第40話 変わる事

 ノアはため息をつきながら王都からルインエルデに戻って来ていた。


 加入しているクランの本拠地が王都にあるので、そこからダンジョンに行ったり依頼を受けたりしているが、母親がルインエルデにいるのでちょくちょく顔を出したり手伝いに来たりしている。


 そんな母が店を閉め再婚したので前ほどは戻らなくても大丈夫だが……やはり気にはなるので戻ってくる事は多い。


 ようやく目的の宿屋が見えてくる。妹になったティアが宿の前をほうきで掃いている。


 そして目が合う。


「あ!ノアお姉ちゃんお帰り!」


「ティアちゃんただいまー」


 荒んだ心にティアの笑顔は特効薬だなーとノアは笑う。


「お母さーん!ノアお姉ちゃん帰って来たよ!」


 近くにいたようで「わかったー」と返事が聞こえる。元気そうで何よりだが……ティアが自身の母親をお母さんと言ったのが驚きだ。


 前はおばさんかセレットおばさんと言っていたはずだが……良いことだと思う。


 ノアはティアと共に宿に入っていく。


 また改装したようで中は少し広くなり、一階の半分ぐらいで魔道具を販売していた。


「なんか?広くなってない?」


 その疑問にティアが答える。


「屋根が吹き飛んだから!」


「なんで!?」


「ないしょー」


 奥からセレットもやってきて、ティアと同じように内緒と言った。


 仲良くなるのは良いことだが……微妙に疎外感は感じるのが悲しくなる。この街が拠点ではないので仕方のない事だが。


 ノアはもう一度大きなため息をつくと母親に大丈夫かと心配される。


 肉体的な疲労ではなく精神的な疲れだ。


「ラシアさんをクランに誘おうと思って時間がある時に王都のギルド探してるけど、まったく見なくて。目立つからいるなら分かりそうなんだけど、拠点変えたのかなー?……あとギルドから勧誘の通達を出したけど断られて……」


 落ち込むノアをよそにティアとセレットはとてもいい笑顔で告げる。


「ラシアちゃん。この宿に戻ってきてここを拠点にしてるからね~」


「!?なんで!?」


「人多いからだめって言ってたよ。ダンジョン行くだけならここでいいって」


「そうかも知れないけど……王都の方が便利だよー。色々売ってるし、お風呂があってトイレもきれいだよーラシアさん」


 本人がいるのかと確かめると今はダンジョンに行っていないとの事だったので、ノアはテーブルに顔をうずめる。


「ラシアちゃん。話せば面白いけど……極度の人見知りだからクランは嫌だと思うなー」


「私もノアお姉ちゃんが言ってたって言ったけど絶対に嫌って言ってたよ」


 いくら強いと言ってもラシアは女性だし、ノアは色々と心配だった。それに強い人や将来性のある人はクランに誘うようにしている。


 だから一緒に遭難したダード、ビエット、エリエスの三人を誘い、クランへと加入してもらった。


 彼らも少しはお金を入れてもらわないと駄目だが、王都で宿を借りて生活するよりは圧倒的に安いし便利なのでその方が良いはずだ。


「ラシアさーん。クラン入ってー私もっとお話したいよー」


 そんな娘に母は言った。


「ノアちゃん。……ラシアちゃんから嫌われる事したの?」


「してないよ!……そもそも試験以降会ってない……というかお母さん。ちゃん付けはなれなれしくない?嫌がられるよ?」


 そんな娘に母は勝ち誇ったように告げた。


「大丈夫。お母さん、ラシアちゃんと仲良しだから~」


 母の戯れ言かとノアは笑うが……そうでもなくちゃんと仲良くなっている。


 ラシアが必要とするアイテムがあれば材料を渡しセレットが作る。娘二人を助けてもらった事もあるので、セレットはラシアに余計な事は聞かない。


 ラシアもその事がありがたかったので友人とまでは行かないが、冗談も言えるぐらいに仲は良くなっている。


 ラシアが屋根をぶっ壊した夜に、異世界から来た等は言ってないが、大公の娘たちを助けた事などをラシアはおやっさん、セレットの二人に話したのでお互いが歩み寄った感じになったのだ。


「今日も朝ご飯を私とラシアちゃんティアちゃんと食べるぐらいに仲良しだしねー」


「ねー」


 妹がラシアと仲良しなのは知っているが、母にまで抜かれるとは思ってなかったノアは敗北を覚える。


「ちょっとラシアさん探してくる!私も仲良くしたい!」


 慌てて立ち上がる姉を制したのはティアだ。


「お姉ちゃん!そういうのラシアさん嫌って言ってた!」


「え?そうなの? って思ったけどそれっぽい! けどなんでティアちゃん知ってるの?」


「公園で一緒におかし食べた時に言ってた!」


 自分はろくに話もしたことないのに……妹はどうしてデートまがいの事をしているのだろうとノアは頭を抱える。


「ノアちゃんも大変ねー」


「お姉ちゃんもここからダンジョン行けばラシアさんと仲良くなるよ」


「クランの加減があるから無理……ラシアさーん帰ってこーい」


 宿がそんな事になってるとは知らず、ラシアはくしゃみをする。


「はーくしゅん!!」


「ラシアさん風邪ですか?」


「時期的に花粉かなーって思うけど、ダンジョンで花粉症とかあるのかな?」


 一人が大好きなラシアだが、今日はダンジョンにパーティーで来ていた。お相手はエリエスだ。


 ダンジョンに行く前に魔法が載っている本はどんな感じなのかと思い、ギルドへ行くまでの通りにある魔法屋に寄った所、ちょうどエリエスがいたのだ。


 一緒に死地を抜けた間柄なので会釈ぐらいしてから行こうと考えていたのだが、持っている本に嫌な予感がしたので話しかけたのが一つの原因だ。


「エリエスさん。こんにちは。その本は?」


「あっ!ラシアさん!こんにちは!ノアさんに誘われてクランに入って、魔法の事を相談したら皆さんがあったら便利な魔法を教えてくれたので買いに来たんですよ!王都には無かったのでここまで来ました!」


 赤い本が炎系で青い本が水系というなら嫌な予感がしたので、どんな魔法? とラシアはエリエスに尋ねた。


 するとエリエスは丁寧に話し始めた。


 火をつけたりするのに便利で攻撃にも使えるファイヤーボルトに、モンスターが侵入してきたら分かるウォーターフィールドや味方をサポートする風の加護など、様々な属性の本を手に取っていた。


 樹海での資金が残っているようで魔法を強化するとの事だが……ラシアはかなり悩む。


 エリエスが使える魔法はロックバレットとマッドウォールだ。どちらも地属性。


 だから新しく魔法を覚えるなら方向を決めて特化させた方が強い。


 炎なら火力、水はバランス、風は速度、地は防御といった特性がある。突き詰めれば炎属性には火力で負けるが……地属性は特化させればラシアの攻撃を防ぐ程に固くなれる。


 だからゲームなら数多く魔法を取るより、特化させる方が強く需要もある。


 ……ただ、この世界はゲームではなく現実。色々できた方が良いのだが、火をつけたりするのはアイテムで良いし、モンスターを察知するなら二人で見れば良いし、サポートしたいならプリーストみたいな専門職に任せればいいのだ。


 ラシアが言うのはおかしいが、自分ができない事は仲間に任せる。それがパーティーだと思う。


 かと言ってエリエスにはエリエスの考えがあるのでラシアはそこを尋ねる。


「エリエスさんは、どういう魔法使いになりたいんですか?オールマイティに全部できるタイプか、火力でなぎ払うタイプ。もしくは仲間を守るタイプ」


「え?どういうタイプですか?」


 とエリエスは言った後に悩み始める。


 少し時間が経った後にエリエスはラシアに告げる。


「私は……仲間を亡くしているので皆を守れるような魔法使いになりたいです。遭難した時もそうですが……ラシアさんがいなかったら死んでいましたので……何度も助けて頂いて本当にありがとうございます」


 仲間を亡くしてすぐにパーティーを組んでいたが、気にしていない訳ではない。その時の事を思い出したのかエリエスの瞳には涙が少し溜まっていたからだ。


 その事をラシアは心の中で謝り、話を続ける。


「ある程度参考になるとは思いますが……特化させましょう。水や炎ではなくエリエスさんは地属性をメインで」


 ラシアは地属性の魔法のある場所に行き、泥沼のフィールドを作り相手の速度を奪うマッドフィールドと地面から岩が飛び上がり攻撃するロックボルトを勧めた。


 ゲームならこの二つを取ると派生スキルでアースニードルというスキルを覚えるからだ。


 するとエリエスは今まで手に取っていた本を全て本棚に戻してラシアおすすめの本を手に取った。


「その二つを買います!」


「エリエスさん……参考ですからね」


「ラシアさんが嘘をつくとは思わないし、樹海で鬼神の如き強さを発揮したラシアさんですからね!絶対にこれを選んだ方が間違いないです!」


 ラシアが何かを言う前に店員さんの元に行き、その二冊を買ってきた。


 そして変に勧めた自分も悪いし、派生する系のスキルを確かめたいのと、もう一つ少し重要な事がある。


 モンスターが使う魔法を見たら覚えられるのかという疑問があったので、ラシアはエリエスとパーティーを組んで沼地のダンジョンに来ている。

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