第48話 お留守番

 今日はおやっさんとセレットが王都デートなので、ラシアはティアの面倒を見るためにお留守番だ。


 連れて行ってあげても良かったのでは? と思ったが、一般人はポータルを使えないと聞いたので、ティアは行きたくても行けない感じだろう。


 そればっかりは仕方がない。


 モンスターが跳梁跋扈する街道を子供を連れて二週間もかけて王都に行くのはどだい無理な話である。


 そんな事を考えながら眠そうに朝食を食べていたら、おやっさんに呆れながら文句を言われた。


「お前な……もっとしゃんとしろよ。女なんだから櫛ぐらい通せ。頭爆発してんぞ」


「そんな事を言われましても……眠たいもんは眠たいんですわ。おやっさん」


 この世界の住人の朝は早い、というやつだ。体感だが元の世界だと朝の五時とか五時半ぐらいだと思う。


 おやっさんは宿のことがあるから仕方ないとして……冒険者とかも起きて活動を始めてる。


 まぁ夜は八時過ぎたら何処も寝始めるのでそんな物だとは思うが……元の生活から考えると寝てる時間なので眠いのだ。


「ラシアちゃん少しくせ毛で毛の量多いからライオンマンみたいになってるわね」


「ラシオンさんだね!櫛通してあげる!」


 ティアに礼を言いながら、ラシアはまだ眠そうに朝食を食べる。


 ゲームだと長い髪は邪魔にならないが、現実だと本当に邪魔になる。ぼうずにはしなくても良いが、かなり短く切った方が楽なのではないかと思う。特に頭を洗う時とか。


「……長い髪の毛ってめんどくさ過ぎる」


「なんで伸ばしてるんだよ……」


「いっその事、短く切った方が良いような気がしてきた」


「「それはダメ!!」」


 女性陣の凄まじい抵抗があり、ラシアが髪を短く切るという選択肢は消えた。


 そして朝食の片付けが終わり、今日は一階の道具屋も休みでおやっさん達は冒険者ギルドのポータルへと向かう。


「そういう訳で頼んだぞ。出る時は鍵閉めとけよ」


「泥棒とかきたらどうすんの?」


「半殺しにして家の前に吊しとけ」


 やったらやったでガチ切れされるんだろうなとラシアは思いながら、おやっさんとセレットを見送った。


「ラシアさん!今日はなにする?買い物いくんだよね?」


「お店ってもうやってるの?」


「うん!ラシアさんは起きるの遅いけど、お店の人はもう起きてるよ!」


「いやいや……私が遅いんじゃ無くて周りが早いだけだから」


 昼から行くよりは早めの時間帯に出てさっさと買い物して宿でのんびりする方が良いだろうと考える。


 おやっさんはああは言っていたが、長時間空けない方がいいだろう。冒険者が戻ってくる事もあるだろうし、火の心配もある。空き巣とかの事もあるだろう。


 でもこの世界はアイテムバッグがあるので、貴重品などは持ち歩くのが主流で、一般の家に泥棒が入る事は少ないそうだ。


 厨房や宿をチェックして鍵をかけてから二人は外に出る。


「ラシアさん。今って部屋にお客さん泊まってなかったの?」


「うん。気配探ったけど……屋根裏にネズミが数匹いたぐらいだからたぶん大丈夫。もし誰かいたら……後でおやっさんが謝る」


「ラシアさんが謝らないの!?」


「部下が失敗した時に謝る為に上司がいるんですわ。今日はおやっさんに雇われているから全てはおやっさんの責任」


「なるほどー」


 冗談でそんな事は言うが、後で謝る手間を考えればそんな事はしたくないので、各部屋の前まで行ってちゃんと気配を確認し、今は誰もいない事は分かっていた。


 そして二人は市場の方へと向かう。


 昼に比べれば人は少し少ないが、ダンジョンに行くと思われる冒険者が食料を買ったり、商人達が仕入れをしていたりと想像していたよりは遙かに人が多い。


「ラシアさん。何を買う?」


「んー……今日はティアちゃんも休みだしゆっくり見ながら考えよう」


「分かったー」


 王都ぐらい人がいると酔うが、これぐらいの人なら酔わないし話しかけられなければ何の問題もないのだ。


 普段はおやっさんが作る物ばかり食べているので、こういう市場は通り抜ける事が多いのだが、改めて見ると色々な物が売っている。


 塩などは岩塩が取れる場所があって、冒険者の護衛の依頼などもあったりするので流通が安定しているし必需品なので安いし手に入る。


 砂糖などは技術+設備+流通が関わってくるうえ、贅沢品の類いなので結構高め。


 魚とかは売っているが衛生的にどうなのって言うのもあるが、魔法で凍らせた物が売っていたりもする。


 肉も同じ様な感じで吊してある物もあれば凍らせてある物もあるといった感じだ。


「ラシアさんは何か食べたい物あるの? 何作るの?」


「んー何か肉系の物食べたいかなー」


「ラシアさん。お肉系好きだもんね」


「思いや言葉は伝わらないけど肉は伝わるからねー。っぱ肉よ肉」


 ティアに何言ってるの?と不思議な顔をされていると肉屋の店主に聞かれていた様で「良いこと言うなー」と感心され、おすすめの肉を丁寧に勧められたので肉料理の方向で決まった。


「豚系の肉か……なんかこう久しぶりにカツ丼が食べたい!」


「カツドゥン?」


「ドンねドン。ティアちゃん。米って売ってる?……わかるかな?」


 食事系のアイテムだとおにぎりとかあるけどこの世界だとどうなんだって話になる。宿にはないし主食はパンのはずだ。


 あれば嬉しいなーぐらいの感じだったが、ティアはあるよ!と言い場所も知っている様だった。


 好みの問題で宿では提供してないとの事。洗ったり炊いたりするのがめんどくさいのでおやっさんパン派だそうだ。


 お店に連れて行ってもらうと確かに米が売っていた。その事にラシアは少し感動する。ただ輸送料とかその辺の加減でパンよりは少し割高だった。


 本日だけなので少量を購入する。


 後は……小麦粉買って卵買って、パン粉はたぶんないので固いパンを砕いて代用して、油を買って、果実ペーストで塩+出汁の甘辛な感じは再現できそうなので、カツ丼作りを強行する事を決意する。


 そして最後に小麦粉を買ってもまだ早い時間だったので……お菓子でも食べたくなりクッキーでも焼くかとなった。ちょうど近くにバターも売っている所があったのでそちらで購入し宿へと帰還する。


「ラシアさんってお菓子つくれるの?」


「簡単な物だけどねー」


 そんな話をしながら歩いていると、都市の中央にある噴水の近くに人だかりができていた。何だろうと思ってラシアとティアが遠目から眺めると、どうやら聖騎士と思われる人達が演説のような事をしていた。


「正義は我らにあり!困っている者を助ける事こそ我らの使命。正義の名の下に共に魔物を倒し人々の為に戦おう!厳しい訓練は待っているが私達は君達と共に戦える事願っている」


「ティアちゃん。あれって勧誘? 君も聖騎士にならないか? みたいな感じ?」


「そんな感じ。見かける時はあの辺でよくやってるよ」


 集まってる人達に話を聞かせたり刃を落としてある剣を子供達に触らせたり見せたりしていた。


「お父さんはああ言うの嫌いみたいで見ると難しい顔してるよ」


「なんか想像するのが簡単すぎる……」


「何が正義だ。アホかって言ってたよ。なんでだろ?」


 簡単に想像できるなとラシアは笑いながら思う。困ってる人がいてもああいう人達は助けないのが基本だからだ。助ける人もいるだろうが……大半は自分の為。人って基本的にそんなもんだ。


 言葉だけはきれい。ラシアは一般人だから正義とかは分からないけど、悪は分かる。


「ああやって戦わない人達に理想を語って戦いに引き込むのは悪だからね。ティアちゃんの大事な人があの話を聞いて戦いに行ったら嫌でしょ? おやっさんもそういう事じゃないかなー」


「なるほどー。じゃああの人達より肉の方が凄い?思いや言葉は伝わらないけど肉は伝わるってラシアさん言ってた!」


「そういう事。時には戦わないと駄目だろうけど……そう言う事はできるだけ避けつつ、皆で仲良く肉喰え。それが正解」


「肉が嫌いな人は?」


「相手を尊重して野菜も食え。押しつけは駄目」


 分かったのか分かってないのかはラシアには分からないが、宿屋の女将になると力強く言っているので、それでいいと思って宿へと帰っていった。


 宿に戻ってまだ早い時間だったのでラシアは先にティアとクッキーの下地を作る準備をする。


「髪の毛が邪魔すぎる……」と言ってラシアは長い髪を縛りポニーテールにする。


「ラシアさん可愛い!」


「え?そう?ありがとう」


 二人がそんな感じで楽しんでいる頃、おやっさんとセレットは王都の中にある大きな建物の中で真面目な話をしていた。

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