第56話 お持ち帰り

 無事に騎士達を送り届けたので、ラシアは静かに去ろうとするが、その騎士達を指揮するデゴットに呼び止められる。


「お前さんが噂の白い騎士か?……本当にいるとは思わなんだな」


「そちらの騎士達にも言ったが、自分からそう名乗った記憶はない」


「なるほどな……それは良いが娘と騎士達を助けてくれた礼を言おう。感謝する」


「気にするな。死ななくていいならそれでいい」


 もう行きたかったが、デゴットが勝手に話しはじめたので少し話を聞く羽目になった。


 この礼拝堂に湧く時間湧きのボスモンスターを倒していたら、急にイタズラ妖精が出現し、パルサー達を飛ばしたとの事だった。


 今日中に戻って来なければ諦めて撤退するとの事なので、部下を失わずに良かったと豪快に笑い、もう一度礼を言われた。


「それで? 噂の白い騎士様がなんでこんな所にいるんだ?」


 こういう時は何も言わないのは相手に想像させる余地を与えるので、嘘を言ってその方向を絞らせる。


「詳しく言う必要も無いが……古城の調査だな。だから騎士達を案内できるぐらいには詳しい。行きたい場所があれば教えてやるが?」


「それが正しいかを確認しながら進む程の余力はないな。こちらはもう帰還する時間だ」


 それなら用事は無いなと言ってラシアはその場を去ろうとすると、パルサーに呼び止められる。


「白騎士様! 助けて頂きありがとうございました!」


 もっとこうややこしい事になるかと思ったが、仲間を助けた事に感謝しているのか、他の騎士達も頭を下げたのでラシアは軽く手を上げてその場から去って行った。


 白の騎士の気配がなくなってからデゴットはパルサーに話しかける。


「デルパロア家の嘘かと思ったが……本当にいたとはな。それで? パルサー、どう見る?」


 白い騎士が進んだ先を見続けるパルサーにデゴットは話しかけるが、まともな反応は返ってこない。


「かっこよかった! 騎士とはあああるべきだ! 弱き者を助ける姿こそ騎士だ!」


 顔が恋する乙女の顔になっている。悪い事ではないが……まともに話が聞けるとは思わないのでデゴットは他の帰還した騎士達に話を聞く。


 地下聖堂に飛ばされた事。そこが未開拓のエリアだった事。そこで白い騎士に助けられた事。聖女オリスメニタという未発見の月齢の王を見た事。さらに未開拓のエリアを抜けてここまで帰ってきた事。


 ただそれらを遙かに凌駕する情報としては、やはり白の騎士の存在だ。自分達でも倒せないモンスターを即座に潰し、怪我をした騎士達を癒やし、やたらとモンスターやこの城に詳しかった事だ。


「さてと……どう報告するか……。本当に噂通り今までどこにいたって話だな」


「父さん。そこはやはり白騎士様は世界を回り、困った人々を助けていたんだろう!」


「お前な……それだったらもっと目立ってるはずだ。ここの調査とか言っていたが……聖騎士の加減か? 少し調べてみるか」


 そしてデゴット達は帰還石を使い王都へと帰還した。


 騎士達がそんな事になっている間に、ラシアは着替え、襲ってくるモンスターがいない隠しフロアのメイドの休憩室に避難していた。ここまで来ると帰還石は使えるので帰っても良かったが……少し気になる事があったので、ここまで来たならそれを確認してから帰ろうと思ったのだ。


 一つはゲームのサブイベントを達成していたらどうなるのか? という疑問だった。


 それを達成していると特定のモンスターが襲って来なくなるというイベントだった。だからそのモンスターが出現するエリアに来てみたが、襲われなかった。ゲームの仕様が引き継がれているかも知れないという事だ。


 モンスターの名前はアリス、イリス、ウリス、エリス、オリス。ふざけた名前の五人のメイドモンスターだ。


 本来なら襲って来るが……人型モンスターなのでどう見てもメイドが部屋の掃除をしている様にしか見えない。


 ラシアは近くの椅子に座り、五人のメイドの仕草を見て癒やされる。全員、超絶美人のモンスターだからだ。


 みんな可愛くてみんないい。まさにこれ。


 だけども全員レベルにして六〇越え。


 ホウキで掃いているアリスのホウキは仕込み刀だし、ぱたぱたと埃を落としているイリスのあれも刃がいっぱい付いた暗器だ。バケツで水拭きしてるウリスのバケツの中は猛毒で、皿を拭いてるエリスは遠距離から防御力無視の皿を投げてくる。オリスに至ってはワゴンで食器を運んでいるが……あのワゴンには火薬が詰まっている。


 だけどどう見ても……人間のメイド。


「心のチ○チ○がムラムラする!」


 と、馬鹿丸出しの事を叫ぶが、ラシアの性欲みたいなものは消えている。男の心に女性の体という状態なので相殺されているのか、そういう感情が出てこないのだ。可愛いと思っても、動物や小動物に向けるような気持ちに近い。


 ラシアはこのモンスターに少し思い入れがある。薄い本でお世話になったとかではない。


 ゲームを始める前にこのメイド達がゲームの宣伝をしていたからだ。


 キャッチコピーは可愛いメイド達と旅をしよう! みたいな嘘の広告だった。


 全然仲間にならないやんけ! と叫んだのは良い思い出だ。


 少し昔を思い出して気持ちが落ち着いてくると、ずっと戦っていたせいで眠くなってくる。このエリアには襲ってくるモンスターはいないので、少し仮眠を取る事にする。


 ……

 …………


 二時間ぐらいだろうか。ラシアが目を覚ますと、布団の代わりにメイド服が掛けられていて、頭元にはリボンが付いたアリス達の頭装備が置かれていた。


 だれの仕業と思うが、五人のメイドしかいない。仮眠を取る前と同じ様にアリス達は掃除をしている。


 と、いうか普通にレア装備だ。可愛い装備なので、ラシアの様な女性キャラからはとても人気がある。ただかなりの低確率なので狙って落ちる物では無い。アリス達も他のエリアにはいるが、配置数が少ないのも一つの原因だ。


 戸惑っていると近くを掃除しているアリスと目が合う。


「……これもらって良いの?」


 コクン。気のせいかも知れないがアリスは頷いたように見えた。


 ラシアは礼を言ってその装備をアイテムバッグに仕舞った。


「おんなじ服ばかり着てるし、宿にいるときはメイド服着るか。おやっさんの仕事は手伝わんけども」


 気分的なものだが、何かしてもらったら何かを返したいとはラシアは思う。だからできる事を考える。レア装備に見合う物はないのだが……


「あーそうだ。この部屋の隣にアリス達をモンスターにした奴がいたな。それぐらい倒していくか」


 アリスたちに礼を言って隣の部屋に移る。そこには悪魔のヒューマンテイマーというモンスターがいた。


 ラシアはすぐに近づきハンマーでたたきつぶす。こいつは戦闘に入ると、自分より強いアリス達を召喚する。なので見たら即座に倒すのが鉄則だ。


 肉の塊に顔が付いたなんとも気味の悪いモンスターだが、強い訳ではない。


 魔石を回収していると不思議な事が起こる。


 散らばった肉片から白いモヤのような物が立ち上り、人の形をなしていく。


 ゲームではこんなのなかったと考えていると、それはアリスたち五人の姿になった。


 そして何も言わずにラシアへ頭を下げ、そのまま消えていった。


「えっ? どういうこと?」


 意味が分からず先の部屋に行くが、変わらずアリス達は掃除をしているのでラシアは狐につままれたような変な気分になった。


 レア装備ももらって少し寝て気分がいいラシアは進んでいく。


 宝物庫には少し遠いので今度で良いとして、行くのは調理場だ。武器庫の武器が持って帰られるのが分かったので、次は調理器具を狙おうという訳だ。


 時代的にはおかしいが……ゲームを作った方も気にしてない様でステンっぽい寸胴鍋やホットサンドメーカーとか泡立て器みたいなのがグラフィックとしてあったのだ。


 そこに行って調理器具をパクって、王女の寝室に行ってティアのお土産を探して帰還の予定だ。


 調理場に行くとでっかい包丁を持ったデスコックというモンスターやマウスマンコックといったモンスターが現れるが、問題はないので即座に倒して魔石を回収する。


 そして調理場の中を物色すると……記憶通りに泡立て器やホットサンドメーカーが壁に掛けられていた。


「これを使うのは抵抗あるけど、よく洗って煮沸すれば良いか。おっ! 蒸し器発見! 使い方しらんけど」


 寸胴鍋やトングや菜箸などをアイテムバッグにぶち込んでいく。ラシアが使えなくてもおやっさんが使うだろうの精神だ。お土産みたいな物だ。


 そして次は王女の寝室だ。


 ここにはモンスターはいない。この部屋の持ち主は腐ったロリコンの取り巻きモンスターとして現れる哀れな少女だ。


 ゲームだと机の上に小さな王冠が置いてあったはずなので、それがティアへのお土産で良いだろう。


 部屋に入ると中は想像通りにだれもおらず、朽ちていた。


 そして目的のものを探すと、それだけは朽ちずに輝きを放っている。金では無いがそれよりも輝き、中央にはなんか高そうな宝石が輝いていた。


「呪われているとかそう言うの聞かないからこれがよさそう。ティアちゃん服とか宝石とかよく見てるから、おやっさんに言わないだけでこういうの欲しいんだろうな。今回はこれだけ。喜んでくれたら次は宝物庫に行く」


 もし呪われてたら話にならないので、呪いを解くアイテムを使用してアイテムバッグに仕舞った。


「これで大丈夫だろ。あっそうだ!」


 隣の部屋に王女専用の浴室があったのを思いだす。浴槽が使えそうなら部屋でこそっとお風呂に入りたいので、ラシアは部屋を移り浴槽も強奪する。


「はははっ! 苦節数ヶ月、私はようやくお風呂にゆっくり入れるかもしれない!」


 あとは帰るだけ。ここまで来たら帰還石を使わずとも帰られる距離なので歩いて帰ることにする。


 隠し通路を通ったりして進んで行くと……数人の気配がした後に声が聞こえる。


「あれ? ラシアさん?」


 呼ばれた方向を向くと、そこにはパーティーで狩りをしているノアがいた。

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