第2話 何かが始まる音がした
しかし、ショックを受けている場合ではなく、乙女ゲーム転生だろうがなかろうが顔色が悪い生徒を教師が放置するわけにはいかないだろう……とシリウスは公爵令嬢を見る。
しかし……アレだ。シリウスは情緒が育つような環境で生きてはこなかったし、人に優しくとか「ナニソレ美味しいの?」状態でここまできた。
常識として知ってるのと、実際出来ているかはまた別な話なのである。
つまり、初対面で優しく声をかけるとかどうすれば?状態なのである。しかもシリウスの表情筋は仕事をしないので、相手が公爵家の令嬢で、何時ものように声をかけて不敬とか言われたら説明が面倒だな…とも思い、シリウスは二の足を踏んでいる。
「きゃっ!」
「おっと!」
あれ?なんか別なところで別な話が始まってないか?と、シリウスが声がした方を見ると――美少女が転けそうになって、それを第一王子が支えているのだが、二人で見つめあって背景に花の幻影が見え、鐘の音の幻聴が聞こえる、恋愛物語の始まりのワンシーンのような――幻視をしてしまった。
「オープニングスチルっ……」
成る程、とシリウスは公爵令嬢の呟きで納得した。
というより王子が美少女を支えるとか、王子の護衛何処いった?もし美少女が暗殺者なら王子死んでるぞ?と次の瞬間には違うことが気になった。
「大丈夫かな?」
「は、はい!ありがとうございまッ!?」
「おっと、もしかして足を捻ったかな?医務室に行こう」
「えっ、きゃっ!?」
おい?本気で王子の護衛どうした?王子が美少女を姫抱っこして行ってしまったぞ?と内心慌てるシリウスだが……
「……『教員各位に連絡。第一王子が同じく新入生の令嬢を抱き抱えて医務室へ向かったので途中で令嬢を受け取り、王子には入学式の会場へと移動していただけ。あと王宮からの護衛がどうなってるか確認しろあんなもん暗殺しほうだいだぞ』」
冷静に、シリウスが開発した教員連絡用のピアスで他の教員全員に連絡をいれた。王子から令嬢を受け取ったという連絡がきたので、一安心。また王宮へと確認する旨も伝えられた。
因みにシリウスがやり過ぎて、この学園には監視カメラやらなにやら防犯装置が設置してあるが、生徒に偽装されると事後にしか対応出来ないので護衛は必要である。
「そこの、顔色が悪いが……体調不良ならば帰れ」
一段落したので立ち止まったままの公爵令嬢に声をかけたシリウスだったが、公爵家の従者は顔色が悪い主に声もかけないので、無能なのかもしれないと思っていることは内緒である。
「え、あっ、大丈夫です。失礼しましたわ」
声をかけられて漸く現実に戻って来た公爵令嬢は、まだふらついているようだが第一王子の婚約者であり公爵家の令嬢が体調不良で式を欠席というわけにはいかないと、会場へと歩いて行った。
(貴族ってめんどくさいよな)
漸く入学する生徒に花を渡し終わり、シリウスも入学式が行われるホールへと移動した。
錬金術は不人気授業なのでシリウスはひっそりこっそり壁に同化するレベルで気配を消して参加する。
(教師を全員参加にする意味よ。本当にこの世界の人間は無駄が好きだよなぁ、もっと効率的に生きれば良いのに。あと、無駄に俺を巻き込むな)
今回はシリウスも参加しなければならない理由があるが、毎年の居なくても良いのでは?と思うので思わず心の中で愚痴を吐いて待つ。
『続きまして、魔法戦闘学教員が一人体調不良で休職しますので、錬金術科のシリウス・ウォーカー教授が兼任されます』
(はぁ、錬金術科が暇だからって、なんで俺が……)
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