手押しポンプとか作るのだが……ラシアは一般人なのでそんな物は作れない。だからゲームの知識でゴリ押す。


 アイテムバッグの中から豪華な装飾が描かれた水瓶を取り出す。そしてそれを下に置くといつの間にか水が溜まっていた。


「という訳で必要なものなので頑張って古城から取ってきた」


「これなんだ?」


「古城のバラ園にいる『動く水の女神像』ってモンスターが落とす。魔力を流すと水が出てくる水瓶」


 ゲームの説明でもそんな事が書かれていたアイテムだった。ドロップ率は低めで換金用のアイテムだが、二度目の古城から戻るときに思い出したので帰りに寄って取ってきた感じだ。


「お前本当に色々知ってんな。……というか風呂に使わなくても俺が欲しいぐらいだ。厨房でいちいち水を汲みに行くのダルいからな」


「なに。おやっさん欲しかったの? しゃーねーな!」


 一つ出て、帰り際にもう一匹いたのでそれを殴ったらまた出たので、それをおやっさんにプレゼントする。


「……これ、絶対高いと思うが。もらっていいのか? というか場所によったらこれだけで金儲けできるぞ」


「おやっさん。中級は古城の中に入ったらダメですよ」


「でたよ。ランク詐欺め。お湯はどうするんだ?」


「そこは剣士職が喉から手が出るほど欲しいレアアイテムでカバーする」


 そう言って、次はアイテムバッグの中から太陽の様に明るく熱を帯びた一本の剣を取り出す。


 読んで字のごとく太陽剣。


 ラシアがこっちに来る前に当たった課金装備だ。剣だが普通の剣とは少し違い、武器の上に装着してサポートする武器だ。武器につければ聖と火の属性がつき、元武器のレベルに応じて追加斬撃が増える装備。ラシアも似たような物は持っているが、これは剣用だ。


 ダンジョンで試しに水の中に入れてみたら、すぐに良い感じの湯になったので……この太陽剣はお湯を沸かす為に作られたのだろう。


「という訳でこれで湯にすればおk。鎖で繋いでおくので盗まれる心配も無い……というかこれだけで剣としては使えないからたぶん使い方知らないかな」


「……意味がわからんから使い方教えてくれ」


 そう言うので水瓶の水に太陽剣を入れたら良い感じのお湯になったが、そうじゃねーよ! とおやっさんに切れられたので厨房から前にできた+10の包丁を持ってくる。


 右手に包丁を持ち左手に太陽剣を持ち、一つにするように合わせると、太陽剣は消え、包丁が輝き始める。


 試し切りする物を探しているとおやっさんの前に果物があったのでそれを投げてもらいラシアが切る。すると一回切っただけなのに見えない斬撃が十回ほど果物を切り刻んだ後に燃やし、炭にした。


 さすがは課金アイテムとラシアは驚き、おやっさんはもう色々と諦め見ないようにする事に決めた。


「盗まれない様にしっかりとくくりつけておけよ」


「うぃっす」と返事をして包丁と太陽剣を切り離す。そしてアイテムバッグに仕舞い、まだ寝るには早い時間だったのでおやっさんに古城の事を尋ねる。言っていた様に、どこのエリアぐらいまで探索されているのかだ。


「俺が引退してからかなり経つから詳しくは知らんぞ」と言ってから、自身が覚えてる範囲で行ける場所を話した。ラシアはそれを聞きながら紙とペンを取り出しまとめていく。


 それで分かった事は、普通に行ける場所などは開拓されていて、一方通行やギミックを解除して行く場所はほとんど未開拓だった。


 そのついでにモンスターの声を聞いた事をおやっさんに相談しようとすると待ったがかかり、おやっさんの方からラシアに話があった。


「大事な事だから先に言っておく。もう白の騎士の事はバレると思ってこれからは行動しろよ。お前はバレないと思っているしこちらも手伝うが……流石に無理だ」


「え? もうそこまで追っ手が来てるの?」


 追っ手ってなんだよとおやっさんは笑うが、その目が真剣だったのでラシアは姿勢を正しておやっさんの話を聞いた。


 セレットの師匠がこのルインエルデに越してきた事、騎士達が知らないルートから白騎士が帰還してきた事、その事でギルドも城の情報が欲しいとの事。


「お前がやらかした訳じゃないし上手く隠せてはいる。だがお前が強いのと同じ様に、人を探すのが上手い奴もいる。情報を扱う奴もいる。本当にいろんな奴がいる……だからいつかはバレる。それは間違いない」


「セレットさんのお師匠さんも命狙ってる系?」


「お前は人を探してる奴を見かけたら命狙ってると思うのか? まぁこの際だ。悪く言っておく。権力を持ってる奴は人の都合なんかしらん。それは覚えとけ」


 ラシアは頭を抱える。確かに調子に乗った事は認めるが……人を助けてこんな面倒な事になるとは思っていなかったからだ。


「案外、自分から名乗った方がいいのかなー? それはそれでダルいな」


「やめとけ。周りが勝手に言ってるだけならそれだけだが、本人が名乗ったら色々と証明しないとダメだからな。強さやどこからその知識を知ったとかだな」


 おやっさんがここまで言うのだ。ラシアは自分が思っている以上に目立っているのだろう。だから別の街や拠点を変えてもきっと同じだ。


 そうなってくると、今まで通り知らん顔をするのが一番無難になってくる。相談できる人達もいるからだ。


「もうバレてるって思って行動する方が無難って感じか……」


「バレてたらここに来るわな。まぁ時間の問題って考えておけ。万が一バレないって事もあるだろうが……まぁないな」


「じゃあ……今まで通りで頑張って追っ手が来たら井戸に沈める方向で行くか。そういう訳でおやっさん困ったら相談乗ってね」


「おう。井戸は水が腐るからな。川に流すかその辺に埋めとけ」


 頭の痛くなる話ではあったが……味方がいるので良しとしてラシアは話を続ける。


 それは古城の中で人型モンスター、聖女オリスメニタから声を聞いた事だ。古城が未開拓ならそれでいいが……モンスターの声だけは気になる。


「初めて聞く名だな……」


「勇者ローリスの元お仲間。騎士達も知らないとは言ってたけど……なんか声が聞こえたので」


 ローリスの名前を出しておやっさんも思い出した様で、古城にいる勇者ローリスと剣聖ロビルカロンは初めて討伐された時に声を聞いたと言う話を聞いた事があるそうだ。


「俺が現役の時に初めて討伐されてな。その時にローリスは恨みを、ロビルカロンは感謝を口にして消えていったそうだ」


「って事はあの声も聖女の可能性あるのか……」


「十分にあるな。お前なら知ってると思うが……ダンジョンの中にある村があるだろ? あそこの連中も普通に言葉を話すしな」


「うげ……あそこあるのか。まぁそれはいいか……そういう訳で殺してくれとか頼まれても、私は嫌な訳でしてって話で」


 その悩みをおやっさんに告げると、おやっさんは笑いラシアに告げる。それはお前が強すぎるからの問題だと。


 自分を含めたほとんどの冒険者は自分を殺しに来る者に加減なんかしている余裕はない。いくら格下と言ってもだ。


 呼吸を止められれば死ぬし、刃に毒が塗ってあっても死ぬ。自分達が格上のモンスターを倒せるように格下のモンスターが自分達を殺せる事もある。


 油断さえあれば力量の差など一瞬でなくなる。冒険者は必死だ。


 だからラシアが考えている様に人型だとかそれこそ人とかは関係ない。やられる前にやるし、やってきてもやる。


 みな死にたくないからだ。


「それは私も十分に気をつけてるんですけど……どうも人を殺すのは無理だと思うわけでして……」


「だったら関わらない事が一番だな。それしかない。が、相手が関わって来た時の事は考えておけよって話が最初に繋がるわけよ」


「そういう時ってどうしたら良いんでしょうね。まさに命狙われてる訳で」


「まー相手が大公とかセレットの師匠じゃなかったらぶっ殺して終わりだが……それやると捕まって死刑だからな」


「ちょっと気になるし、古城いってしばらくその辺調べてきますわ」


「おう。なんか面白いもの見つけたら持って帰ってきてくれや」


「りょーかいッス」


 そんな感じで二人の話は続き、夜も更けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る