第44話 月齢の王

 トイレの匂いが消えた事が嬉しくて、必要アイテムを落とすモンスターを倒しまくっていたら夕方になっていた。その日は無理せずダンジョンの中でラシアは休息を取ることにした。


 一階と二階は襲ってくる魔物が出ないので、三階に繋がる階段の近くで休息を取る。苗木のダンジョンや沼地のダンジョンと違って休憩している者がまったくいない。


 襲ってくるモンスターがいないので他の所で休憩してる事も考えられるが、ほぼ一日ダンジョンの中をうろついても人と遭遇しない。戦闘音すら聞こえないので、本当に人気が無いんだなーとラシアは思う。


 そんな事を考えながら壁にもたれ仮眠を取る。襲ってくるモンスターがいないとはいえ何があるかは分からないので熟睡はできない。


 ただこの体の性能が異常なので樹海でも分かった事だが、寝ていても一定の距離にモンスターが入ってくると目が覚める。


 ノアやエリエスが近寄って来た時はそういうのは無かったので、多分だが敵意があるとかそう言うのだろうとラシアは思った。


……

…………


 そして明け方近くになると何かが近づいてくる気配がして目が覚める。


 あきらかにスカルピッケルや鉱石コロガシといったモンスターの気配ではない。人の気配だ。


 アイテムなどは全てアイテムバッグの中に仕舞ってあったので、気配がする通路とは逆の方向に行ってから隠れて様子を伺う。


 足音がかなりの数聞こえるので大人数だと思っていると、甲冑に身を包んだ者達が約10人ほどやってきた。


 パラディンが一番多いが、プリーストやモンクといった支援職もいて、ウィザードであろう者もいた。


 様子を伺っていると隊列を組みだし、パーティーのリーダーであろう者が話し始める。


「次の階より、月齢の王がいる。降りた場所にいることもある。皆、引き締めて討伐に当たるように。討伐の成功は我ら聖騎士の誉れと知れ!」


「「「はっ!」」」


 あれが聖騎士って人達だが見た目は冒険者とは変わらないなと思いながらラシアは階段に近づく。


 それから少し待ってから三階へと向かう。降りた人達と会うのを避けるためだ。


 三階からは坑道ではあるがかなり広い空間が広がっており、襲ってくるモンスターも出始める。


 さっきの人達も時間湧きのボスを倒しに行くのが目的なので、この辺の雑魚を相手に苦戦する事もなく進んでいる様子だった。


 三階からは襲ってくるモンスターが現れ始める。スカルピッケルの進化版のスカルトロッコやコウモリマンとその進化形であるバットマンだ。


 作った会社が日本の会社なので割とお遊び要素も多く、モンスターもそういう所がある。


 コウモリマンは二種類ほど進化先があるモンスターで、このダンジョンに出てくる方はバットマン。


 コウモリ人間がユニホーム着て帽子被ってバットを持ってるモンスターだ。進化すると黄金バットマン。


 スカルトロッコもスカルピッケルがトロッコに乗ってレールを爆走してるモンスターなのだが、レールが無い所はどうしてるんだろうとラシアが不思議に思っていると、前方から凄い勢いでトロッコが走ってくる。


 来る途中でレールが切れていた様な記憶があるので、避けるとどうなるのかと考えスカルトロッコを避けると、レールの切れ目で飛んでいった。


「いや、そうはなるんだけど……トロッコの部分もモンスター扱いか?」


 などと考えているとまた前方からトロッコが来たので、次は倒して素材や魔石を回収し先へと進んでいく。


 先に進んでいる聖騎士達もまだトロッコVを見つけていないようで遠くから戦闘音などは聞こえない。


 雑魚モンスターは無視しているかサクサク倒しているのだろう。


 ラシアがこのダンジョンのボスモンスターを選んだのには少し訳がある。


 それはゲームだとお遊び要素があるモンスターはどうなっているのか? と言う物だ。


 このダンジョンのボスはスカルピッケルの最終進化のピッケルレンジャー。昔やってた戦隊物のオマージュみたいなモンスターだ。


 スカルピッケル→スカルトロッコ→ピッケルレッド→ピッケルレンジャーの順で増えて進化する。


 で、時間湧きのボスはトロッコV。戦隊物で言う所の合体ロボットで、ファンタジーの世界でそれが動くのか、それとも別のモンスターに変わっているのか? という疑問だ。


 世界観に合わないが……モンスターはゲームなので仕方が無いとラシアは笑う。


「まぁ作った方もある程度は世界観は寄せてたな。設定集とかだとこの鉱山の深部から採掘された古の技術を使ってどうのこうの。それに選ばれたスカルピッケルがどうのこうの」


 色は赤、青、黄色、緑、ピンクだが形はモンスターで出てくる古代のゴーレムに似ている感じだ。


 少し楽しみだなと思いながら、ラシアもトロッコVを探す。聖騎士達も探しているし、大きいはずなので倒されていなければすぐに見つかるだろうと考え探すが……三階にはいなかった。


 そして気をつけながら四階へと降りていく。


 四階からはかなり広い坑道が広がり、ピッケルレッドといったモンスターも登場し始める。


 普通にウルフマンやワニマンよりも強いので、ノアならいけるだろうがダード達にはまだ無理だろうなとラシアが考えていると、坑道に響くように爆発音が届いた。


 戦闘音だ。


 四階からは深さもあるのでラシアはすぐにその方向に向かって走って行く。


 すぐにそれは見つかった。


 ラシアの足下に広がる場所で聖騎士達がとてもカラフルなロボと戦っていた。


 ラシア的にはビルぐらいの大きさを想像していたが、聖騎士達との大きさを比較すると高さは電柱ぐらいだった。ただ体の太さがあるので思ったよりは大きくは見える感じだ。


 戦闘に巻き込まれては大変なので、ラシアは隠れながら十人の聖騎士達とトロッコVの戦いを眺める事にした。


……

…………


 三十分近く見ていた感想は……分かり切っている事だがゲームと違う。


 まず聖騎士達だが、レベル的には絶対に倒せない相手でも、連携や知恵で一人一人が互いをカバーし戦っているのでかなり善戦している。


 トロッコVはゲームと違い高速で攻撃してくる事はない。DPSでのダメージだともっと出ていたが、一発の攻撃に重きを置く感じになっている。当たれば即死だと思われるがその辺の技術は聖騎士が上の様で上手くいなされている。


 ただ、HPは分からないが防御といった堅さは健在なようで、いくら攻撃されようがほとんどダメージを受けていないように思えた。


(なんというかこちらが回復薬をガブ飲みできないみたいにモンスターもできない事があるんだな。ゲームだとモーションの都合で前方向に攻撃してるのに後ろの人にも当たる感じが無い)


 なるほどと一人で納得していると決着がつきそうだった。


 トロッコVが拳を大きく掲げ、そこから地面に叩きつける攻撃をする。


 アースクェイクだ。地面が激しく揺れ聖騎士達が立てなくなりスタンする。


 そしてその隙にトロッコVが全体攻撃を仕掛け、聖騎士全員が吹き飛ばされる。


 全員がトロッコVへの対策をしていた様で即死した者はいなかったが、足は変な方向を向き、持っていた武器が体の何処かに刺さっている者もいた。


 目立ちたくは無いが……人の死と比べる物では無いとラシアは覚悟し、聖銀鋼の鎧にすぐに装備し直す。


 だが、勝てないと分かった聖騎士達の行動は速かった。


 すぐにリーダーであろう先ほどの男が大きな声を上げる。


「このたびは失敗だ!全員即座に帰還する!」


 そして懐から何かのアイテムを取り出す。ラシアもよく知っているゲームで何度も使ったアイテム。『帰還石』だ。


 それを即座に地面に叩きつけると、聖騎士全員が光に包まれた後にすぐに消えた。


 何処に行ったのかはラシアには分からないが、ゲームの効果と同じなら帰還石はダンジョンから脱出するアイテムだ。


「そら、まー。ゲームのアイテムやモンスターがいるなら、帰還石もあるよな……でも王都では見ないし売って無かったぞ?」


 何か理由があるっぽいので戻ったらおやっさんに相談しようと考える。


 目の前には放置されているボスがいるが、ラシアは目立つ事を避けたい。聖騎士の世間の反応は知らないが、そういう人達が十人で戦って勝てないモンスターを一人で倒すのはあきらかに異常だ。


 だからラシアは帰還する事を選ぶ。


 だが……トロッコVとラシアは目が合った。


 それが戦闘の始まりだ。初手はトロッコVの攻撃。プレイヤーが離れている時に使う攻撃だ。


 胸の辺りが開き、光が収束し始める。そして一本の光がラシアに向かって放たれる。


「ちょ!まっ!!」


 ラシアは寸での所で攻撃を躱し、トロッコVの前へと飛び降りる。


 戻ろうと思っていた道を塞がれたからだ。


 道はトロッコVの後ろにある。


 倒さなくてもにげる方法はあるが……ラシアは聖銀鋼の鎧を身にまとっている。


「時間湧きボスの行動も気になるし……倒すか」


 ラシアと時間湧きのボスモンスターの戦いが始まった。

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